第50話

 そしてそれからも訓練は続き春休みは神社以来襲撃も無く自己強化につとめることができた。その頃には綾たちも最初の頃と比べて見違えるようになった。学校も無事に始まり何時もの日常へと戻っていった。


「あれ以来何事も起こらないな」


「そうだね」


 そんな中、京也と里香、真央の三人は他に誰も居なく静まり返っていたサバゲ部の部室に集まっていた。


「単純に考えるなら一回負けて戦力を整えてる、って事なんだろうが・・・」


「でも紗奈ちゃんが言ってただけの人数が関わってるならまだまだ余裕があるはず・・・なんだよね」


「ああ」


 京也が内心で思っていたことを里香が引き継いで言った。


「嵐の前の静けさって奴かな」


「そうかもしれないな」


 京也は少しの間黙って物思いにふける。


「そうだな、今までは校内だけ警戒してたけど浜白高校の周りも見回りする事にしよう」


「分かった」


 特に話すことも無く話を聞いていただけの真央だったが異論は無いらしく肯定する。そして、里香も頷いた。


「それじゃあ今日は言い出した俺が行ってくる」


 そう言って京也はドアを開けて部室からでて行った。

 里香と真央もその場に残る理由もなかったので次の日にどちらが見回りをするか取り決め、部室を後にした。

 正門からでた京也はひとまず学校から一番近い駅に向かう。道中、正月も過ぎ普段通りの生活に戻っている学生や社会人もいるなか、街はまだ正月の飾りなどが幾らか残っていた。そんな、いつもと違う風景を見ながら怪しい行動をしている人物や不自然な物が置いて無いかなどを、調べていく。

 学校や会社から家へと帰る人で、賑わう中を一人で見落とすこと無く見回るのに苦労するが、やって行くうちに段々と要領を得ていく。

 だが、数時間かけて見回りしたが怪しい人物も見かけることがなく普段の平和そのままだったので京也は寮に帰ることにし、来た道を戻っていく。

 浜白高校に戻ってくると校門で携帯を弄っている男がいた。上手く目立たないようにしているが、京也は先程怪しい人物を見分けるコツを得たのでその事に気づくのに時間はかからなかった。その男をよく見て見ると視線が携帯以外の場所を行ったり来たりしていたのだ。そして、男がその場所から離れ始めると京也はその男の後を付けることにした。

 男は正門を離れると人混みの多い駅前へと向かっているようだった。京也も付かず離れずの距離を保ちながら怪しまれないように尾行するが、地元の人間なのか、何回か下見に来ていたのか、迷うことなく小道を進んで行くので後をついて行くのにも一苦労だったが何とか着いて行く。そして、一際人がいない路地裏に男が入った所で京也は動いた。男の後ろから音を出さないように近付き寄り右腕を捻るようにして掴み足を払い一瞬のうちに跪かせた。


「ッッ⁉︎」


 倒された男も一瞬で組み敷かれた事に驚愕するもすぐに状況を理解し反撃に移ろうとするがそれを許すほど京也は甘く無かった。


「どうして、浜白高校の前でうろついていた」


 そして、力を入れる手を緩めずに相手の行動を制限しながら男に問いた。


「お、俺はただ道に迷っていただけだ!それなのに、なんでこんな事をするんだ。早く離してくれ!」


 あくまでも自分は一般人でありこの拘束を解いて欲しいと懇願するふりをするが、男の目には鋭く光る物があり決して油断してはならない事がうかがい知れた。


「そんな嘘に騙されると思っているのか?さっさと喋った方が身のためだぞ」


 京也は相手の腕を締め上げる力を強めながら言う。


「・・・」


 それでも中々口を割らないのでさらに徐々に力を込めていくも無言のままで居るので腕の骨を折るしかないと京也が判断しかけた時になって男は口を開いた。


「ぐっ・・・わ、分かった。分かったからその手を離してくれ」


 男は諦めた様子で腕にこめていた力を抜いて抵抗する意思が無いことを京也に伝える。あっさりと諦めた辺りからして、金で雇われただけの部外者であろうことが知れた。

 京也は言われたことを馬鹿正直に応える事はせず腕に込めていた力を弱めるも腕から離さず拘束したままにする。


「頼まれたんだよ、小柄な奴に」


 どうやら京也の予想は当たっていたようで、男は頼まれただけらしくそれほど有益な情報が貰えることはなさそうだ。


「なんて頼まれたんだ?」


「この女の子の事を調べてくれ、と」


 男はそう言いながら写真を取り出して、京也に渡す。そこには加耶の姿が写っていた。


「これを渡した男とはどこで?」


「駅前だよ。怪しいとは思ったが金なくて困ってた時に金くれるって言われて、断れなかったんだ」


 この男が言っていることはどうやら本当の事らしく不自然な点は見られなかった。


「報告はどうする予定だったんだ?」


「駅前で落ち合う事になってる」


 それを聞いた京也はこれからのことを考え始める。電話での連絡ならともかく実際に会って話となると表情や言葉の少しの変化からこちらの事がばれてしまう可能性がある。それを恐れているのだ。だがしかし、これは情報を手に入れるのにまたと無い機会だ。そこで男には待ち合わせの場所に行ってもらい京也はその後をついていく事にした。

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アルケミー 橋場はじめ @deirdre

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