第3話(3)



 街の中からでて、広い道を挟んだ建物の前に柚季とアルトはいた。

 アルトが優歌の家を確認するために、一回入って行った白くて背の高い建物だ。

「こっちの方に天界へのトビラがあります。ついてきて下さい」

 アルトはそう言いつつ、両開きになっているトビラを押し開けた。

 その中は広いロビーのようになっていて、目の前には上へ続く階段が見える。そして、その隣にはトビラがポツリとあった。

 アルトはそのトビラの前まで歩みを進めると、取っ手に手をかけそれを開け放った。

 トビラの外はまるで森の中のような空間だった。

 アルトに続いてそちらに歩みを進めると、空が青いことが分かる。

 ・・・その青さは鮮やかすぎて、まるで作り物の空みたいだ。

 と突然、アルトの歩みがとまった。

「!・・」

 周りの景色に気を取られていた柚季は、アルトの背中にぶつかってしまう。

「?・・どうしたの?」

 アルト越しに見えたのは、森の中にたたずむ一つのトビラ。

 その周囲の地面は、石畳のようなもので綺麗に舗装されていて、あのトビラが特別だということがひしひしと伝わってくる。

 柚季はそのトビラの前に、何人か、ヒトがいることに気付いた。

 アルトと同じ制服に身を包んだ人が二人。それに、真っ白の髪を持つあの女の子は・・・ソプラノだ。

「・・・離して!」

 ソプラノはそう叫ぶようにして言い、腕を引っ張る彼らに必死な様子で抵抗しているようだ。

 一方、制服を着た彼らは無理やりあのトビラの方へ、ソプラノの小さな体を引っ張っていこうとしている。

(どうしたんだろう・・・)

 ソプラノはとても嫌がっている。

 ここは助けに行った方がいいに違いない。

 柚季が駆け出そうとしたその時、腕を強く引かれ木の影へ引っ張り込まれた。

「アルトっ何するの?ソプラノのこと助けてあげないと!」

「──・・・すみません」

 アルトは申し訳なさそうに瞳を伏せる。

「・・僕はあのような行為を、手伝わなければいけない立場なので」

「!でも、わたしには関係ないから」

 柚季はそう叫ぶように言うと、また駆け出そうとするが、アルトは手を離してくれない。

「ちょっと・・離してほしいんだけど」

「・・・境界にいることのできる時間は、限られているんです。

 それを過ぎたら、無理やりにでも天界に連れて行かなくてはいけないんです・・・それがあの子のためでもあるんですよ?」

「・・・」

 とっさに言い返そうとした柚季だが、言葉がでてこなかった。

 ・・アルトがあまりにも苦しそうに話すから。

 とその時、アルトと柚季が隠れている木のわきを誰かが通り過ぎたのが分かった。

「!・・すず」

 見覚えのあるあの後ろ姿は、間違いなくすずだ。

 すずは何のためらいもなく、ソプラノと制服を着たヒトたちの間に割って入ると、

「私がいつ、この子のことを連れて行っていいって言った?」

「げ・・こいつ、境界の魔女だぞ・・」

「・・・」

 すずは、ソプラノのことを守るようにその前に立ち、手の中にバチバチと電気の塊のようなものを発生させる。

「2度とこの子に近付かないでくれる?」

 そして、すずはその電気の塊を二人に向かって放った。

 それは二人の間のせまい空間をギリギリで通り抜けると、後ろの木を大きくえぐった。

 制服を着た2人は、表情を引きつらせると、

「・・行こうぜ」

「・・おう」

 小声でそう言葉を交わし、その場から逃げるようにそのトビラの中に姿を消した。

「・・ソプラノ。大丈夫?」

 すずはソプラノの方へ振り返ると、優しげな声でそう声をかける。

 ・・・柚季の知るすずとは、まるで別人のような表情と声で。

「っ・・・すず様っ・・──」

 ソプラノは震えた声でそう言うと、すずの服に顏を埋め泣き出した。

「・・・?」

(ソプラノって・・あんな子だったっけ?)

