第5話『犬も歩けば棒に当たる』

「動くんじゃねぇぞ!撃つからな!」

とあるコンビニエンスストアにて。悠は目の前に広がる光景に慌てふためいていた。狭い店内で、二人の覆面を被った男たちが、片手に銃を振りかざしていた。

出来事は数分前に遡る。

一息つき、互いの自己紹介をした悠と少女ー少女は赤城秋音と名乗ったーは、悠のリクエストでコンビニエンスストアに出かけることになった。なぜか?コンビニエンスストアは人間なら一生になんども足を運ぶそれはそれは素晴らしい場所だと、悠は生前の母から聞いていたからだった。

かくしてコンビニエンスストアにたどり着いた悠と赤城秋音はまったり店内を眺めていたその時だった。覆面を被った、いかにも『強盗です』という風の男二人組が店内に入ってきたのは。

悠は生で『強盗』を見るのは初めてであった。天界には強盗などいない。それに、銃もない。後で赤城秋音から、下界の人間でも生で強盗を見る人は少ない、と聞いたが、その時はこれが下界の日常だとばかり思っていた。なぜなら、強盗に対面した時の赤城秋音の態度が至って平静だったからだった。

「店内には…私たちを含めて六人、ね」

赤城秋音はそう呟いて、あたふたしている悠にそっと言った。

「大丈夫。安心なさいって」

その言葉に、赤城秋音の落ち着いた態度に悠はなんとか平静を取り戻した。そうだ、僕は雷神と風神の子だ。人間にびびってどうする。いざとなれば電撃をプレゼントしてやればいい。

そして、実際に電撃をお見舞いしようと集中したその時。悠は視界のはしに、赤城秋音が駆け出したのを捉えた。

…え!?

他の客も呆然と見守る中、赤城秋音はいとも容易く実にあっさりと、そう、例えるなら手に取った商品をレジに持っていくかのように、当たり前のことを当たり前にしただけのように、強盗二人を床に倒した。その鮮やかな動きにただただ感服することしか傍観者にできることはなかった。赤城秋音は銃を奪い取り、悠に投げてよこす。

慌ててキャッチした 悠は、その黒光りする火器が想像よりも重いことに驚いた。視線を赤城秋音に移す。彼女はスマホ片手に、どうやら警察に連絡をとっているようだった。その彼女は強盗二人の「アソコ」を踏んで立っていた。呻く二人に悠は自分まで踏みつけられているような気分になってしまった。

その光景はなんともおかしく、とても命の危険を感じるようなものではなかった。一人の女子高生に踏みつけられ、床で仰向けになって呻く大人の男が二人。

通話が終わったようで、赤城秋音はレジ隣の揚げ物類から唐揚げをとって金額分のお金をレジの上に置いた。もぐもぐと誰にも構わずに、美味しそうに食べている。店員はレジに置かれたお金を受け取ることまでまだ頭が回らないようで、呆然としていた。

他の客が恐る恐る尋ねる。

「あの…もう、大丈夫なのでしょうか」

すると赤城秋音はにっこりと微笑んだ。

「はい、大丈夫ですよ。あなたも唐揚げ、どうですか?私からのプレゼントです」

「あ、ありがとうございます…」

彼女はまた一つ唐揚げを取り出し、客の一人に渡した。レジにちゃりんと音を立てて硬貨が広がった。

「ほら、皆さんもどうぞ。強盗を無事に撃退した私たちには、ちょっとくらいの褒美があってもいいと思いますよ?」

彼女のその明るい言葉に、人々の間にほっとした安堵の空気が広がった。

すごい。

悠は感心していた。あっという間に、緊迫した空気を吹き消してしまった。

「ほら、悠くんも」

投げ渡された温かい唐揚げに、悠は少し楽しくなった。

「ありがとう」

遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきていた。

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破茶滅茶行進曲 もへじ @iineiine

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