第4話 見た目と別視点と

今日は入学式、やっぱり校長先生の話が長いのはどの学校でも共通なんだなあ。

同じ中学の人とかいないかな、そう思いながら昇降口に張り出されているクラス分けを見に行く。


私の名前は…あった!7組だ!

ラッキーセブンってよく言うし、何かいいことあるかも!


少し浮かれながら、上履きに履き替え、教室に向かう。


1年7組の教室は、昇降口から一番近い階段を三階まで上がって、右に曲がった場所だ。つまり三回の角ということになる。


教室の扉に座席表が貼ってある。これによると、私は一番後ろの一番廊下側。つまり後ろの扉から一番近いところだ。


一番後ろ…これは私にとって大変うれしい座席である。それは、私が昔から人と接するのが苦手だからだ。極度の人見知りで、人と目を合わせることすらできない。


まあ、新学期によくある自己紹介さえ乗り切れば、後は他人と接する機会なんてそうそうないだろう。


教室に入ると、何名か既にいる。彼らとはきっと、「クラスメイト」以上の関係にはならないだろう。


自分の席についた。やることもないし、勉強でもしよう。



―――――



前述したとおり、私は人見知りである。だからこそ、入学早々のこのイベントは鬼門である。

自己紹介。

自分の情報を他人に公開し、同じ趣味を持つ人などとのコミュニケーションのきっかけを作るもの、と私は考えている。

私はこれが苦手だ。人前で話すのが苦手だし、そもそもなぜ自分の情報を公開しなければならないのか。


他人の情報になんて興味はない。と、思っていたが、その人の声は不思議と耳に心地よく、聞いているだけで自分のすべてをさらけ出してしまうような、そんな声だ。

その声が聞こえたほうを見ると、そこには、一目見ただけで心を奪われてしまってもおかしくないぐらい、私の言葉では表現のしようもない、「かっこいい」人がいた―――


彼の名前は「白井 啓介」凛々しい目つきに、耳に染み渡る声、そして何より目を引くのが、その白い髪。なんでも先天性の病気で、髪にだけ色素が行かないらしい。

まぁそんなこと気にならないぐらい、彼はかっこいい。


そしてその次に自己紹介した、「黒田 一輝」

正直シロ君の後だと全部がぼやけて見える。実際、何人かの女子はいまだシロ君のことをぼーっと見つめてる。

私?私はかっこいいとは思うけど…それだけかな。

それに比べて…ってのも変だけど、クロ君も十分かっこいい。シロ君がすごすぎるだけで。


まぁ、どちらにせよ私とは今後かかわることもないだろう。



―――――



ホームルームが終わった。早く帰ろう、かえって勉強しよう。そう思って教室を出た。

軽く急ぎながら階段を下りる。

タッタッタッタッ

ズルッ

あっ、と思った時にはもう遅い。足を滑らせてしまった。コケる!と思って目をぎゅっとつぶる。

ボスッ


「おっと、大丈夫か?」


うぇ!?ク、クロ君!?なんでここに!?というか受け止めるためとはいえわざわざ腕を回す必要ありますかね!?


「あ…あの…その…う、腕…」


こういう時あまり喋れないのが私である。


「ん?ああ、すまんな。とっさに受け止めようとしてつい」


そう言ってクロ君は私のことを離してくれた。


「あっ…」


なぜか離れたら、まだくっついていたいと思ってしまった。いやいや何てこと思ってるんだ私。


「ん?どうした?」


「い、いえ…何でもないです…そ、それじゃ…っ!」



そう言って走り去ろうとしたら足に鋭い痛みが走り、思わずうずくまってしまった。


「おいおい、足でも捻ったか?」


うう…情けない姿を見せてしまった。なぜかとても恥ずかしい。


「だ、大丈夫ですから…」


「大丈夫なわけねーだろ、ほら」


そういって彼は私の目の前でしゃがむ。

…まさか。


「俺が保健室までおぶっていってやるよ」


「そ、そんなことしてもらわなくても…」


「今この辺には人いねーし、なによりその足じゃまともに歩けないだろ?だからさっさと乗れ」


うう…今日初めてあった人となんでこんなこと…でも言われたことは事実だし…うう、仕方ない。


「し、失礼します…」


「よっと、それじゃ保健室までレッツゴー」


このとき、横抱きじゃなくてよかった。

この自分でもわかるぐらい真っ赤な顔を見られなくて済んだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る