第9話 魔術結社との面会
日がとっぷりと落ち、暗闇に包まれた城内が
「……まだなのかね? 奴らは」
「もう来るころかと……来たようですね」
側近の言葉に落とした頭を上げ、再び扉へと視線を向ける。すると直後、側近の言った通り扉からノック音が響く。
「入りたまえ」
扉の向こうの者の言葉を待たずに声を掛けると、扉はすぐさま開かれた。扉の向こうには白いローブを身に纏った者たち3人が無遠慮に室内へと入ってくる。その者たちの胸元には魔術結社の者たちの紋章が編みこまれている。遅れてこの国の兵士が焦り顔で深々と頭を下げるが、国王は同情の視線と共に下がるように合図を送った。
「さて、それでは話を聞こうか」
許可も取らずに対面のソファに座った3人の者たちに対して国王は呆れ顔を見せる。そんな国王に対して、ローブを纏った3人の中で最も年長者であろう初老の男は、薄い笑みを崩すことなくゆっくりと周囲の兵士を見渡す。
「やれやれ、皆さんそんなに緊張なさらずに。この距離では魔法よりも剣や槍の方が分があることは皆さん分かっているでしょう?」
初老の男はピクリとも表情を変えることなく周囲を再度見渡す。しかし、それで緊張を和らげる者は居らず、皆は先ほど以上に警戒色を強めた。
「はぁ……ま、そうですよね。では、話を進めましょうか」
「……時間も遅い、早く終わらせよう」
国王は初老の男に鋭い視線を向ける。男はそれに対して咳払いを一つすると、相変わらず変化のない笑みを向け、口を開いた。
「まずは自己紹介を。私の名前はクルトン。皆さんご存知の魔術結社の一員です。この度は魔物との戦闘を行うにあたって、私達の方から援軍をと思いまして」
「それはありがたい事だ。だが、無報酬、というわけにはいかんのだろう?」
「ええ、話が早くて助かります。私たちがもとめているのはただ一つ、貴殿がフリュスタラと呼んでいる妖精との面会です」
「……何故、それを?」
クルトンの言葉に国王は疑問の言葉を呈す。国王にとってクルトンの求めているそれは、魔術結社である彼らに何か益を齎せる存在では無い。その為、何故フリュスタラという存在を知っているか、という以上に何故そんなものを彼らが求めているのかに国王は疑問を感じている。
「いやい、少し会わせたい相手がありまして……。まぁ、その様子では無理そうですね」
「あ、ああ。そうだな。それは難しい」
「では、これはひとまず止めましょう」
相手の目的が全く理解できない為、国王はひとまずその提案を断る。クルトンは元より断られる事を前提に来ていたようで、国王の言葉に承諾の意を示した。
「まぁ……そうだな……。もし今回の戦闘で貴殿らが活躍したならばそれ相応の報酬は用意するつもりだ」
クルトンの反応に更なる疑問を覚えるが、それでも国王は混乱する頭の中でせめて彼らに仲間意識を示すために報酬の譲渡を提案する。
「それはありがたい。このまま無報酬でも戦闘に参加するつもりでしたので、有難い限りです」
「そうか……。それは良かった」
相変わらず思考の読めない表情を浮かべるクルトンに、国王は動揺を隠し切れないでいるが、それでも敵でないことが分かり安堵の声を漏らす。
「それ、そちらからはどれぐらいの兵を送るつもりなんだ?」
「そうですねぇ……。今のところ30、といった所でしょうか」
「30……か」
その少なすぎる数に周囲の兵士たちの幾人かは苦言の表情を呈す。しかし、そんな表情をする者は少なく、国王をはじめその殆どがクルトンの薄ら笑いの奥に潜む見えない陰謀を暴こうと視線を凝らす。
「今のところの報告では、魔物の数は約3万と聞いている。我々や他の国も援軍を出すとしても、それに対して30という数は少ないように思えるが……。それについては?」
国王は疑いの目を向けながら当然の疑問を向ける。
「ええ、それについては期待していてください。それに、私達は元より無報酬でもいいのですから。もしそれで十分な働きをしていないと判断したならば、報酬はそちらの判断で無くして結構です」
だが、そんな国王の思惑とは裏腹に、想定の範囲内の答えがクルトンの口から繰り出された。
(どこまでも読めん奴らだ)
そんなことを考えながらクルトンへと改めて視線を向ける。クルトンの表情は、まるでこれ以上の詮索は無駄だとでも言わんばかりに薄い笑みを顔に張り付け、こちらを見ている。
「ま、ともかくだ。互いの目標は同じだ。短い間になるだろうが、協力しようじゃないか」
「ええ、そうですね。よろしくお願いします」
