第6話
試合が終わり、異能技フィールドを出る信。
しばらく歩いた所に、またしてもイニの姿があった。
「……網島くん」
「……試合は負けたぞ、あと少しで。 最後は運の問題だった」
「そう。 かなり健闘した方だと思うけど……」
「まあ、そりゃあな。 そう言って貰えるくらいにまで成長できたのも、ほとんどはイニのおかげだからな」
「……そうね」
「イニ、お前って本当に冷たいんだな」
「よく言われる……けど、網島くんに言われるとは思っていなかった」
「悪いな」
話をしていると、試合でイニが呼び出された。
「私の順番が回ってきたみたい」
「そうか。 頑張れよ」
「もちろん。 できれば勝ちたい所だけど」
フィールドへと歩く彼女の姿を、信は見つめた。
そして、代表決定戦の1回戦は第7試合。
イニの初戦の相手は―――――異能技部の1年の男子、「
グレーに所々に黒色が入った、男性としてはやや伸びている髪が特徴的だ。
そんな彼の能力は、ガラス片などの塵で形成される壁を作り出し、そこに相手の能力を突っ込ませ、衝撃を分散させて防ぐとともに2センチほどの塊にした破片の数々を相手に向けて飛ばして攻撃する、「
その厄介さは部内トップクラスと評する部員もいて、強力なライバルになる可能性はとても高いと言っていい。
「てめえが最近、ここでイキってる氷女か……。 その口、塵でふせぇでやりてえぜ!」
いきなり言葉でイニを刺激しようとする基。
「……早く始めましょう」
「おい、聞いてんのかよ。 上等じゃねえか、二人で生死の果てまで行こうぜ!!」
しかし、イニがそれを気にしていないと解釈したのか、基の目は、今までやり場がなかったであろう怒りに満ち溢れていた。
そんな中で試合が始まったが、基は最初は能力を出そうとしない。
「静かね。 あれだけ大層なことを言っていたのに……」
イニが発射した氷柱は、そこを狙ったものだった。
しかし、彼にとっての認識は「罠に引っかかってくれた」程度でしかない。
その後の反撃も考えると、彼女が取った行動は自殺行為にも類する。
「まずは……これで」
氷柱の1メートル先に、白く、所々に混ざるグレーが迷彩を思わせる模様になった壁が出現した。
とても分厚く、とても高く作られたその壁に、攻撃が吸収されていく。
そして、攻撃が突っ込まれた壁から出てきた、破片のようなものが次々と塊になっていく。
「……なるほど?」
それを見たイニに対して、基はからかい、塊にした塵を彼女へと飛ばした。
「おいおい。 知ってたら、そんな陳腐な攻撃もしねえだろ!? それじゃあ、こっちのターンだ!!」
勢いよく飛んでいく塊。
「……っ!」
彼女はそれを完全に避ける事ができなかった。
その身体には数十個程度の塊が当たっていて、いくつかに
試合では事前にアーマーを装着するのだが、それでも守られていない部分には、生命に関わるほどではないが、そこそこのダメージを受けていた。
「……ほとんど把握した」
「だから何だって言うんだ、あぁ!?」
そんな彼女を、言葉で追い詰める基。
彼女にとっては、立ち続けることが基に対する唯一の抵抗だったのだが―――――。
「何もしねえな。 どうした? ビビってんのか? 降参でもするか?」
「……いいえ」
「そうかぁ……このままやられっぱなしなのがいいんだなぁ!!」
駆け寄ったかと思えば、更に挑発した後に右足でイニの左手を蹴った基。
「くっ!?」
漏れる声が、
これでイニは吹き飛ばされる。
この時の彼女には、立ち上がる事はとても難しかった。
カウントはその状態のまま5まで進み、試合は基の勝利となった。
「本当によお、よくそんなカスみてえな立ち回りで人に物言えたなあ、おい!」
基はそれでも、イニに対する煽りを止めない。
「……いい加減にして。 暴力で止めを刺す能力者がどこに―――――」
「そんな事言い出したらよお、異能力だってまた暴力だろうが!」
彼女が起き上がった直後でも、大声を出す。
「……ええ、それもまた間違ってはいないかもしれない。 けれど、それが本当の暴力を異能力の戦いに用いる理由になるかしら?」
「しつけえな。 なるに決まってんだろ、バーカ!!」
感情を出さず、冷静に反論していたイニだったが、今度は右手で頭を押し倒された。
「綺麗事なら勝ってから言えよ。 次そんな真似したら、タダじゃおかねえからな! このアマがよぉ!!」
脅迫とも取れる宣言の後、気味の悪い笑い声をあげて、フィールドから去っていく基。
「……ええ、ああ、そう。 ……とにかく、私には彼を上回るための努力が必要のようね」
だが、イニの表情に変化はなく、怯えているわけでもなかった。
基が出て、しばらくしてから彼女も立ち上がり、フィールドから去っていった。
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