 柚季のイメージでは、いつも冷静で感情をださないような子だったと思ったのだが・・。

「もう大丈夫よ・・大丈夫よ」

 すずはソプラノの背中をゆっくりとさする。

「うぅ・・・」

 それでもソプラノは、泣くことを止めようとしない。

「──・・・」

(ソプラノ・・可哀想・・)

 その光景を見ているうち、柚季の心にいつのまにかその感情は芽生えていた。

 自分はソプラノのことをほとんど知らないのに、何故だかとても辛い気持ちになる。

 まるで自分の大切な人に向ける感情のように、強く深い感情。

「!・・」

 気が付くと、柚季はいつの間にか涙を流していた。

「柚季さん?」

 アルトがとても驚いた様子で、柚季を見ていた。

 柚季はそれに思わずはっとする。

「えっ・・どうしてわたし泣いてんだろっ・・変なの・・」

「──・・・」

 柚季は眼帯を外すと、涙を急いで拭う。

 そうしている間にも、すずはソプラノの手を引いて境界のトビラの方へ姿を消した。

 運よく柚季とアルトの存在にはきづいていなかったようだ。

「・・・大丈夫かな・・また無理やり連れていかれちゃうのかな・・ソプラノ・・」

 柚季がその言葉をこぼすと、アルトは不安げな表情で

「・・・ソプラノさんには、魔女さんがついていますし・・きっと大丈夫ですよ・・」

「・・そっか、だよね」

 アルトが柚季に向ける視線には、戸惑いが入り混じっていることが分かった。

 柚季も自分もこの感情が不思議だった。

 アルトはこの場の空気を和らげるように、にっこりと笑うと

「ではっ・・優歌さんに会いに行きましょうか」

「うん!」

 アルトは歩き出そうとするが、すぐに歩みを止めるとこちらに振り返った。

「あ・・でも、柚季さん、その格好だと天界では目立ちますよ?

