第12話

 それは突然始まった。


 8:40

 8:41

 8:42

 8:43


 私の携帯に、無数の着信履歴。

 出る前に切れる短いものばかり。

 どれも、非通知設定だった。


 次はお昼の時間。


 12:35

 12:36

 12:37


 今日で三日目だった。


 だからかもしれない。

 過敏になっていたから。


 いつもなら気がつかない、誰かいる気配。

 玄関のドアの前に誰かいるような気配。


 私は、息を潜めて、静かにそこに近寄る。

 出来るだけ物音をたてないように、玄関ドアの覗き穴に近付いた。


 ***


「その子がこれを郵便受けに入れたの?」


 私たちの間に並んだ全く同じ二枚の紙。

 雪くんは園長先生に問われたらしい。


 私たち二人が写る写真。


 胸の部分に紺の刺繍。

 アルファベットのh

 見覚えのある制服。


 そう。近所にある東高の制服だった。


 覗き穴から見た姿は長い黒髪を後ろに束ねた知らない子。

 ずっと俯いていたから顔はよく分からなかったが悪意のまるでなさそうな、ごくごく一般的な高校生。


 急に過敏になりすぎていた自分を恥ずかしく思った。


 彼女が郵便受けに何か入れたから、学校の行事か何かのチラシを配っているのだろうと思った。


 ――入れられた紙を見るまでは。


 すぐにドアを開けたが走り去る彼女の後ろ姿しか見えなかった。


 東高は大きな学校で生徒数も多い。

 似たような女の子はたくさんいるだろうし、特定するのは難しいと思った。


「……鞄に付いてたピンクのお守りくらいじゃ見つけられないよね」


 諦めが強い私のその言葉を彼はなぜか繰り返した。


「……ピンクのお守り?」


 彼の手が一瞬止まり、何やら考えているようだった。


「……誰か思い当たる?」


 私がそう聞くと彼はいつもの彼に戻って、首を振り微笑んだ。


 なぜかそれ以上聞いてはいけない気がして、私は合わせるように笑った。

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