第5話 雨
翌日は雨でした。ノスリさんは雨の日はお出かけしません。日がな一日、椅子に座ってお茶を飲みながら、誰にも邪魔されずに本を読むのです。これが彼女の至福の時間なのです。
しかし今日は邪魔が入りました。誰かがドアをどんどんと叩いています。
「誰かしら……」
ノスリさんはお城の入り口を開けて驚きました。イトヨくんが立っていたのです。
「まあ、イトヨくんじゃないですか、どうしたんですか」
「……遊びに来た」
ノスリさんはとてもとても驚きました。
「本当ですか。本当に遊びに来てくれたんですね!」
イトヨくんは黙って頷きました。
「さあ、入ってください、お茶を淹れますから」
イトヨくんは頭から被ったマントを取ると、昨日のように椅子に座って壁のたくさんの本を眺めました。
「すごい本……」
「ええ、ここのお城に最初からあった本に、私が貸本屋さんから貰った本をどんどん追加してるんですよ」
イトヨくんは黙って本の背表紙を眺めます。相変わらず無表情です。
「お茶どうぞ」
「……ありがとう」
しばらくお茶を飲みながら本の背表紙を眺めていたイトヨくんが、不意に口を開きました。
「この本……見てもいい?」
「ええ、どうぞどうぞ、どれでも見て下さい。本も読んで貰った方が喜ぶから」
イトヨくんは湖の本を見ていました。彼は文字が読めないのでしょうか、絵の部分だけを一心不乱に見ています。
しばらく夢中になって本を眺めていたイトヨくんが、急に本を閉じました。
「僕、帰る」
「もう帰っちゃうんですか。もう少しゆっくり見て行けばいいのに」
「あの……」
「ええ、また来てください」
「そうじゃなくて」
「なんですか?」
「あの……僕の、友達になってくれる?」
……ともだち。
「はい、喜んで。イトヨくん、今日から私たちは友達ですね」
「ノスリ、また来るね」
イトヨくんはマントを被って出て行きました。チラッと振り返った彼の顔には、はにかんだような笑顔が浮かんでいました。イトヨくんはもう振り返りませんでしたが、ノスリさんは彼が自分の事を「ノスリ」と名前で呼んでくれたことが嬉しくて、見えなくなるまでずっと何度も何度も手を振りました。
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