遅刻と女装と楽しい悲劇
入学式の始まる10分前になり指定されている席に入学する生徒はだんだんと座っていく。席の場所はクラスの振り分けの際に行われた成績順に行われている。そして入学式が始まろうとしているのだが、まだ一つだけ中央付近にある席が埋まらない。その席は入学式が始まっても埋まることはなかった。なぜならば、その席に座るはずだった宇佐美うさみ 零れいは女装して3年生の先輩方に追いかけ回されていたのだから。もう一度言っておく女装してだ。
「なんで追いかけてくるのぉぉぉぉぉぉぉ!」
と若干オカマ口調になりながら零は先輩たちに問いかける。すぐに答えは帰ってきた。
「理由なんていくらでもあるだろぉぉが!なんだよぉぉ!かわいい女の子かと思ってナンパしたら、「男だけどもしかしてあんたホモ?」とかぬかしやがってぇぇぇ!お前がかわいいから勘違いしたんだぞコラァァァァ!」
恋をした相手が男子でしかも性癖を勘違いされるとこんなふうになるんだなぁ〜と心の中で思いながら、零は顔を引き攣らせながらも申し訳なさそうに訴える。
「それについては悪かったと思ってますってぇぇ!ていうか入学式始まってんじゃん!先輩方のせいですよ!遅れたの!」
零のナチュラルクズな発言に先輩たちもつっこむ。
「いやお前悪く思ってんなら、他のことで逆ギレしてんじゃねぇよ!ていうか一旦とまれやぁぁ!」
お互い叫びながら走ってるせいか案の定すぐにバテた。入学式の行われている第一校舎の中庭で零は三人の悪面した先輩に取り囲まれた。
「ようやく追いついたぞ女装変態野郎が…手間かけさせやがってよ、まあいいよてめえがいまここで土下座したら許してやるよぉ」
先輩ゲームとかの雑魚が言いそうなセリフいってるなぁ…
「先輩ゲームとかの雑魚が言いそうなセリフいってるなぁ…あっ、やべっ声に出てた」
頭に血管を浮き出しながら怒りのあまり顔が真っ赤になっている三人のリーダーと思われる坊主頭にタトゥーを入れた先輩は静かに呟いた
「いいぜそんなにお望みならタイマンで勝負だクソガキィィ…」
他の二人が圧倒的雑魚力で零を煽ってくる。
「この人はな!この地球とリザクーリを含める800万いる能力者の中で400万位ぐらいの実力をもってんだぞ!お前ごときには勝てねぇぇよぉぉぉwww」
正直ラノベなら大したことないって笑えるのだが、実際問題そんな微妙な強さでも笑うことはできなかった。なぜならば自分の能力が戦闘には特化していると思えなかったからだ。いや的確には今の能力といった方が正しいだろう。これが明日とか明後日とかならまだ決闘の約束をしてもいいのだが、まあ無理に戦う必要はないので、土下座をしよう、うん、そうしよう。
「本当に申し訳ございませんでした…もう許してください…グスッ」
零の泣き真似に気づいてないのかバカな圧倒的雑魚の先輩二人がゲラゲラと下品に笑っている。リーダーの先輩も少々驚いているようだ。しかし零には秘策があった。
「もうそろそろか…」
そう呟くと、少し遠くから2年生や3年生の先輩、そして校舎の1年生の教室からはざわめきが聞こえてきた。
「えっ、なにあそこの不良たち…女の子に土下座させてるし、しかも1年生だよ…最悪だね」
といった感じでヒソヒソと話し声が聞こえてきた。先輩達がうろたえだした瞬間に零は立ち上がり笑顔を浮かべる。
「じゃあ先輩方これからは色々迷惑かけるけどよろしくね☆」
そういった瞬間に忽然と姿が消えた。残ったのは性格最悪のレッテルを張られた哀れな3人の不良とそれを嫌悪感まるだしでみている1、2、3年生たちだった…
「「「あの1年坊がァァァァァァァ!!」」」
空しく3人の叫び声が第一校舎の中庭に響く…
