②横断禁止違反

見通しのよい、大きな道路に出た。

片側三車線の道路だ。歩道には商店が並んでいる。


そんな大きな道路だと言うのに、車が全く走っていない。

歩道を行く人もなく、やたら静かだ。


自分は再び119番にかけてみた。


……やはり出ない。


途方に暮れてガラケーを見る。

その液晶、

白黒の画面に表示された日時が目に入った。


1997/6/27 16:26


1997年?!

今は2016年のはずだ。

この携帯、壊れているのだろうか。


だとすると、電話は誰かに借りた方がよい。

辺りを見回す。


老人が歩道の縁、

横断禁止標識の隣に立っていた。


他に歩行者はいない。

いちかばちか。


声をかけようとした瞬間、

ふっと老人は歩き出した。

横断禁止の大きな道路を、マイペースに横切っていく。

すると。

猛スピードの乗用車がやってきて。


ドシャン。


重い音がした。

老人は乗用車に弾き飛ばされ、

遠くに落ちて転がった。


「嘘だろ……!」


駆け寄る気も起きない。

あの老人はきっともう、

人のカタチをしていない。


恐怖に震え、ただ逃げたくなり、

思わず元来た道を走って戻る。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る