第10話 朝

 朝、ノスリさんが目を覚ますと、イトヨくんの姿がありません。イトヨくんが羽織って来たマントも無くなっていたので、きっともう帰ってしまったのでしょう。


 でも待って。イトヨくんのお家は無くなってしまったんじゃなかったかしら?


 ノスリさんは急いで空色の短いドレスに着替えて、家を飛び出しました。山をどんどん駆け下りて、驚くほどの速さで街に出ました。ところが街の様子が何だかいつもと違います。


 ノスリさんはいつものように貸本屋のおじさんのところに行きました。だけど、おじさんはいくら大声で呼んでも出て来てくれません。何か嫌な予感がしてノスリさんは外に飛び出しました。誰かにおじさんの事を訊こう。そう思うんだけれども、街を歩いている人が見当たらないのです。


 そうだ、牛乳のおばさんの所へ行こう。ノスリさんはドレスの裾を翻しておばさんの所へ向かいます。途中でいつものお婆ちゃんに会いました。


「おばあちゃん、おはよう。今日は人が少ないのね」

「おや、ノスリちゃんは知らなかったのかい? この街の人はみんな流行り病にかかってしまったんだよ。ほら、南の湖が汚れちゃっただろう? あの水のせいで病気がどんどんうつってねぇ。病人は寝込んじゃってるし、元気な人はあの湖の埋め立て工事に駆り出されてるよ。こうして街に残ってるのはあたしら年寄りだけさ」

「そうだったの……教えてくれてありがとう」

「あ、ちょいとノスリちゃん、どこへ行くんだい?」

「南の湖」

「ダメだよ、あんなところに行ったら病気になっちまう」

「行かなきゃいけないの。友達が……多分そこにいるの」


 ノスリさんはもう駆けだしていました。

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