第44話

「まだ始まるまで少し時間に余裕がある。それまでに作戦考えようぜ」


 綾は京也たちと別れた後そう言った。神社の時の京也たちの動きを見て自分たちでは正面からの勝負で勝てないと踏んだからだ。

 加えてサバゲ部員である里香以外はこのフィールドの構成を理解していないはずなので、慣れている綾たちの方が有利なためそれを生かすためにも作戦をたてて有利に事を進めるつもりであった。


「そうは言っても実力差がある以上挟み撃ちとか陽動をかけるとかは難しいと思うよ」


 紗奈がここで言った実力差とは綾たちと京也たちの差の事もあるが、綾と紗奈の二人と加耶との実力差の事も兼ねていた。戦力を小出しにするのは愚策であった。


「多分京也たちは俺らの方がフィールドの事を詳しいから奇襲してくると考えてだろうが、それに乗っかろうと思う」


「大丈夫なの?そんな作戦で」


「ああ、同人数で戦っている限り俺たち不利は覆らない。だから、まずあいつらの予想通りだとしても人数差を作らないと。それに京也は身構えないでって言ってたけどやるからにはやっぱ勝ちたいからな」


「まあ、そうね」


 二人とも負けず嫌いな性分なので張り切っていた。そんな二人を見て自分もせめて足を引っ張らないように頑張ろうと思う加耶であった。

 そうこうしている間に時間も過ぎ開始時間である三十分に近付いてきたのでマガジンを入れたCZ100をコッキングし、BB弾をチャンバーに送り込む。


「みんな準備はいいか?」


 そう言って目線を紗奈たちに向けると加耶がこれでいいのかと紗奈に尋ねている所だった。

 紗奈が確認し、改めて注意点を説明し終えると綾に向かって準備が出来たと頷いた。


「・・・よし、行くぞ」


 腕時計で時間を確認し、三十分ジャストになった所でそう言いながら事務室の扉を開けた。

 そのまま加耶に速度を合わせながらも走る。二階へと上がる階段は京也たちのいる奥の方と綾の方と二つ存在するが京也たち側にある階段を登ることにしていた。なので近くにあった階段を素通りして進んで行く。

 京也たちがどのルートで進んでくるのかは分からないが早く動けば階段から降りてきた京也たちと近い状態で接敵するか、二階を進む京也たちの裏を取ることができる。

 そのまま進み奥の階段に近づくが京也たちと会うことはなかった。

 ここまで来て会わないとなると京也たちは二階にいるという事になる。綾と紗奈が先頭を行き階段の上を気にしながら登って行く。二階へ着いても変わったことはなく平穏であった。

 壁から少し顔をだして二階の通路を確認するが人影を見つけることはできなかったと思ったがよく見据えてみると、反対側の階段に少し動く人影を綾が発見する。


「どうやら、入れ違いになったらしい反対側の階段を降りて行ったみたいだ」


 その事を紗奈と加耶に伝える。


「どうするの?」


 紗奈は綾に尋ねる。このどうするのは、今登って来た階段を降りるのか反対側の階段を降りるのかという意味であった。この時の二人には京也たちが罠を張っているという考えは頭から抜け落ちていた。


「後を追おう」


 今来た道を戻り京也たちと遠距離で出会うのは不味いとの判断だ。紗奈や加耶も同意らしく頷く。

 順調に階段までの距離を詰めて行きあと少しとなった所で通り過ぎた教室のドアが開く。そこから、エアガンを構えた真央が半身だけのりだした。

 それを発見した綾は咄嗟に撃ち返し、紗奈は加耶を庇うようにして階段の近くにある物陰に隠れる。


「くそっ、待ち伏せか」


 毒を吐きながらも頭の中では冷静に物事を考えようとする。

 京也たちの練度の方が自分たちよりも上だと知って小細工は無いと決めつけてしまった綾たちのミスだった。


「下に降りる?」


 階段に目を向けながら加耶が聞く。


「いや、さっきの人影も罠の内のはずだ。てことは下に逃げてもこの場にとどまるのと大差ないはずだ」


「気は進まないけど真央ちゃんを強行突破するしかないね」


 自分たちの練習を見てくれていた真央の実力は長い間見てきたのもあり綾たちのやる気を削いでいた。

 それでも下にいるであろう京也と里香の二人を同時に相手するよりはマシである。まず、この中で一番背の高い綾が先頭になり、その後ろを紗奈と加耶が一列になり突撃する。

 真央も反撃し先頭を行く綾に当て、すぐに隠れようとするがその前に紗奈が反撃し、跳弾したBB弾が被弾する。

 紗奈は真央がヒットしたことを確認すると加耶を連れて来た道を戻ろうとするが既に二階にあがって来ていた京也と里香に集中砲火され加耶と一緒にヒットし、考えた作戦を崩され手も足も出せずに負けてしまった。

 実力差を始めから理解しての試合だったがそれでもあっさりと敗れた事に綾と紗奈は自分たちの不甲斐なさを噛み締めていた。

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