クルトンはそう短く告げると、立ち上がり一例をした後に仲間を引き連れて応接間を去っていった。
魔術教団の者たちが去った数秒後、国王の前であるにも拘らず周囲の兵士たちからは安堵の表情が漏れ出した。そして、それが落ち着いたのを見計らって国王はロッゼを自分の側へと呼び出す。
「何かわかったか?」
「いえ、特に怪しい動きがあったわけでは無かったので。口元を隠していたわけでもありませんので」
「そうか。ご苦労だった。今日は休んでくれ。私は少し行くところがあるのでな」
「承知いたしました」
国王の指示に従い、ロッゼは一礼をした後に国王を見送るために後ろへと下がる。ロッゼの一連の動きを見た後で国王は側近を引き連れてその部屋を出ていった。
・・・
国王と側近は応接間から城内地下のとある一室へと移動する。厳重に施錠された扉を開き、その中へと入った二人は地面に描かれた魔法陣の中心へと進むと、その中央にある石を削りだした台座の側で止まった。
「さて、行くとしよう。ガルディア、頼んだぞ」
「承知しました。国王陛下」
側近は国王から黒い指輪を受け取ると、それを台座のくぼみへとはめ込む。それと同時に地面の魔法陣が輝きだす。
「……ついたようだな」
しばらく目を瞑っていた国王は目を開け、呟く。その言葉通り、眼前には先ほどあった頑丈そうな扉は無く、簡易的な木製の扉があった。
国王は側近を連れ、その扉を遠慮なく開くと、2つの部屋が眼前に広がる。部屋の手前と奥の地面にはそれぞれ別の魔法陣が描かれており、奥の魔法陣の中心には4m四方の大きさの台。そして、最奥の壁際にはズラリと様々なものが置いてある棚が設置されている。また手前の魔法陣の周囲には10人ほどの黒いローブを纏った者たちがおり、魔法陣に描かれている文字や文様を光らせながら何かを唱えている。
光る魔法陣の中央では鉄粉や動物の骨、肉などが置かれており、その中心で何かの肉塊が宙に浮かんでいる。
「調子はどうだ?」
国王が声を掛けると、ローブの者たちの内の一人が立ち上がり、国王の元へとやってくる。
「お疲れ様です国王陛下。今のところ準備は順調です。ご覧になりますか?」
「ああ、頼む」
ローブの者は国王と側近を引き連れ、魔法陣の端を通りながら奥の部屋の魔法陣の中央へと向かう。
「こちらになります」
ローブの男に連れられ、4m四方の大きさの台の前まで来た国王と側近はその台の上に置かれている者たちを凝視する。
「ふむ、2体か」
台の上に置かれていた、横たわっていたのは2人の人間のようなもの。その身体には体毛が一本も無く、生殖器らしきものもない。だが、それ以上に目を引き付ける特徴は何もついていない顔だ。その顔には目はおろか、耳や鼻、口といった部位が存在せずにただそれがあるであろう場所に突起ができていたり、窪みができていたりしているのみ。それを一言で表すなら肉人形といった方が正しいだろう。
そんな息づくことなく、視線のない表情を向ける肉人形を見ながら、国王は一つ気になる箇所を指し示す。
「ここはどうにかならないのか?」
国王が指で指示した肉人形の右胸元に当たる部分にはまるで皮膚と同化でもしているかのような自然さで白く硬い何かが表面に出ている。
「ええと……、申し訳ございません。如何せん数が多いもので……」
「いや、私も無理を言ってすまない。ともかく、残り1体を頼んだぞ」
「承知しました」
ローブの男は一礼をし、再び部屋の手前の魔法陣へと戻っていく。
「しかし国王様、流石に3体同時は無理があるのでは?」
「そう……なのかもな。だが、過去に2体の召喚を行った気r句がある以上、複数体の召喚自体問題は無いはずだ」
「しかし……」
側近は不安げな表情をしながら言葉を詰まらせる。だが、それは国王も同じようで、苦虫を噛み潰したような不安げな表情を露にする。
「私も不安なのだよ。約100年ごとに起きる魔族の反乱には恐怖を感じている。これまでは1人の勇者でも鎮圧で来ていたと聞いているが、それも結局は経験したことが無い書物のみのもの。私は幸運にも国王という地位にいるが、この地位にいてもやはり不安なのだよ」
「……」
国王の突然の独白に側近は言葉を詰まらせる。そんな側近を見て、国王は軽い笑みを見せる。
「すまないな。少し弱腰になってしまったようだ」
「いえ、無理をしすぎない様にしてください」
「お主もな」
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