第5話
「今度はなんだ……」
信はその電話に出る。
聞こえてきた声の主は―――――。
「網島くん。 手紙は読んだかしら?」
イニだった。
「読んだが……。 それより、何故お前が俺の端末に電話する事ができたのか説明してくれないか?」
「以前、チャットでクラスの人達に網島くんについてどう思っているかを訊いていたの。 その途中で、貴方の電話番号を知っているという人が教えてくれた」
「そんな事を訊いてどうするつもりだ……? しかし、この時代にチャットのメッセージで送って済む様な事を、わざわざ手紙で伝えるような奴がいるのか?」
「メッセージだとサーバーに残る上に、貴方以外の人にも見られるかもしれない。 それと比べれば、手紙なんか写真を撮られない限りは読んでゴミとして捨ててくれればそれで終わり。
要するに『機密のためにあえてアナログにした』、ということよ」
「はあ……それなら、なんでクラスの奴らに話訊くのに―――――」
「とにかく、手紙にもあったように、来月は学内代表決定戦があるから。 欠場するというのなら、事前に連絡しておいて」
話をしていた途中で、別の話に乗り出した。
この発言を最後に、電話は切断される。
「……なんなんだ、一体? 面倒な事を」
最初は決定戦に対して消極的だった信。
しかし、その後も練習は続けた。
そこから時は流れ、「学内代表決定戦」当日―――――。
土曜日だったのだが、信は異能技フィールド前に呼び出された。
「よお、網島!」
彼を最初に迎えたのは、異能技部の顧問だった。
「代表を決めるって時に、この様で大丈夫かよ……」
「まあいいだろ。 そんじゃ、この表の中で名前が書かれていない枠番を言ってくれ」
目の前に出されたトーナメント表は21人の異能技部員の参加する前提となっていて、その中の11の枠が既に埋まっている。
つまり、余っているのは10枠。
その中で彼が選んだのは―――――。
「1も21も埋まっているな。 それなら……4で良いか」
番号を言うと、左から4番目の空欄にレーザーで名前が刻まれる。
「4……忌み数じゃないか。 理由は?」
「理由か……特にはないな」
この時点ではまだ3番も空いており、誰が相手になるかは分からない状態だった。
その後、全ての枠が埋まった事が伝えられた。
初戦の相手になったのは、3年の
その後第一試合が終わり、信は異能技フィールドの中央へと歩く。
そして、相手と10メートル離れた所で立ち止まる。
「赤山というのは……お前か」
赤山―――――。
フルネームは「赤山
現在の異能技部では、3番目に強いとされている。
昨年は学内代表まであと少し、の所で油断した事が敗北へと繋がってしまい、大会に出る事ができなかった。
能力は「
弓に近い形の炎を次々と発射するものだ。
更に反射もする上、その威力は下手をすると一度これを使われただけで負けてしまうと言っていいほどには強力だ。
赤紫色の長めの髪で、縦ロールが入っている。
「そうよ。 手加減なし、全力で行くわ!」
「それなら俺も本気だ。 ただ、恨み合う事は無いようにな」
信にとっては初の学内代表決定戦―――――。
その初戦が、始まった。
審判が試合の開始を告げると、早くも赤山は能力を発動させる。
「今年こそ……代表になるんだから!」
弓矢のようにフィールドを駆け抜ける炎。
「速いな……何?」
目の前のものはどうにか避けられたはずだったが―――――。
彼女の能力は、それで終わるものではない。
壁に当たって反射したのだ。
その炎は勢いを増し、信に襲いかかる。
「どうなっている?」
「私が使う能力は、1年に見下されるほど弱いものじゃないのよ!」
これを避けきれなかった信の背中に、炎の矢が直撃した。
吹き飛ばされたが、すぐに起き上がる。
「……流石に強いな。 これが先輩の実力というものか」
その後は避ける事は出来た。
「この男の回避力……並の人間のそれじゃない!?」
だが、試合の流れは完全に赤山が掌握している状態。
「格上だろうが先輩だろうが、戦っていることに違いはない。 下らない負け方は……したくないんだ」
ここで信も流れを変えようと、雷槍を発生させようとする。
右手を囲うように発生する電気。
「させないっ!」
それを邪魔しようと、彼女は炎の矢を放つ。
「これで駄目なら……負けしかないな」
が、赤山の思い通りには行かない。
現れた槍は更に強い電気を帯び、その先端も
この槍を、彼は無心で投げつけた―――――。
「たったの一撃で……負けたくない!!」
一方の彼女も、更に発射する炎の矢を増やしてきた。
そして矢はほとんどが槍をかすり、そのまま信へと飛んでいく。
一方の槍も、勢いが衰える事なく赤山へ。
互いに壁に近い方へと吹き飛ばされていく―――――。
両者ともにほとんど起き上がる事の出来ない状態。
審判も両手を横に広げ、第三者の判定を待っている。
この戦いにも、ビデオ判定は存在するのだ。
その方法は―――――まず一度、とどめとなった能力が相手の体に当たった時をスロー再生のカメラの映像から測定する。
そして測定の結果から、どちらが先に能力を当てたのかを判定する。
数分間の判定から出された本当の勝者は、審判がどちらの手を横に広げたかに委ねられる。
今回の場合、右手を広げると赤山が、左手を広げると信が勝利したという事になる。
しかし、横に広げられた手は―――――右手だった。
判定によると、吹き飛ばされた時間の差はなんと「0コンマ2秒」。
あと僅かという所で敗れてしまった事になる―――――。
しばらくすると、二人共に立ち上がる。
「なかなかやるじゃない。 貴方、1年よね? これからも頑張りなさい」
「……そっちも頑張れよ」
信が言葉を返すと、赤山は顔を赤らめた。
「分かってる! で、でも……それを、網島くんのようなのから……言われるって……」
その時の彼女は、挙動不審気味になっていた。
「ん?」
「なっ、なんでもないから! 気にかけてもらえるのは、私だって嬉しいけど……」
その後、互いに違う方向からフィールドを去った二人。
異能技部の1年として挑んだ代表決定戦は、初戦で僅かな差で敗退するという結果となった信だが、去った時の顔には、悔しさや怒りなどといったものは無かった。
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