VS火炎旋風
自分にとっての勝利条件は12時を迎えること、単純な条件だった。今のテレポートという能力だけでは接近戦をしようにも相手は炎を身にまとっているためしようとおもってもできなかった。そしてもう一つ理由はある。危険な賭けをしなくても時間になれば絶対に勝つことができる確信があったからだ。だが予想以上に時間を稼ぐことは難しい。狭い路地でテレポートをしようとしても少し位置がずれれば最悪の場合はどこかに埋まってしまう場合がある。また完璧に逃げ切ったとしても次は竜宮の方を襲いに行くのが目に見えている。何しろ初めての異能を使う戦闘なのに逃げるのはもったいないと感じた。正直自分のことをバーサーカーか何かかとツッコミたいぐらいだが、今はそんな余裕はない。程なくして相手もしびれを切らしたのかこちらをけしかけてくる。
「おい炎の壁は消してやるから、さっさとかかってこいよヘタレ!もう一人の方にターゲット移すぞー!」
竜宮にも聞こえるように大声で叫ぶ、なんにしろ壁が消えたのなら接近戦も容易くなる。相手の側頭部に蹴りを入れれるように飛ぶ、まだ慣れてないテレポートのためかすぐに味噌ラーメン大好き男にしゃがんでよけられる。そこから相手はカウンターを入れるように拳に炎を纏いながらアッパーに捻りをいれながら打ち込んでくる。(昇〇拳ではないよ★)それをかわすように相手の頭上にテレポートをして頭を踏んづけようとしたのだが、熱風が急に味噌男(味噌ラーメン大好き男だと長いので略)を中心にして吹き始めた。そして驚くことにバックステップを繰り出し自分のいたところから離れ始めた。最初はただの回避行動かと思っていたのだが、味噌のいた場所を中心に炎が渦巻き始めた。この現象を見てある映像が脳裏によぎった。火災旋風だ。大規模な火災が起こった時に空気の渦を巻きながら竜巻の如く吹き荒れる現象。まずい、と直感ですぐに感じ取った。適当にテレポートをして範囲外を出た。
「ハァハァハァ…ウッ…」
息が高温と連続した能力の使用のためか続かず、食べたものを吐きそうにすらなっている。だがそれすらも打ち消すような疑問が生じる。なぜこんな場所で火災旋風が起きるかだ。その問に答えるかのように味噌男が話し出す。
「その反応だと、火災旋風を知っているようだな~でもなんで起こっているかわからないのかな!あひゃひゃひゃ!もう一度かましてやるからかかってこいよぉ!」
うるさい笑い声とともに煽り散らしてくるのだが、言っていることは本当だった。あれをもう一度やられたら熱風だけで器官が焼けてしまうだろう。遠くに逃げても、竜宮の方にターゲットを移すのだから、八方塞がりだ。すると味噌男はなぜかその場で旋風を起こすのではなく、もう一度先ほど起こした場所に移動し始めた。それだけで旋風を起こすやりかたがすぐに分かってしまった。いや分からなければおかしいのだ。最初の味噌の俺たちと話した立ち位置は路地裏の風上だ。そう風の入ってくる方である。そして捻りを入れながら打ち込んできたアッパーで合点がいく、もうすぐ時間になるだろうと察し、どうせなら秒殺して竜宮にも能力を知られないようにしようと思い、ダッシュで味噌男の方へ向かいタネあかしをする。
「おいおい火災旋風なんて嘘っパチこきやがって、さっきの現象はそれっぽく見せた炎の壁だろ?ただ炎の壁を時限式にして風が吹いている中ですることによってリアリティが増すって寸法だよなぁ?おかげでウィッグが燃えちまったよ…まああとちょっとで女装なんてしなくてもいいんだけども…」
相手も聞き捨てならないセリフに聞き返してくる。
「は?女装?」
ドゴーンと廃ビルの壁が壊れる音がしてそんな問いかけは掻き消された。12時になった合図なのだろう。…どうでもいいけど派手だな。あれじゃ一つフロアが吹き抜けになっちゃうよぉ…
「まあ最初の異能戦闘にしては派手で予想以上に楽しかったぜ!じゃあ宣言通り…これで終わりだ。」
両者が攻撃を開始するために同時に動いた。味噌はまた似非火災旋風を起こす気なのだろう。手に火炎を纏いながら何度も上空に向けて拳を放つ。だが今の零の能力の前には意味のない攻撃だった。一瞬にして間合いを詰める、それは竜宮の視点から見れば先ほどのテレポートと同じだ、だが二つ違う点があった。それは顔が紅潮し息を荒げているという点と火災旋風に手で切り込みを入れるような動作をしている点だ。前者は変ではあったが、一番気になるのは後者の方だ。近くに手を近づけるだけでも火傷をするというのに何をしているか理解ができなかった。そして零は轟轟と吹き荒れる炎と熱風の中でもなぜか聞こえる不思議な静けさのある声を発した。
「開け。」
それだけだった。それだけの短い言葉だったが、言葉を発した瞬間にすべての炎が空間の切れ込みに飲み込まれていった。比喩表現などではなく空間が切れたのだ。次の瞬間には似非火炎旋風の中心にいたであろう、味噌の首に手を当てながらボソッと呟いた。
「降参してくれよ…それとも首に切れ込みいれてほしい…?」
流石に何が起こったかわからない未知の恐怖に耐えられなかったのか味噌男は白目をむいて気絶した。焼け焦げた跡、壊れたビルの残骸が路地裏に残る中で少年は声をあげる。
「これが異能を持つ者同士の戦いか…学園生活楽しめそうだ!」
こうして少年の最初の異能バトルが幕を閉じた。
異世界学園に”萌えと異能”を添えろ!! 魅夜 @shirana
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