第2話
始業式が終わってクラスも決まり、普通に革翠学園の生徒としての3年間を過ごす事となった信とイニ。
学生証も配布された。
そんな2人も、入学から1ヶ月が経ち―――――。
「ねえ、網島くん?」
昼休みになり、信はイニから話しかけられる。
「何だ?」
「私は今日まで、貴方が異能力を使っているのを見たことがないけれど、隠していたりでもするのかしら?」
異能力についての質問だった。
「隠してねえよ。 特に意識していなかっただけだ」
「そう……。 でも大丈夫。 そんな貴方に、私から良い提案があるの」
イニは突然、ある提案をする。
「私と、異能力で勝負するのはどうかしら?」
「……待て。 いきなり何を言っているんだ?」
それは、戦う事だった。
「安心して。 普通にやっていれば、死にはしないから」
「それはいいとして……どこでやるんだよ?」
「この学園の敷地内にある、"革翠学園異能技フィールド"よ」
「異能技フィールド……?」
「異能力を使う、一種のスポーツで使われる競技場の事よ。 日本ではそれを"異能技"と呼ぶそうだれど、その発祥となるインドだと全く違う名前で呼ばれているの」
「異能技」―――――。
2021年のインド国内でほぼ全ての人類が使える事が判明した「異能力」で戦う、格闘技のようなスポーツ。
能力そのものは頭の中でイメージするだけで簡単に使える事、能力が弱くとも身体能力でのカバーが可能である事から、2021年当時は「20年経てばより規模が大きくなる」と言われていた。
2人1組で戦う「
インドの小さな村が起源で、2026年には世界中にスポーツとして広まっていた。
日本では2027年に日本高校生異能技選手権の第1回大会が行われ、協技部門で優勝した測天院高校の2年生の2人組と独技部門で優勝した革翠学園の3年生が、アメリカ国内で行われた第3回世界高校異能技大会に出場した。
だが、その結果は双方とも初戦敗退という形で終わっている。
装備については、当初は開始前に着ていた衣服でそのまま試合に臨む形だったが、現在では安全のため、両者が競技用のアーマーを足や体に装備して行う事が義務付けられている。
先に相手を5秒以内に立ち上がれないようにさせた方が勝ちとなるが、アーマーの装備が義務化される前は事故の発生や人体への負担等が問題視されていた。
また、審判による不公平・不自然なカウント、能力の暴走や悪用の可能性も問題になっていた。
世界大会は11月に、日本代表決定戦は9月に、日本での学内代表戦は学校によって異なるが、多くは7月から8月に行われる。
「そうなのか」
「ええ。 それでは、フィールドに行きましょう」
このあと信とイニは、異能技フィールドへと向かった。
六角形の屋根付きのスタジアムで、おそらく2500人は収容できるであろう観客席。
その中心の「フィールド」と呼ばれるコンクリートの床のようなものの上で、競技は行われる。
名前を書くだけで最長で2時間は借りる事が可能なため、異能技以外の用途でも使われる事も少なくない。
2人は、そのフィールドに向かい合うように立っていた。
20mほどの距離を置いて。
体には、競技用アーマーが装着されている。
「アーマーの用意は出来たかしら?」
「いや、心の準備がまだ……」
「そう。 でも、そんな事はどうでもいいわ。 試合……開始よ」
イニの宣言から、勝負が始まった。
開始早々、彼女は信へと向かって走りつつ能力を発動させた。
突如として出てきた、十本程の青い
「はあ!? なんだよ、あれ!?」
「貴方が何もしないままで、終わらせる訳にはいかないの。 これも貴方を思っての事」
「それは本気で言ってるのか!?」
「私は本気よ。 網島くん、私は貴方の本気が一体どんなものなのかを見てみたいの」
「……そうか」
氷柱は信に向かって発射されるが、彼はそれらを全て避けた。
その時、信とイニの距離は11mほどになる。
「当たらない……?」
「危ないな。 配慮の一つや二つはしろよ……」
この時にも信は、既に頭の中で能力をイメージしていた。
「そう言うなら、早く能力を出してみて。 貴方も、何らかの能力は使えるはずよ?」
一方でイニは、信の使える能力が見たくて仕方がない状態だ。
そんな状況で、信が発動させたのは―――――。
雷を
「あれは……"
信は、その槍を両手で抱えた。
「これが……俺の能力……」
「さあ、来て」
自分の能力で、青い氷柱を発生させるイニ。
「何度も言わなくて……いいだろ!」
そんな中で信は、右手だけに持ち変えた槍を力一杯に投げた。
「面白くなってきたわね。 でも……こうすれば」
しかし、イニの氷柱がそれに向かって発射される。
槍はその氷柱が刺さると水を
「えっ?」
驚く彼女。
しかし、槍は右肩の部分のアーマーの上をかする。
「少し右だったら、確実に負けていたわね……」
「嘘だろ……?」
「……さて。 私も、網島くんがどんな能力を使うのかが分かったとなれば、手を抜く必要もないかしら」
「待て。 本当にあれで手を抜いていたのか?」
一度囁いた彼女は、最初とは大きさも物量も異なる氷柱のようなものを出現させ、それを信へと発射した。
「……その通りよ」
「はあ!?」
手を抜いていた事を知らなかったのか、思わず大声で驚いてしまう。
「安心して、死にはしないから」
勢いが速くなっていた事も重なり、信は物体を避けきれず。
「ぐっ!」
物体が信の右肘のアーマーに当たり、すぐに倒れた。
「……やっぱり、行きすぎたかもしれないわね」
そこから信は5秒以内に立ち上がれず、勝負はイニの勝ちとなった。
「おいおい、流石に強すぎるだろ……」
信はその勝負の後、一度立ち上がる。
「安心したわ。 まともに食らって、怪我でもしたかと思ったけれど……」
「死にはしないんじゃなかったのかよ……。 それにしてもだ、お前はなんでそんなに強いんだ?」
「それは……詳しい事は、今はあまり言えない。 けれど、あえて言うとするなら、"両親のおかげ"かしら?」
こうして、信の初めての戦闘は、敗北という形で終わった。
その一方―――――。
「雷の槍と氷柱か……。 あいつらには負けられないな」
「相手も強そうに見えたんだけど……」
「そいつは見えてて真っ直ぐの攻撃すら回避できていない時点で、雑魚みたいなものだ。 その相手もボロクソだったし、勝って調子に乗ってるんだろ。 下手くそが」
「でも、本当に強いかはどうかは……」
「はあ? こんな奴ら、見た時点で弱いに決まってるだろ?」
「それにしても、相当低レベルな戦いだったな。 こんな奴らが俺達と同じ革翠の生徒とは思いたくないものだ」
「だよな。 あの雷野郎も、明らかに使いこなせていないように見えるからな」
フィールドの外では、数人ほどの集団が話し合っていた。
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