第2話

「聞くがよい、雪のとろみを唇に塗る我が妹よ」

「なにかな、妹アイスによだれをたらすヘンタイお兄ちゃん」

「うむ。夏の陽光に身を焦がす哀れなけものは貴様だけではない」

「アイスちゃんをよこせと」

「貴様は生来のプリンセス。義務を、ノブレスオブリージュを思い出せ」

「さっさとよこせと」

「フランス革命の主たる原因は王侯貴族の驕りだ。人はみな驕りに憎しみを抱く」

「実力行使するぞと。おかーさーん」

「第一次世界大戦とは最も悲しい戦争だ。不信の連鎖で幾千万の命が失われた」

「今のは冗談だと」

「死の嵐に恐怖した国民は熱狂をコロッセオの戦士に託した」

「勝負しようと」

「伝統の競技には伝統たる理由がある。手が一本あれば成り立つことだ」

「じゃんけんで勝負だと」

「兄はプリンセスの忠実な下僕だ。手の内にナイフは隠さぬと証明しよう」

「パーを出すと」

「いざゆかん、しましまプリンセス」

「受けて立つ、おもらしお兄ちゃん」

 兄のパーを妹がチョキン。

「で?」

「屈辱のベルサイユ条約はナチスを生んだ。敗戦国には慈悲を与えるべきなのだ」

「フタだけでもくれと。ふふふ」

「その地獄の娼婦のごとき笑い。貴様、今度はリリスに魅入られたか」

「なにを要求するつもりだと。えへへ」

「取り戻すのだ慈悲を、扇風機にすら見捨てられた兄への慈悲を」

「やだ」

 妹は四つん這いの兄の顔に向けて足を上げた。

 唇につくアイスよりも白く、ぷっくりとした親指が、眼前に差し出された。

「あはは。ほらキスしなさいよプリンセス親指に。うりうりうり」

「やめろプリンセスよ、プリンセスよ、しましまピンクの姫君よ」

 二人は今日もなかよしだ。

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しましまピンクの妹と哲学的おにいちゃん ZAP @zap-88

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