第19話

同日、朝方。


「あー、もうこんな時間か」


 それまで動きのなかった部屋で動きだした影が一つ。

 すぐそばに置いてあった目覚まし時計で時間を確認しながら綾はそう一人呟く。

 今日は前から紗奈と買い物に行く約束をしていたのだった。

 綾は同室のクラスメイトが目覚ましの音を物ともせず眠っているのを見やると二段ベッドの下段からでて、出かける支度をする。

 朝食は買い置きしてあった菓子パンだ。昼食は紗奈が考えてあると言われたので綾は準備をしていなかった。


「遅れるとうるさいからさっさと行くか」


 そう独りごちた綾は音を立てないようにドアを開け部屋を後にした。

 寮をでた後に紗奈が待ち合わせ場所に指定してきた近くの駅へと向かう。

 少しの間歩いて目的の駅に近づくと入り口に紗奈の姿が見えた。


「これでも、早めにきたつもりだったんだけどな」


 そう呟いた近寄ると綾がきた事に気づいていた紗奈は「綾にしては、早く来たね」と言う。

 そんな紗奈の服装は黒のチェック柄が入った赤いスカートに淡い水色のロングTシャツに黒いパーカーだ。


「なんだ、もうきてたのか」


「偶然朝早くに目が覚めちゃったからね」


「そんで、今日はどこに行くんだ?」


「んー着くまで秘密って事で」


 そうはぐらかし、駅の内部へと黙々と足を動かし始めた紗奈に黙って後ろをついて行く綾。

 紗奈に従って電車の切符を買い駅のホームへ行き、適当に暇を潰し駅にきた電車に乗り込んだ。

 そのまま電車を乗り換える事もなく数十分後、目的の駅につき紗奈につられるようにして綾は電車を降りた。

 電車を降りた所は浜白学園がある場所に比べてひと気が多く、活気があった。


「それで、これからどうすんだ?」


「バスでここから20分もしないうちに着くと思うよ」


「また、くるまで待つのかよ」


「そう文句いわないの」


 少ししてきたバスに二人は乗り込んだ。

 二人で並んで座り暇つぶしのための他愛ない話を始める。


「そういえば、里香ちゃんって元々サバゲーやってたのかな?」


 綾が最近部活をやっていて気になっていた事を紗奈に聞く。


「んーどうなんだろ。確かに私達が小さかった時よりもやってる人は増えてきてるみたいだけど、他のスポーツとかと比べるとサバゲは全然だからね」


 紗奈も似たような事を思っていたらしく否定しないで話にのる。


「でも、俺たち経験者の中に混ざってやってるのに結構勝ってるぜ里香ちゃん」


 部活内で試合形式でやったりする事もあるが、里香は大抵の試合で活躍していたので、二人とも興味が湧き上がってきた。


「もしかして、京也君がサバゲやってて里香も一緒になってやってたとかかな?」


「でも俺、あいつからそんな話聞いた事ないぜ?」


「別にあんたになんでもかんでも話すわけじゃないでしょ」


「それはそうだけど」


「それに里香があれほど動けるのは気になるけど里香は大抵のスポーツは器用にこなすからね・・・」


 紗奈が嫌味の感じさせない羨望を含めた声色で言う。


「そんな、なんでもかんでもできる奴のが少ねえっての」


 それに対し紗奈を気遣うようなそぶりを見せながら綾が返す。


「・・・それもそうだね」


 紗奈は綾が自分の事を気にしてくれた事に気づき少し嬉しくなる。

 そして、その事を悟られないように綾に他の話をふっていった。

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