第28話

 電車を乗り継ぎ目的地である神社に向かう。

 天気も良く京也たちの様に初詣に行くらしい人達も見受けられた。

 そんな人混みだが着物を着た女性陣や身長の高い男性二人組の京也たちほど目立つ人はいなかった。


 ◇◇◇


 そして神社に無事に着くことができた。

 他に初詣に来ている人も多く、とても混んでいた。

 この神社は周りに高い物が無く空気も澄んでいるので、あたりの景色が美しく見えるのが人気の秘訣だ。

 そして夜には境内に取り付けられたイルミネーションが光って夜景と合わさりとても幻想的な景色にもなるのだ。

 浜白高校ではここ数日雪は降っていなかったがこの神社の辺りでは降っていたらしく所々に溶け切っていない雪が積もっていた。

 小さな子供たちはその雪で小さな雪だるまを作ったりして遊んでいた。


「寒いのに元気だな」


 寒いのがあまり好きではない綾はそんな事を言う。


「なんか、年寄り臭いよ」


 紗奈はそう返し、綾が少しショックを受け言い返しているがいつも通りの事なので慣れてしまった京也たちはほっとくことにした。

 綾と紗奈も軽く言いあっただけですぐにやめていた。

 大人数な上に人混みで離れ離れになった時のために入り口にあった鳥居に何かあった時に集まる事にした。


「着物着てる人少ないねー」


 と里香が自分たちが目立つ事を気にしてつぶやく。


「まあ着物持ってる人少ないだろうし、動きにくいからね」


 紗奈が自分のきてる着物を見ながら言う。


「でも綺麗で私は好きだよ?」


 NSGには着物なんて物はなく、幼い頃から着物を直に見たことが無かった里香は実際に見て着ることができてとても嬉しそうだった。


「そう言ってもらえると私も嬉しいよ、里香ちゃん」


 持ってきたかいがあったとばかりに加耶が答える。


「でも、どうせならお兄ちゃんたちのもあったら良かったのにね」


「そうか?まあ、いつか機会があったらな」


 里香の事だからそのうち忘れているだろうと適当に返す京也。


「綾は前一回着たことあるよね」


「ああ、中学時の修学旅行の時の事だろ?」


 綾は前に来たことがありそれを紗奈が思い出していた。


「あん時はあんたも素直で可愛かったよね」


「うるせ」


 思い出話に花を咲かせる二人を微笑ましく眺めていると京也は道行く人の中に見知った顔を見た気がした。


「ん、どうかした?」


 真央にそう聞かれたがすぐに見失ってしまったこともあり「なんでもない」と返した。

 そしてそのまま話しながら歩いていき、無事に本殿に着くことができた。


「みんなはどんなお願いをするの?」


 本殿には既に列ができており並んで待つ時間ができてしまった。

 ただ待つのも暇なので時間を潰す意味も込めて里香はみんなにそう聞くことにした。


「俺はなにも」


 京也がまず願うことはなにも無いと言う。


「私は勉強の事かな」


 紗奈が京也に続くと里香がそれを横からニヤニヤしながら見ていた。


「な、なに里香」


「いや、本当にそのお願いで良いのかなと思って」


「まあそりゃあ、本当に叶えたい事は他にあるけど」


 とそこで一息入れ、ためらいなく次の言葉を繋げる。


「そっちは神頼みじゃなくて自分でなんとかしたいからね」


 その言葉を聞いた綾以外の事情を知るメンバーは意外そうな顔をする。


「珍しいね、紗奈ちゃんが否定しないの」


 一瞬戸惑いを見せた紗奈だったが別に言ってもいいかと思い反論することをせず少し顔を赤らめつつも素直に答えることにした。


「みんなには暴露てるしもういいかな。あとで後悔したく無いし」


 言い切った紗奈はさらに赤くなっていたが、誰もその事を茶化すことはせずただただ優しく見守るのだがその中で一人、綾だけは最初から最後まで何の話だか分からなかった。

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