第6話

「昨日はごめんね、京也くん」


 教室の扉を開け中に入った京也に加耶が申し訳なさそうに謝ってきた。

 実は昨日サバゲ部を出た後加耶の携帯に電話がきて、急用が入ったらしく部活紹介はお開きとなったのだ。

 加耶はその事を気にしているらしい。


「気にすんな、急用じゃしょうがない」


「また今度ちゃんと部活紹介するね」


「何回も紹介するのは面倒だろ?俺は保健委員で良いし、あの後里香から話を聞いたんだけど里香はサバゲ部に入るらしいから大丈夫だ」


「本当に良いの?」


 京也が自分の事を気遣って言ってると思ったのだろう、また謝りそうな雰囲気で言ってきた。


「ああ、俺なりに考えてだした結論だ」


 京也達の転入してきた理由が加耶の護衛なので、京也か里香が同じ部活に入る事は元々決まっていた事だ。

 昨日里香がサバゲ部に入りたいと言った時点で京也が保健委員に入るのは決まっていた事だ。

 女子寮の護衛を里香に任せるしか無いので部活は(体を動かすのが得意な里香の事なので運動部に入るだろうと思っていた)好きな所に里香が入る事にすると事前に話していた。


「そっか、一緒に頑張ろうね」


「よろしくな」


 ◇◇◇


「京也、キャッチボールやろうぜ」


 昼休み、自分で作ってきた弁当を食べていた京也に綾が話しかけてきた。


「なんでこんな寒い時期にキャッチボールやりたがるんだよ」


「だって今までキャッチボールしてくれる相手が居なかったんだからしょうがないだろ」


「友達居ないのか?」


 転入してきたばっかの俺にも友達居るぞと綾を見る京也の目線が語っていた。


「友達は居るっての。キャッチボールしてくれる奴が居ないだけで」


「まあ暇だし、いいぞ」


「私もやる」


 後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「三人でやるからボールは良いとしてグローブはどうすんだ里香?」


「私が友達から貸してもらうよ」


 返事は話しかけてきた里香ではなく、紗奈が答える。


「ありがと紗奈ちゃん」


 里香も来るとなると加耶が心配だったが意外な事に加耶も「私もやっていい?」と紗奈に続いて言ってきた。

 運動が好きな感じは今までしなかったのだが好きなのだろうか。


「それじゃグローブのついでにボールももらって来るから三人でやろ」


「そんなに何個もグローブ大丈夫か?」


 グローブを借りると言った時よりも人数が増え大丈夫なのか心配になった京也は率直に紗奈にきく。


「その友達ソフト部だから部室に何個か置いてあるの貸してもらうよ」


 話がまとまったので紗奈の友達に道具を借り外に出る。

 この学校は生徒数が多いこともあって運動場がそれなりに大きい。

 野球場やサッカー場も個別にあるらしい。

 里香達三人組と少し距離をおき綾とキャッチボールをする。

 さまになっている投球で綾がボールを投げてくる。

 京也も危な気無くボールをキャッチし返球する。

 そして、いくらか時間が経ち綾が普通にボールを投げ返したボールが京也と綾の距離の真ん中ぐらいに差し掛かったその時。

 急にボールに茶色の光が現れ軌道を変化し斜め右後ろでキャッチボールしていた紗奈の方へ速度を上げ向かいはじめた。


「!」


 京也は突然な事にも即座に反応し右に走り捕球しに行く。

 ボールの方が少し早く京也の横を抜けそうになったが急に茶色の光が朱色に変わり、速度が落ち京也が普通にボールをグローブでつかむ。

 驚いた様子で投げた場所から動かず見ていた綾にボールを投げ返す。

 惚けていた綾は我を取り戻しボールをキャッチする。

 京也が綾の方へ戻ると、


「すまん・・・助かったぜ京也」


 さっきのは暴投というにはおかしな軌道だったが綾は自分のせいだと思ったらしく謝る。(魔法は一部の人間しか存在を知らないから別段おかしな事では無い)


「気にすんな、そんな時もある」


 京也は綾から距離を取りグローブを構えキャッチボールを再開する。


 ◇◇◇


 キャッチボールを終え午後の授業を受け終わった京也は里香を自分の部屋へと誘った。(サバゲ部は今日活動が無いらしい)

 この学校の寮は異性の寮に行くのは遅い時間で無い限り問題ないのだ。


「キャッチボールのアレってやっぱり魔法だよね?」


 寮の自室に誘った理由が分かっていた里香が先に口を開く。


「ああ魔法を使った時にでる独特の光が見えた」


 マナが魔法を使った時は魔法が干渉している物と本人に独特の光(人によって光の色が異なり、この光は行使者にしか見えない)が現れる。


「何色だったの?」


「茶色だった」


 ちなみに里香の色は朱色だ。


「でも加耶ちゃん狙いじゃなかったよね」


「まさか紗奈が狙われるとは思わなかった」


 その事は京也も意外であり、疑問に感じた事だった。


「紗奈ちゃんも何かあるのかな?」


「さっき紗奈の事は親父とうどうに調べてくれるように頼んだから連絡待ちだな」


「そっか、じゃあ紗奈ちゃんが心配だから帰るね」


「助かったよ」


 キャッチボールの時、魔法がかかったボールを里香が減速魔法をつかってくれ無かったら京也はボールを取れていなかった。

 里香は可愛らしくにこりと微笑むと自分の部屋へと帰って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る