浮かれ発言


「全国ネットであんな事を言うな!」


試合後、スポーツ記者に囲まれて言ってしまった発言について監督に怒られた。

春元タツミ自身としては別におかしな事を言ったつもりは全く無い。

何せ家族に向けての言葉なのだ。何がおかしいのかサッパリ判らず首を傾げていると、監督は「処置なし」といった感じで諦めモードで首を振った。


「俺はお前が既婚者だって知らなかったぞ」

「あれ?そーですか??でも指輪だってしてますよ」


ホラッとタツミは首からさげているプラチナの指輪を見せた。


「~~~そんなのはお洒落か何かだと思うだろう!結婚指輪なら指にしろっ!」

「昔はしてたんですけど、無くしちゃいそうなんで止めました。フミさんもそっちの方が安心だって言いますし」


フミさんと言うのがタツミの愛しい奥様だ。

そう言えば今日は腕を揮ってご飯を作ると言っていた事を思い出す。


これは怒られている場合ではなかった。急がねばならない。


「監督、そろそろ帰ってもいいですか?」

「お前には反省と言う言葉はないのか!?」

「いえ。ただこの件に関しては特に反省するべき点が見当たらないだけです」

「あるだろう!あの衝撃発言だっ!!」

「はぁ・・・・・」

「明日にはスポーツ紙やテレビの餌食なんだぞ!」

「今更なんですけどね」


餌食は嫌だなぁと顔を顰めるタツミに監督は尋ね聞く。


「大体、一体いつの間に結婚なんてしたんだ?普通はチームに一言言うべきだろうに・・・・・」


ブツブツ言う監督の言葉にタツミは「ああ」と声を上げた。


「もしかして俺の結婚って最近だと思われてます?」

「当たり前だろう。お前今何歳だ」

「24ですけど、結婚は21ですよ」

「21っ!?でもお前、確かその頃ドイツじゃないのか!!?」


タツミはずっとドイツのチームでプレイをしており、日本のチームに移籍をしたのはつい1年前の事だ。


「ええ、だからドイツで新婚生活満喫してました。あ、今もですけど」

「・・・・・・・・相手はドイツ人なのか?」

「いえ、日本人ですよ。幼馴染って奴です」


「もっと言えば俺の初恋の人ですよ」と顔をにやかせるタツミに監督は頭痛が酷くなる。

しかし、コレで自分達が彼の結婚を知らなかった事にも納得した。

21と言う年齢には驚いたが、その頃ならばタツミはまだ無名でしかも外国暮らしだ。日本にいる輩が知るはずも無い。


「で、もう帰ってもいいですか?フミさんが料理作って待ってるんで」

「あー・・・・・もういい。サッサと帰って奥さんの手料理を満喫しろ」


これ以上惚気話に付き合うのはバカらしいので追い払うように手を振ると、タツミは「違いますよ」といった。


「満喫できるわけ無いじゃないですか。俺はコレからフミさんの手料理を阻止しないといけないんですよ」

「なんだそりゃ」

「フミさん張り切ると余計なものをアレンジして、コレが微妙なんですよ」

「・・・・・・・味オンチなのか?」

「いえ、普通はメチャクチャ上手いですよ。ただ張り切ると微妙」


この前、ソレまでの経験を生かして無難な「カレー」をリクエストしておいたんですけど、それが微妙に甘くって。

何をいれたのか聞いたら、チョコレートなんですよ。まぁ隠し味にいれるって聞くしそれ自体は良かったんですけど、入れた量が半端無くて。

すっげーマズイとか言うなら、こっちも文句言えるんですけど、あの微妙なラインで文句を言ったらフミさん逆切れしそうだし、いや、怒った顔も可愛いんですけどね。

やっぱり奥さんとは仲良く過ごしたいじゃないですか。遠征から戻ってきて久しぶりの二人っきりの夜ですよ?

フミさんの機嫌を損ねたら、夜は別々の部屋なんですよ?

生殺しじゃないですか!そんなん我慢できるわけがないじゃないですか!唯でさえフミさんは可愛いのに、あの時のフミさんはまた格別なんですよ!!


「・・・・・・・・タツミ、お前早く帰れ」


永遠と続くのではないかと思われる惚気話についに観念した監督の言葉にタツミは晴れやかな笑顔で頷いた。


「じゃあ監督、お先に失礼します」


忙しく扉を閉めて立ち去るタツミの様子に監督は「どうして今まで気がつかなかったんだろう?」と逆にそっちの方が不思議に思うのだった。

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