第4話

「一体どうして……?」

 なかなか能力を出せない信に、イニも思わず驚いてしまう。


 そのまましばらくの時間が経ち―――――。

「あの時を……思い出せ、俺!」

 信の右手には、電気を纏った銀色の槍が現れていた。

 そして彼は、槍を機械へと投げる。

 だが、その槍が刺さると、電気の影響で機械が暴走を起こした。

 この機械、ショートについての対策が為されていなかったのだ。

 信の方へと殴りかかろうとする。

「おい、網島!」

 これを顧問も止めようとしたが、機械の右ストレートが腹部に炸裂し、倒された。

「お、おい!」

 彼はイニに助けを求めるが―――――。


「私がやっても、ショートするだけ……」

 彼女は自らの能力が、逆に自体を悪化させると思っていた。

「ショート!? それは水の方だろ?」

 信はその事に対して怒るが、機械の攻撃は迫る。

「……仕方ないわね」

 イニは能力で、数本の氷柱を発生させた。

 だが、その時には既に手遅れ―――――。


「うおっ!?」

 信の左脇腹に、攻撃が当たった。

 しかし、その直後にイニの発生させた氷柱も機械に突き刺さる。

 

「助かった……。 だが、他の奴は大丈夫なのか?」

「今は答えられない。 とにかく無事を信じて」

「はあ……」

「……これでは、網島の能力の強さは計れないな」

 機械は殆ど刺さった氷柱の勢いだけで吹き飛ばされた。

 その後は練習を襲おうとした所を、他の部員の能力によって止められた。

 この騒ぎが収束すると部の練習も終わり、全員が帰宅した。


 翌日―――――。

 いつものように、学校に通う信。

 緑色の校舎や異様に長い一本道に道の側に一列に植えられた木々、そして一人真ん中を歩く中、その横で明るく雑談をする他の生徒も変わっていない。

 だが、校舎に入って廊下を歩き始めると、その孤独も一気に変わる。

「もしかして……網島くんだよね?」

 一人の女子が話しかけてきた。

「今度、ギターの弾き方教えてよ! ボーカルでギターなんだよね?」

「網島さんなら、声の出し方も教えてくれるはず……」

「髪型格好いい……」

 3人ほどに囲まれるが、ここは冷ややかに対応。

「悪いが、そもそも俺はロックバンドのメンバーじゃない」

「そうだったんだ、ごめんごめん」

 3人は離れていった。


 実は、信は学校では人気のある部類に入っている。

 赤のメッシュからか「ロックバンドのボーカル担当」と間違われているようで、女子からは声を掛けられる事も少なくない。

 その後も彼は数十人からの視線を気にせずに歩き、自分のクラスの教室へと入っていく。


 それから午前の授業が終わり、昼休み。

「何にしようか……」

 彼は昼食で何を食べるかについて悩んでいた。

 弁当を持ってきていないが売店のパンは異様に高く、具が不味い。

 そんな所に、助け船がやってきた。

「どうかしましたか……?」

 心配そうに声をかけてきたのはイニではなく、朝にも話しかけてきた女子の中の一人だった。

 

 制服のネクタイは濃い青色の生地に白と黄緑のチェック―――。

 彼と同じ学年だ。

「……またか」

「あの……良かったらこれを……」

 彼女が両手で渡すような形で机に置こうとしているのは、小さくて高くて不味い売店のパンの中でも特に評判が悪いとされる「スペシャル炭水化物」というパン。

 値段は840円。

 パンに大きな穴を開け、そこに焼肉と焼きそばの麺とチャーハンを詰め込んだものだが、あまりのネーミングセンスの無さと味の悪さからほぼ全ての生徒から忌み嫌われる一品。

 その嫌われようは、「朝食食うの忘れた奴ですら食わないパン」、「売れる事自体が都市伝説」、「食べ物で遊んではいけない事を教えられる」などと揶揄されるほど。

 学園では最近、あえてこれを大量に買い、他人の下駄箱に詰めるという嫌がらせも流行。

「翠学で最も嫌われるパン」の座を手中に収めつつある。

「おい、やめろ! スペシャル炭水化物化物を俺の机に置くな!」

 そのパンを警戒する信。

「えっ……?」

 彼女は掌の上のパンを床に落としてしまう。

 その眼鏡越しの目は、生気を失っていた。

「なんだ? またアレの事で衝突か?」

「もう売らない方が良いでしょ」

「本当に呪われてるよな、あのパン……」

 賑やかだった教室も凍てつき、冷ややかな会話がその空気を覆っていく。


「悪い。 汚物というのはスペシャル炭水化物の事で……」

「良いんですね? 食べなくて」

「……ああ。 スペシャル炭水化物あんなものを食うくらいなら、食わない方がマシだ」

「分かりました」

床に落としたパンも拾わず、彼女は信から去っていった。


「あの馬鹿ばか、わざとアレを出したのかよ……勘弁してくれ」

 愚痴がこぼれる信。

 結局、その後は席に座っているだけで昼休みは終わった。


 そして全ての授業が終わった後―――――。

「……なんだ、これ?」

 彼が帰りに下駄箱を確認した際、靴の上にあったもの。

 それは―――――誰が書いたかも分からない手紙だった。

「今時、伝える手段くらい幾らでもあるだろ……。 まあいいが」

 彼はその手紙を読まずに鞄へと入れ、自分の家に帰った。


 その後、信の自宅―――――。 

「……読んでみるか」

 彼は赤いシールを剥がし、中に入っていた白い紙の内容を確認した。


「『7月に開催されるU-18ワールド・マーシャル・アビリティ・チャンピオンシップ日本代表決定戦は、ルールにつき1つの団体から出場できるのは3人までとなっている』

『そのため、6月の初旬に日本代表決定戦への出場者を決める大会を行う』……はあ?」

 手紙の内容に呆れる信。

 彼の端末には、一通の電話が掛かった。

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