第3話
幼い頃に母を無くして以来、悠理は父と二人で暮らして来た。厳格な人間ではあったが、決して優しさを知らぬ人物ではなかった。
悠理はそんな父を敬っていたが一週間前、その父が、九頭竜マフィアの関係者だと知った時、悠理にとって、初めて憎悪の対象となった。
父親の書斎を掃除している最中、机の上のパソコンに送信されてきた会計ファイルを偶然開いてしまった悠理は、その中にあった帳簿の中身に蒼白し、眩暈さえ覚えた。
悠理が開いたファイルの中に、臓器売買の四文字が至る所に在ったのだ。
九頭龍マフィアの資金源の三割を占めていた臓器売買に関する取り引きの全てが羅列されていたそのファイルを検索し終えた後、悠理の貌からは血の気が失せていた。
悠理の視線は、記載されている臓器提供者リストの一カ所に注がれていた。
リストの中に、見覚えのある名前が在った。
「……野副……育子?!」
悠理の幼なじみである野副育子は一ヶ月前に家出していた。育子の家族も悠理にも、その動機に思い当たる節は無く、警察の捜索も全く手懸かりが無い為に進展せず、ようとして行方知れなかった。
提供者リストをじっと見つめる悠理は、無意識にそこに記載されていたデータを呟いていた。
「……右腎臓、やや炎症気味…骨髄、百パーセント使用可……両角膜、気道、食道、肺、胃、心臓、鼓膜、上質……肝臓……やや脂肪あり………?」
最後に見た育子の備考欄には、他の提供者と同じ文章が記載されていた。
摘出後、廃棄処分。
次の瞬間、悠理は、無慈悲に死者を列記するPCのキーボードに振り下ろした両拳を叩き付けて絶叫した。
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