第49話

 その日は、ここ数日忙しくて手の出せていなかった趣味の一つである読書をすることにした。今回読むのは家庭菜園の本だ。京也の読む本は娯楽として小説の時もあるが基本的によく読む本は自分の知らない事や興味がある事が書いてある物だ。そうしたことで自分の見識を広げていくのだ。

 しばらく読みふけっていると日も沈み始めてきたので窓のカーテンを閉めて藤堂に今日の顛末を連絡することにした。


「おう、俺だ」


 この日は藤堂にしては珍しく直ぐに電話にでた。京也は昼間綾達としていた訓練の事を話した。



「・・・そうか。いかにせ学校で大事にすることはないとは思うが神社のことがあるからな。用心しとくんだぞ」


「ああ、分かってるよ。任務に感情はなるべく持ち込みたくなかったがこれだけ近くにいると情も湧いてきち待ったし」


「お前いつもそんなこと言ってんな」


「しょうがないだろ。頭で分かってても出来ないこともある」


「理解出来ない訳ではないが、割り切らないとやっていけないこともあることも覚えておけよ」


「・・・」


 非公式であるが政府運営の組織であるため融通の効かないことも多い。そんな中ある程度京也達が自由に動けるのは藤堂の存在が大きく、本人には内緒だが密かに感謝していた。


「まあ・・・いい。くれぐれも軽率な行動はしないでくれよ」


 そう言い残すと藤堂は電話をきった。


「俺だって分かってるての」


 そう一人呟く京也だった。

 電話の後はだらだらと過ごし夜遅くと言える時間に差し掛かったところで寝ることにした。


◇◇◇


「今日は昨日教えたことを復習するのと体に馴染ませるために繰り返し同じ事をする」


 翌日の昼に再度綾達を集めての特訓に勤しんでいた。

 いついかなる場合でも手間取らずに咄嗟にできるようにするためには繰り返して体に覚えさせるしかないのだ。


「もっと、こうぱぱっと上達する方法とかないのか?」


 その単純作業に嫌気がさしたのか綾がぽろっと言った。


「あのな、そんなのがあれば教えてるっての。それに最後に頼れるのは結局は自分の力なんだからな」


「そんなものか」


「ああ、だからサボろうとせずにちゃんとやれ」


「サボろうとなんかしてないって」


「そうか」


 京也には単純な訓練で焦る気持ちも分かっていたがこのことに関してはこれが一番の近道であることを経験から知っていた。

 真央と紗奈は特に問題もなく平和に訓練をしていた。となりでその様子を見ていると紗奈の呑み込む速度が速く元々の素養の高さを伺わせていた。今まで一緒に鍛えてきた綾はそれを見ていてさっきの言葉を口にしたのだと京也は思った。

 加耶と里香は昨日と同じく体力作りに出ていた。

 焦る綾の気持ちを上手く発散させるように考えながら教える。

 京也も身近だった真央と比べられたりして鬱屈とした気持ちを味わった時期が少なからず存在しているのだ。その苦い記憶があるため同じ思いをさせまいと考慮していた。その結果綾は厳しいながらも鬱憤のたまらない指導を受けることができた。

 そして一方の京也は技術だけでなく銃を持つ者としての心構えも教えた方が良いかもしれないと思った。銃を持つという事は思いがけ無いことで人を傷付けたり殺してしまう可能性を孕む事と同義であり軽視して良い問題では無いのだ。今回はまだまだ教える事があると学んだ訓練となった

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