 僕たち・・働く者、以外のヒトたちも、天界では白い服を着ることになっているので」

「え、そうなんだ・・どうしよ」

 柚季の今の服装は、学校の制服だった。

 アルトは「うーん」と唸ると

「それにその服だと、すぐに地上のヒトだってこと気付かれちゃいますよね・・どうしましょう・・」

「じゃ、一回地上に戻って、うちで白っぽい服に着替えるとかした方がいいよね?」

 その方法以外、思いつかったので柚季はそう言ってみた。が、アルトはそれにも「うーん」と唸る。

「確かにその方法が無難ですよね・・でも、あまり時間がかかってしまうのは・・・うーん・・・あ!」

「?・・」

「白い服かりてきますから!柚季さんはここで待っててください」

「あ、分かったーありがと」

 そしてアルトは踵を返すと、天界のトビラの中に姿を消した。



 ソプラノは自分の家に戻ってくると、真っ白の部屋の隅っこでうずくまった。

 ここの部屋には何もない。

 自分が望めば、この場所の景色は好きなように変えられるらしいが、ソプラノにとってその機能は必要なかった。

 だって本物ではないし。

 本物でなければ意味ないし、寂しいだけだから。

 すると、また自分の目に涙がたまってくる。

 ・・・また感情が暴れだしそうになる。

 でも、これがあれば──・・・。

 ソプラノは服のポケットから薬のビンを取り出すと、その中の一錠を口の中に放り投げた。

 噛み砕くと涙は止まり、代わりに無表情という仮面が姿を現した。

 ・・・これでやっと安心感に浸れる。

「・・~♪」

 思わず、あの歌を口ずさんだ。

 仮面、をつけたまま、大好きなこの歌を口にするなんてほんとはしたくないのだけれど。

 ソプラノは、この歌、がどうしても忘れられなかった。



 柚季が同じ場所でアルトのことを待っていると、天界へのトビラが向こう側から開いた。

 そこから姿を現したアルトは、早足で柚季の隣まで駆け寄ってくる。

「柚季さん、これ着てみてください」

 アルトから手渡された白い服を広げて見ると、アルトが今着ている制服の女性もののようだ。

「ありがと!へー結構かわいい!って言うか・・これ、どうやって手に入れたの?もしかして・・・」

「先輩からちゃんと許可を取って、かりてきましたよ!」

「あっそっか!だよねー・・」

 柚季はニヤリとする。

 どんな理由をつけて借りてきたかが気になったが、あえてそのことについては触れずに、

「じゃーはやく着替えちゃうか・・」

 柚季がそう言葉をこぼすと、アルトは慌てた様子で離れた木の後ろへ姿を消した。


 柚季は急いで着替えを終えると(サイズは丁度よかった)、元々着てきた学校の制服をアルトから預かったバッグの中にしまいこむ。

 そして「おまたせ~」と言いながら、アルトの隣に立った。

 アルトは柚季の姿をよくよく見ると、微笑む。

「似合ってますよ!・・それにその格好なら、上手く誤魔化せそうですね」

「そう?よかったー」

 アルトは天界へのトビラの方へ目を向けると、

「では、行きましょうか」

 ゆっくりと歩き出した。

「・・・」

 柚季もそれに続いた。



 アルトに続いて、天界へのトビラを通り抜けると、ヒンヤリとした空気が柚季を包んだ。

 柚季が足をついた場所は、白いコンクリートのようなところで・・・けれど、ここは外らしい。

 白い道の外側は暗闇で、そこに立つ外灯が周囲を淡く照らし出していた。

 白い道は渡り廊下のようなイメージで、ずっと向こうにあるはずの何かと、この場所を繋いでいる。

「こっちです」

 アルトは枝分かれする白い道のうちの一本へ、歩みを進めた。

「・・・」

 柚季もそれに続く。

 一応、外灯は立っているが、その光は弱すぎてその暗闇に何があるのかよく分からなかった。

 何だか少し不気味だ。

 そんなことを考えていると、アルトは立ち止まる。

「!」

 いつの間にか目の前には、トビラがあった。

 境界にあった天界へのトビラより、一回り大きく、両開きになっている。

 アルトはそのトビラを押し開けると、中に入り込んだ。

 柚季もドギマギしながら、アルトの後に続くと・・・そこは建物の中だった。

 広々とした廊下のような空間。吹き抜けになっていて、2階のようすまでよく見える。

 一階にも二階にも壁際には、トビラがたくさんついており、この空間からまた別の場所にも行けるようだ。

 アルトのような制服を着たヒトたちが多く行き来していて、体が半分透けているヒトたちもいる。

 体が半分透けているヒトたちに色はついているが、みんな白色の服をきていて(普通の服が白く染まったイメージだ)、とても変わった印象だった。

「えっと・・優歌さんは○○日前に境界に来たヒトですから・・いるとすればこちらの方の部屋に・・・」

 アルトはブツブツ呟きながら、歩みを進める。

 とその時

「あ!アルト!ちょっと手伝ってくれ」

「!」

 アルトが立ち止まると、後方から彼の同僚らしきヒトが歩み寄ってくる。

 手には山積みされた資料が、今にも崩れそうなくらい積まれていた。

 アルトの同僚は、答えを待つ様子なく、彼の手に自分の手に乗っている資料をドサリと乗せるとそそくさと歩いて行ってしまう。

「僕、今手伝っている時間はないんですっ・・」

 アルトは同僚の背中に向かってそう叫んだが、彼はきいている様子はない。

 柚季はそんなアルトの様子を見て、

「行ってきちゃえば?わたし、ここで待ってるし・・」

 曖昧に微笑んでそう言った。

「・・すいません。すぐ戻ってきますね!」

 アルトは申し訳なさそうな表情を浮かべると、柚季に背を向け歩き出した。

「・・・」


 数十分後・・・

「アルト、遅いんだけど・・」

 今か今かと彼の戻りを待っているのだが、目の前を通り過ぎるのは知らないヒトばかり。

 あのアルトのことだから、また別の仕事を頼まれてやっているのかもしれない。柚季はそんなことを想像する。

(って言うか・・早くした方がいいんじゃなかったけ・・)

