第3話
「朝だよ、起きて」
寝ている里香を呼ぶ声がする。
「んん、もうちょっとだけ・・・」
「ほら時間だよ」
そう言いながら身体を揺さぶる。
「もぅ、分かったよお兄ちゃん」
里香は寝ぼけながら起き上がった。部屋の中には何か良い匂いがした。
「私は、あなたのお兄さんじゃありません」
里香はそう言われ昨日から学校の寮で暮し始めたことを思い出す。
顔をあげると、そこには紗奈さなの顔があった。紗奈は昨日里香がクラスで話をしていた娘で、寮では同室になった。
その際、銃などは一人部屋となった京也に預かってもらい、いざという時は魔法で転移させる事にした。
里香はその事を思い出し、「おはよう紗奈ちゃん」と挨拶をした。
「おはよう。いつも、お兄さんに起こして貰ってるの?」
「お兄ちゃんは、寝起きが良いからね」
紗奈は明るく元気な娘で中学まで、陸上部に所属していた。
高校に入ってから友達に誘われサバゲ部に入ったらしい。
「ご飯食べて学校行こっか」
「そう言えばここは食堂とか無いんだね」
「高校でて一人暮らしする時に困らないように食堂無いんだってさ」
「へー」
「里香は料理出来るの?」
「凝った物は出来ないけどね」
任務の時に現地で料理がでるとは限らないので、ある程度の物は自分で作れるようにしている。
「じゃあ一日交代で料理するって事で良い?」
「あんまり期待しないでね」
「私だって上手くないしお互い様だよ」
紗奈はそう言いのこし、台所に向かった。
里香は制服に着替え顔を洗って台所に行くと紗奈がテーブルに朝食を並べていた。
寮の台所は近くにテーブルがあり、食べられるようになっている。
「美味しそうだね」
「ありがと、って言っても簡単な物ばっかだよ」
「そんな風には見えないんだけどな」
そう呟いた里香は、早く食べたいといった様子で席に着いた。
それを見た紗奈も里香に続いて席に座る。
『いただきまーす』
「ん、美味しーよ紗奈ちゃん!今日も寒いし温かい料理は良いね」
里香は行儀の良い動きで箸を進める。
そんな様子を見ていた紗奈も料理に口を付けるのであった。
◇◇◇
『ごちそうさま』
食べ始めから時間が過ぎ二人とも朝ご飯を食べ終えた。
「さて、片付けますか」
「うん、手伝うよ」
立ち上がって片付けようとする紗奈に声をかける。
「じゃあお皿洗ってくれる?私は拭くからさ」
「りょーかい」
二人は丁寧に皿を洗いだした。寮の台所は広く二人一緒に作業出来るぐらいの大きさはあった。
「そういえば、里香はお兄さんとは本当の兄妹じゃないんでしょ?」
「そだよー」
里香はいつもの調子で答える。紗奈もその様子を見て話を続ける。
「やっぱり途中からお兄さんができるって変な感じするの?」
「んーとね、実はちっちゃい頃にお兄ちゃんが出来たからあんまり覚えてないんだ」
「てことは、義理の兄妹と言うより普通の兄妹みたいな感じ?」
「普通の兄妹がどんな感じかは、知らないけど多分そうだと思うよ」
義理の兄妹のことはでも、普通の兄妹がどんな感じなのか分からないのは嘘偽りのない言葉だった。
京也も里香も親に捨てられた身であったし、藤堂に拾われてからも、兄妹そろって普通の人間ではなかった二人は訓練を受けて来た。
京也と里香の仲は、兄妹と言うより戦友と言った方が正しいのかもしれない。
「ごめんね、立ち入った事聞いちゃたかな?」
「大丈夫だよ、それに聞かれたくなかったら最初から秘密にしてるし」
「そっか・・・そうだよね」
「よーし、早く洗い物洗って学校行こ」
「転校してきた次の日に遅刻なんてしたくないもんね」
「うん!」
里香は学校に通学する事が出来るのが嬉しくて、笑顔で返事をした。
◇◇◇
紗奈と話ながら学校に向かっていると「あれ、里香のお兄さんじゃない?」と紗奈が前をむいて里香に聞いてきた。
「どこ?・・・あ、居た!」
里香が探すと京也が少し先を歩いていたのが見えた。
京也を発見した里香は紗奈の手を引いて京也のもとに駆け寄る。
「お兄ちゃん」
里香が後ろから呼びかける。
「里香か、なんだ?」
「あのね、紹介したい友達がいるの」
そう里香が言って後ろにいた紗奈の方を向いた。
「この娘は寮で同じ部屋になった紗奈ちゃん。同じクラスの私の前の席の娘だよ」
「深条しんじょう 紗奈さなです。よろしく」
「里香の兄の京也です・・・って同じクラスなら知ってるか。よろしく」
里香は京也がまたニックネームをつけようとするかもと思ったが昨日の事もあって諦めてくれたようだ。
「寮生活はどうですか?」
「思っていたより、生活しやすいな」
京也も料理できるし、朝も強いので問題は無かった。
「そっちは、里香と一緒で大丈夫か?」
「ちょっとお兄ちゃん、それどういう意味?」
そんな事無いよと、言わんばかりに里香は京也の方を向く。
「お前はそそっかしいからな」
「そんな事ないよね、紗奈ちゃん」
