⑥飛び出し

途方に暮れてふらふら歩き、

また同じ公園の前に来た。


車間距離のない二台の車。

公園から子供の飛び出し。

急ブレーキと、追突。


そのまま見ていたが、

車からは誰も降りてこない。

再発進する兆しもない。

110番したがやはり繋がらない。


ここが元居た世界でないことを

より深く確信してゆく。


携帯の液晶には相変わらず不自然な日付。

1997/6/27 16:02

その古風なフォントを見ながら思案する。

どうしたら帰れるのだろう。


追突した車たちを

見ないように通り過ぎる。


……ここが交通安全教育ビデオの中なら。


少し歩いて、引き返す。


二台の車がこちらに向かってくる。

子供が公園でボールを追いかけている。


子供はボールを強く蹴った。

こちらに転がってくるボール。


自分はそのボールを

足で止めてみた。


子供は飛び出さず

自分の前で立ち止まった。


二台の車はそのまま無事に

公園の脇を過ぎてゆく。


時間を確認する。

1997/6/27 16:02

事故が起きるはずの、時間。


ここが交通安全教育ビデオの中なら

交通事故が起きないことを望んでいるはずだ。

交通事故を阻止すれば帰れるのでは。

そう思っての試みだった。


子供の方にボールを蹴り返す。

すると子供が、


「ふひ」


目を剥いて微笑んだ。







気付いたら元の住宅街に居た。

自転車の青年が自分を追い抜いていく。


今更のように

だあっと冷や汗があふれ出る。


「これじゃ、ダメなのか?」


思わず呟く声が

自転車の潰れる音に重なった。

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