 もしかしたら、今すぐにでも一人で優歌を探しにいった方がいいんじゃ・・。

 でも、すぐにアルトが帰ってくるかもしれないし・・。

 そんなことを考えていると「君、新人さん?」と声をかけられた。

「!」

 柚季は瞬時に彼女の顏を見る。

 大人っぽいきれいな顔立ち、ゆるいウェブがかかった桃色の髪を肩より少し長めに伸ばしている女性だ。

 今、柚季が着ている服(女性用の制服)を着ているので、彼女も天界で働くヒトのようだ。

「えーと・・違います」

 勘違いされるのは仕方ないと思いつつも、柚季はそう返した。

「・・・見ない顏だと思ったんだけどー・・って言うか、新人ならまだしも、こんなところに立っているだけじゃだめだよ!ちゃんと仕事しなきゃ!」

 彼女は眉間にしわを寄せつつ、そう言う。

「・・・」

(ヤバい・・一体どう返せば・・)

 必死に考えを巡らせて考えた結果、柚季は、

「実は今日の分の仕事終わったんですよー。今は友だちと待ち合わせしていて、ここを動けないんです」

 柚季の言葉に、彼女は表情を曇らせた。

「んー?仕事が終わったって・・・まだ、今日は始まったばかり何だけどなぁ。・・ヒマならさ、こっちの仕事手伝って!」

「!そっそんなの無理だから!!」

 柚季が必死にそう言っても、彼女はまるできいている様子なく、

「サボりはだめだよ~?ほらっはやくはやく!」

 柚季の手を引いて駆け出した。

「ちょっと・・!!」

 転びそうになりながらも、柚季の足は彼女に引かれるがまま、動いていく。

 どんどん遠くなるアルトとの待ち合わせ場所・・・。

(こんな知らない場所でアルトとはぐれたらっ・・・)

 とても面倒なことになるだろう。だったらそうなる前に。

「離して!!」

 柚季はそう叫ぶと同時に、力強く手を振りほどいた。

 ・・・少し乱暴からもしれないが、ここで迷子にはなりたくない。

「──・・・」

 彼女は立ち止まると、どこか驚いたような、苛立っているような瞳で柚季を見る。

「わたし、友だちと待ち合わせをしていて、あの場所を離れられないんです。それは、本当です」

 その言葉に、彼女はわずかに口元を緩めた。

「そうだ。君、名前は?・・ちなみにわたしはアルトの上司のミオ」

「!・・アルトの上司?」

 彼女・・・ミオは、柚季の言葉に頷く。

「うん、そうそう。で、君の名前、何て言うのかな?」

「・・・柚季だけど」

「ユズキ、ね!よ~し!じゃぁ行こうかっ柚季!あっその前に、その眼帯外しておいてね」

「は?どうして外さないといけないの?」

 ドキリとして、とっさにそう訊くと、

「だって、そんなのしてたら顏怖くなるよ?

 別に怪我しているわけじゃないんだしねー?」

「!」

 ミオは口元に笑みを作ると、柚季の眼帯に手を伸ばす。

 とっさに振り払おうとしたが、その前に彼女にそれを外されてしまった。

「ちょっと!勝手なことしないでよっ」

「──・・・綺麗なアメ色の瞳だね!おいしそう」

 ミオは柚季に顏を近付け、じっと食い入るように見る。

「・・・は?」

「だいじょーぶだよ!オッドアイなんてここでは珍しくないからさ、隠さなくても」

「・・・」

(・・・あれ)

 その時、眼帯をはず時の視界がいつもと違うことに柚季は気付いた。

(もしかして・・見えてる?)

 この色になってから左目の視力はなくなったはずなのに。

 いつの間にか・・見えるようになっている。

(なんでだろう・・)

 久々に両目で見る景色はとても安心感があった。

「じゃぁ行こうか!」

 ミオは柚季の手を掴むと歩き出した。

「・・ちょっとだけだからね?」

 柚季は仕方なくそう言うと、彼女の隣に並ぶように歩く。

 ・・・ミオは諦めが悪そうだし、これ以上何を言っても無駄なように感じた。

(それに・・アルトの上司らしいし、言えば会わせてくれるかも)

「・・・」

 柚季はいつの間にか微笑んでいた。

 ミオの頼みを訊く気になった理由はもう一つ。

 久々にこの両目を使い、いろいろなものを見てみたかったからだ。



「柚季さんがっ・・・いません!!」

 頼まれた仕事を終え、もとの場所に戻ってきたアルトは、その事実にただ愕然としていた。

(どうしてこんなことに・・・!)