「朝起こした時は、寝ぼけて私をお兄ちゃんって呼んでたけどね」
紗奈に助けを求めたが、逆に今朝の事を言われてしまった。
「もう、紗奈ちゃん!」
今朝の忘れようとしていた出来事を言われ、里香は恥ずかしくなっていた。
「やっぱ、相変わらずみたいだな」
「でも良い所もあるし、今朝は里香ちゃんの可愛い一面が見れたので嬉しかったよ」
「ほら、迷惑にはなってないでしょ?」
私の事は問題ないよ、と里香の目は物語っていた。
「それなら良いんだが、ここに居ても寒いだけだし行こうぜ」
そう言った京也はゆっくりと歩き始める。
それを見た里香は紗奈の手をとる。
「私たちも行きますか」
「うん」
◇◇◇
「里香、バスケうまいね」
時が過ぎ今は体育の授業でバスケをやっている。
紗奈と里香は同じチームだ。
「そう?」
「相手からボールとって、そのままゴールしちゃうんだもん」
「たまたまだって」
里香はNSGの任務が無く暇な時は京也や仲間を誘って、いろんなスポーツをしていたので大抵のスポーツをやったことがある。
その後も里香はチームのみんなと協力し、試合に勝つ事ができた。
紗奈自身も、背が高いことを活かし点をとっていた。
一方加耶は、パスを取れずボールにぶつかったりして笑いをとっていた。
◇◇◇
「お兄ちゃん、一緒に帰ろ」
「ああ、そうするか」
里香たちのクラスから、寮まではゆっくり歩いても10分程度だ。
「私も一緒してもいい?」
「もちろん!」
加耶が聞いてきたので里香が答える。
「紗奈ちゃんもどう?」
「今から部活なんだ」
「そっか、頑張ってね」
「うん、そんなに遅くはならないと思うから夜ご飯期待して待っててね」
そう言い残し紗奈は部活へと向かった。
「じゃあ、三人で帰ろうか」
寮に帰るため、三人とも歩きだす。
「そう言えば加耶ちゃんは、部活やってるの?」
「部活はやってないけど、委員会に入ってるんだ」
この学校では、部活か委員会に入らなければいけない事になっている。
「どんな委員会に入ってるの?」
「保健委員会だよ」
「そうなのか、俺たちも何かにはいんないとな」
「お兄ちゃんは、なんかやりたいのあるの?」
「いや、まだ何があるかも分からないしな」
「それなら、明日教えますね」
加耶が親切にそう言ってくる。
「ほんと?じゃあ、お願いしようかな。良いよねお兄ちゃん」
「ああ、ありがとな加耶」
「転入したての人にいろいろ教えるのは普通の事ですよ」
その普通の事ができない奴って、割といるんだけどなと京也は思う。
その後もたわいのない話をして、寮に帰った。
◇◇◇
「ただいまー」
里香が自室に戻りしばらくすると、部活を終えた紗奈が帰ってきた。
「お疲れ様」
「今から夜ご飯作るね」
「手伝おうか?」
「大丈夫だよ、里香がくる前から部活の後に料理してたから」
紗奈は今まで、帰ってくる時間が遅くても学校の近くにあるコンビニで弁当を買ってきたりした事はなかった。
・・・よほど疲れた時は、帰ってきて直ぐ寝ていたのだが。
「でも今は私がいるよ?友達なんだし大変なときは言ってね」
背が高い紗奈を見上げているため、上目遣いになりながら里香は心配そうに言う。
そんな里香を見た紗奈は、小動物を愛でるように里香に抱きついた。
「ちょ・・・ちょっと、紗奈ちゃん!」
突然の事に里香は照れながらも慌てる。
が、紗奈は特に気にした様子もなく抱き続ける。
「もー!里香は良い娘だし可愛いし、友達になれてよかった!」
「そう言ってもらえて嬉しいけど、早く料理作っちゃおうよ」
「そうだね、一緒に作ろうか」
紗奈は名残惜しそうに里香から離れ、里香の手を掴み台所へと向かった。
◇◇◇
「相変わらずいいお湯だった」
里香が二段ベッドの上で読書していたら、風呂から出てきた紗奈がベッドの縁に座る。
「明日は、里香ちゃんの手料理かー」
楽しそうに紗奈が言う。
「そんなに食べたいの私の手料理?」
「私以外にも里香ちゃんの手料理食べたいと思ってる人多いと思うんだけどな」
「そんな美味しいご飯作れないよ?」
「そういう事じゃないんだけどなぁ」
「?」
里香は不思議そうに顔を傾げる。
「里香・・・というか貴方たち兄妹って結構注目されてるんだよ」
「気のせいだと思うよ」
紗奈は、この娘鈍いなーと思いながらも口には出さない。
一方里香からすれば、背が高くスタイルの良い紗奈の方が注目の的だと思っている。
実際紗奈も人気あるのだが、紗奈自身は気づいていない。
結局の所、二人とも鈍いのだ。
「よし、今日は寝る!」
紗奈は勢いよく、ベッドの中に潜り込んだ。
「おやすみ」
そんな言葉を聞き里香も寝る事にした。
「それじゃ私も寝ようかな、おやすみ紗奈ちゃん」
里香はそう言い、目をつぶった。
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