⑦優先道路通行車妨害
横断禁止の道路を渡ろうとする老爺の
腕を掴んで止めてみる。
老爺は
「ふひ」
と笑って、
自分はスタート地点に戻された。
飛び出し間際の自転車の
肩を掴んで止めてみる。
青年も
「ふひ」
と笑って、
スタート地点に巻き戻し。
その場に突っ立ったまま頭をおさえる。
嫌な笑顔だ。人間離れした……。
全部の事故を止めた訳ではないけれど
もう「ふひ」は聞きたくない。
自分を追い抜いた自転車が
白い車にはねられた。
今日何度目だろう。
非現実と解っていても
気持ち良くない。
携帯を見る。
また1997/6/27 15:16。
動かない太陽が
じりじりと肌を焼いていく。
交通安全ビデオ。
もしかして。
ふと閃く。
ここが交通安全ビデオの中なら、
事故を止めるのは不正解ではないか。
ビデオは事故を学習するためにある。
「全部、見ればいいのか?」
呟くが誰も答えない。
いちかばちか、歩き出す。
動かない自転車の青年を横目に過ぎ、
公園の前で追突する車を見た。
小学校の前に行き、
シートベルトなしの運転手が
フロントガラスから飛び出すのを見た。
一応事故が起こるたびに
通報を試みてみたが、
相変わらず繋がらない。
時間も不規則に動く。
人死には見疲れた。
どうかこれで終わってくれ。
自分は横断禁止の道路に来た。
飛び出すと分かっていながら
ただただ老人を見守る。
猛スピードで近付く乗用車。
人形みたいに吹き飛ぶ老人。
大きな溜め息をつく。
ほら、全部見たぞ、どうだよ。
「嘘だろ……」
気が付いたらまた
スタートの住宅街に戻っていた。
ちりんちりんとベルを鳴らし
自転車の青年が
通り過ぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます