第11回 金枝篇ってなぁに?

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【初めに】


 クトゥルフ神話TRPGで魔術書として紹介される本の中で、貴重な現実で読める本こと金枝篇を読んでみました。


 みんな大好きデモンベインでも、地☆球☆皇☆帝とか名乗って悪の幹部特有のニューリーダー病にかかってしまったアウグストゥスさん。彼が契約した魔道書として名前が出ていますね。


 当然ながら和訳版です。神成利男訳、石塚正英監修 『金枝篇‐呪術と宗教の研究』の一巻と二巻、「呪術と王の起源 上・下」を読んでみただけなので、内容に不備など有ったらごめんなさい。


【概要~どんな本?~】


 現在のイタリアに有るネミの森には、森の王と呼ばれる司祭が居る。これは森の中にある聖なる木から枝(これが金枝)を折り取った逃亡奴隷が前任者を殺すことによって選任される。


 キリスト以前の古くから存在する儀式にも関わらず、ローマの時代までは行われていたこの儀式について、文化的にどのような意義があったのかを考察する本です。


 原始的な呪術から中世的な宗教、そして王について考察をした人類学の真面目な本です。少なくとも私が読んだ範囲ではそうでした。


 しかしとにかく長い。


 これは著者のフレイザー氏が自らの論を語るために、世界中から民族的な呪術や儀式について片っ端から集めまくったせいです。


 手順についてもそこそこ詳しいものが載っていますから、クトゥルフ神話世界の金枝篇はこの中に旧支配者の儀式が載っていたと考えるべきでしょうね。そうでもないと只の真面目な人類学の本です。


 というかフレイザー先生、魔術師でも何でもない真面目な研究者です。


 これを読んでSAN値を減らすのなんてそれこそ1900年代初頭のヨーロッパ人だけなんじゃないでしょうかね。


 大丈夫、読んでもSAN値は減らないよ。


 もし俺が本物のクトゥルフ魔術書なんて手に入れたら真っ先にpdf化して、アイパッドか何かに突っ込んで隠しちゃいます。こうして内容の紹介なんておそらくしないことでしょう。


 これは余談ですが、拙作ケイオスハウルとネミの森の王の伝説は「逃亡奴隷(主人公)が聖なる木の枝(豊穣神の象徴、ヒロインその2)を手に入れる」ってモチーフが類似しているんですよね。ここから先の展開も、その伝説に類似している。


 偶然とはいえ面白いものです。最初から本物をしっかり読んでおけばもっと良いものが書けたかもしれないな、と後悔することしきりです。大雑把な話だけは前から聞いていたのですが、やはり自分で読むのって大切ですね。


【概要~本の内容は?~】


 内容について簡単に触れていきましょう。


 自然や人間に干渉する為のアプローチとして、呪術は生まれ、それが効かないからこそ単純な呪術が宗教へと徐々に徐々に置換されていった。


 そして宗教によって権力が集中する体制が生まれ、君主制が生まれ、その君主制から人類の現在の社会が生まれている。


 結果として呪術は現在の人類の進歩した社会を生み出す母になったのだ。


 ……とまあそういう話です。宗教と呪術の違いですが、これは個人の宗教観による部分も大きいですし、あえて細かく触れないようにさせてもらいますね。


 しかしながら長い。とにかく長い。


 世界中の呪術の儀式とかをまとめたせいです。


 死者の骨を盗みに入る家の屋根に投げ上げることで、家の人間を眠らせ続ける呪いとする盗賊の話とか。


 種を撒く時に女性が髪を長く振り乱すことで、その作物が良く成長することを祈る呪術(類感呪術)とか。


 呪いたい相手の足跡に釘を打ち込むことで、相手の足を不自由にする呪術(感染呪術)とか。


 とにかくとにかく多いのです。


 ちなみにこちらの類感呪術というのは、対象や目標の真似を行うことによって対象に影響を与える呪術。


 そして感染呪術とは、接触を行ったものと接触されたもの(これらは身体の一部であったり、身につけているもの、あるいは傷つけた凶器)の間につながりがあると考えて、それを利用した儀式を行う呪術です。


 とても重要な概念なので、詳しく知りたい場合はこちらもしっかり調べると良いかもしれません。この二つの概念についてだけで本が沢山書けます。


 ファンタジーで魔法を書くなら是非参考にしてください。


 こういった呪術や儀式に関する話を延々と続けた後、ネミの森の事例についてフレイザー先生の考察結果が披露されます。


 森の王とは、オーク(木)の神ユピテル(ゼウスに関連)あるいはそれと同一視されるヤヌスを体現する存在である。


 そして森の王が、オーク(木)の女神ディアナ(かつては多産と豊穣の神として信仰されていた)と擬似的な結婚を行うことで、森及び村に豊穣を齎す。


 神の配偶者として森の王は強壮なる男でなくてはならず、より良い配偶者たる為に捧げられし王は先王を殺害することによって更新される。


 とまあそういう話なのです。なんでこれクトゥルフ神話で魔術書になったんでしょうね。


【概要~邪神なるもの、正気なるものについての考察~】


 これはクトゥルフ……いえクトゥルー文化の移り変わりにも関わる話題なのですが、今と昔じゃ正気と狂気の判定が変わっています。


 昔の人間にとっては恐るべきタブーだったことが今の人間には当たり前になっていたりします。そこら辺はかつて発禁処分になっていた本とかを読むと良いですね。


 逆に、昔の人間にとっては当たり前だったことが、逆に今の人間にとってはタブーだったりすることも良く有ります。これは医療の歴史や異世界転生系の話を見ると分かりやすいです。


 同じように、SAN値が削れるものだって時代によって文化によって変わります。同じ黒人や混血人種や東洋人を見るにしても、ラブクラフト先生が見るのと日本人が見るのではまったく感想が違う訳です。


 その感性の違いの結果として、巨大ロボットに乗って邪神と戦ったり、ある日突然やってきた邪神とラブコメ始めたり、そういった様々な文化が花開いてきた訳です。


 忘れないでいただきたいのはこれが唐突な変化ではなかったことです。こういった変質はアメリカを始めとした世界中で、様々な作者の手によって進められてきたのです。


 例えばダーレス、例えばリン・カーター、こうした人の手を渡り歩くことによってイメージが変わるなんてままあることです。


 これは宗教においても変わりません。話は急に戻りますが木と雷は元から結び付けられて考えることが多く、ここからユピテルとゼウス、ヤヌスが結び付けられていたみたいです。同じ神であっても語り部を変え、内容を変え、地域を変え、時を変え、万物流転で蕃神流転なのです。


【最後に】

 これは独自の考察ですが、デモンベインでアウグストゥスがこの金枝篇を使っていたのは、彼が特に魔道書なんて頼らなくてもロボとか呼べるし戦えるからだったのかもしれません。何せ彼は自覚無しとはいえニャルの化身だった訳ですから。


 ちなみにこのアウグストゥスだけは生身で魔術を使った描写が無かったりします。うろ覚えなのでもし違ったらごめんなさい。


 それにしても良い本でした金枝篇。フィールドワーク不足から批判されがちなフレイザーですが、この金枝篇における純粋な知識の蓄積量は誰にも追随できないものです。読んでみても魔術を使えるようにはなりませんでしたが、この本は実に多くの知識を与えてくれます。皆様も機会が有れば是非読んでみてください。


 私はこれからこの本をセラエノの図書館に返してくるとします。皆さん良い日曜日を。


 さようなら、さようなら。

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