1学年の校舎の屋上に一瞬にして移動してホモホモしい先輩たちから逃げ出すことに成功。その後何事もないように自分のクラスに向かい始める。学園では基本的に寮生活になるのだが、寮に引っ越しをする時に自分の所属するクラスが記されている紙を受け取る。だがクラス分けはあまり零にとって意味をなさない。筆記テストの成績が普通でも実技がすこぶる悪いのだから必然的に序列が低いクラスに配属されることになる。また序列の低いクラスはいろいろと考慮されており、大人数となっている。なので最初からクラス分けの結果は分かっていたようなものだし、何しろ友人たちも零とは形が違えど同じタイプの人間なので、何らかの理由で底辺クラスに落ちてきていると安易に予想できた。だからこそテンションが高い状態で入学式をバックレたことも気にせずクラスに向かうことができた。そしてある大事件は起こった。宇佐美 零とその友人である
「ここが俺の所属するクラスかぁ…初日から遅刻だけど、まあいろいろあったし先生も許してくれるはずだし…よし開幕から友人との熱い抱擁でクラスのみんなを泣かしてしまいますか!」
友人の待つ教室をガラッと開け放つ。最初に目にしたのは金髪で碧眼の猫耳美少女だ。だが変態にはわかる。いや変態だからこの一瞬でわかるのだが、彼女は生徒ではない。誰でもわかるその理由は制服を着ていないことだ。だが俺は見逃さなかった。そして次に目にするのは名前の通り髪を紅に染めている友人である紅蓮だ。自己紹介の途中だったのだろう、電子黒板に名前が表示されており口を開けたまま固まっていた。
「ぐれぇぇぇぇん!心の友よぉぉぉぉ!会いたかったぞぉぉぉ!」
俺は思いのたけを叫びながら抱き着く、すると紅蓮は戸惑った様子で半狂乱になる。
「ぬわっ!ちょ!誰だあんた!いきなり抱き着くとか訳がわからないんですがががががががががががががg!」
おっと、なんかわからんが紅蓮が壊れた。すると教室がざわめきだす。
「なんだあの子可愛いなぁ…おい火村ァァ!お前まだ自己紹介だぞオラァァ!彼女とか紹介してんじゃねぇぇ!」
そうだ、そうだとクラスの男子が騒ぎ出す。俺が女だという面白い勘違いをしている人が多数いるようだ。すると紅蓮が怒号のおかげでこちらに戻ってきたようで、反論する。
「俺はこの子と知り合いでもなんでもないよ!むしろ俺が聞きたいんだけど!」
俺の心が崩れ去った…まさか少し会わなかっただけで親友の顔を忘れるなんて…演技の涙ではなく本当の涙が出てきた。
「(´;ω;`)ウッ…」
クラスの男子も女子も紅蓮に非難をぶつける。
「火村君最低…」
「火村ァァ!あとで表出ろやぁぁぁ!」
「ぜひ俺にどうやったら美少女に会えるかを教えてください。お願いします」
「ハァハァ///その女の子!私に頂戴!」
おい、後半おかしかったぞ!ていうかこの姿で会うのははじめてだったのか…弁解しなky
「おい落ち着けのじゃ!彼は宇佐美 零という名前で女装が趣味なのだ!女ではないからその辺は注意するのじゃぞ!」
先生が爆弾を投下した。先生は俺の能力を知っているのでそれを隠そうとしたのだろう。そこはありがたいし、美少女の爺言葉は萌えるものがある。それはいいとしてもう少し言いようがあっただろう。しかし言葉の意味を一瞬にして理解したのかクラスはすぐに静まり返りさらにはクラスメートは全員真顔になる。みんな笑いごとで済むことをなぜか真に受けているようだ。いたたまれない雰囲気になりHRは先生からの連絡事項を言ったあと解散になった。誰も言葉を発することなくその場を後にした。そのあと学園で宇佐見 零は女装趣味の変態、火村 紅蓮はホモでしかも付き合っている相手に女装させるのが好きという噂が広まった。ちなみに同じ中学だった連中もたくさんいたのだが、あとで聞いたところ俺だと気付いた人は一人しかいなかった…
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