 もしかして・・人間だということがバレて、どこかへ連行されてしまったのだろうか。

 最悪の展開が、アルトの頭をかすめる。

「・・・はやく、探さなくては」



 ミオに連れてこられた場所は、何の変哲もないトビラの前。

 そのトビラの取っ手部分には[待合室]とかかれたプレートがぶら下がっている。

 ミオは肩掛けカバンから、何かを取り出すと柚季に手渡して言った。

「それ、この部屋にいるヒトたちの名簿だよ。

 まず、全員ちゃんといるか名前を呼んで確認してねー。その後は、二枚目の用紙に書いてある文を読むだけだから!」

「・・・」

 柚季は手に持っている用紙を確認してみる。

 ・・・学校でもらうプリントとさほど変わりない、ただの書類に見える。

「って言うか・・ミオは何するの?」

 柚季が訊くと

「わたしは新人さんがちゃんと仕事できるか、見てるから。それがセンパイの仕事だしね!」

「─・・さっきから言ってるけど、わたし、新人じゃないからね?」

 柚季は念のため、そう強く言っておいた。

「え?ここまできておいて、まだそんな嘘ついちゃうんだ・・大丈夫だよ!サボってたことは、誰にも言わないからさぁ」

 ミオは何の悪気もなさそうに微笑む。

「・・じゃなくて!・・・─もういいや」

 柚季はため息をつく。

 やっぱりこのヒトは、いくら言っても聞く耳を持ってくれない。

「さ早く早く!」

「はいはい」

(さっさと終わしてすぐ戻ろう)

 柚季はそう心に決めて、トビラを開けようとする。・・が、その前にミオが言った。

「一応ノックして入ってね?みんなビックリしちゃうかもしれないからさ!」

「あー分かった」

「あと、始めはわたしが少ししゃべるから、柚季はその後お願いねー?」

「はいはい」

 そして柚季はミオに言われた通り、トビラを二回ノックする。

「・・・」

 ドアノブを回して、ゆっくりと開いた。

 その途端、中にいる多くの人々(20~30人ぐらい)の姿が目に入った。

 体が透明な彼らは、壁際に置かれたイスに座っていたり、立ち話をしたりしているようだが、柚季たちが入ってくるとその目を一斉にこちらに向ける。

「えーっと・・」

 今までに浴びたことのない強い視線に思わず固まっていると、後ろにいるミオに背中を押された。

「みなさんっお待たせしてしまってごめんなさい」

 ミオは大声でそう言って、柚季の肩に手を置いたまま部屋の中央に移動していく。

 その時、近くにいた男性がミオに声をかけた。

「俺たち、これからどうなるんだ?」

 ミオはそれにニッコリと笑うと

「心配しなくて大丈夫ですよ。すぐにこの子が説明してくれるので!」

 ミオはそう言って、柚季に笑いかける。

 柚季はそれに軽く笑みを返した。

「ではまず、確認のためお名前をお呼びしますね。みなさん、よく聞こえるよう大きな声で返事をお願いしまーす」

 次にミオは目線を柚季の方へ動かす。

 それに気付いた柚季は、手に持った用紙に目線を落とした。

 そこにはヒトの名前がずらりと並んでいた。

(これを読めばいいんだよね・・)

 そして柚季はできるだけ大きな声で、それらの名前を順番にゆっくりと読み上げていく。

「!・・」

 返事がくるたび、その名前を囲むようにして、赤色の丸印が浮き出ていることが分かった。

(かなり便利なシステムだな・・これ・・)

 そんなことを考えながら読み上げを続けていると、柚季はドキリとした。

(野崎優歌・・!!)

 次に並んでいる名前がそれ、だったのだ。

(優歌がここにいるんだ!)

 柚季は誰が返事をするか見逃さないよう、全体を見渡しながら彼女の名前を呼ぶ。

 すると、壁際に立つ短めの髪を持つ女の子が「はい」と返事をした。

「!」

(あのヒトがっ・・優歌・・)

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