03 神子たちと天空の覇者
世界的に展開されている有名な珈琲チェーン店・カカオ。
ここは神々の組織・万神殿(パンテオン)への秘密の入口となっている。
「マスター、いつもの『ネクタル』を」
「ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
メニューには載っていない、神々の飲み物や食べ物を注文することが合言葉。
事情を知る店員が、君たち神子を隠された入り口へと案内してくれるだろう。
万神殿について知らない神子は少ないと思うが、一応簡単に補足しておこう。
万神殿は、世界各地で多発する神話災害に対抗するべく、複数の神群が協力して設立した組織だ。神子にとって非常に心強い後ろ盾となることは間違いない。
「マスター、『チェリオ』をひとつ」
「……どうぞこちらへ」
杏子もまた、神の飲み物を注文し、奥へと案内される。
チェリオが神の飲み物であるか否かについては、意見が分かれる。
マスターのよく知る神子ならば、顔パスが通じることもよくあるらしい。
マスターに案内された扉をくぐり、杏子が光の中を歩いていくと、
古代ギリシャの建築物を思わせる内装の部屋に、ふたりの神子が控えていた。
一方は、早めに到着していた鍵鎮小詠だ。杏子も面識がある。
そして、もう一人は、中学生くらいに見える少年だった。
小詠に遅れること数十秒、部屋に辿りついた杏子は、見慣れぬ少年を一瞥する。
「はじめまして…」
「あっ……ど、どうも、杏子さん……!」
声をかけられた少年は、杏子の顔を見て、あからさまに動揺していた。
それっきり、顔を逸らしてオドオドと目を泳がせている。
「……?」
杏子には神子の知り合いはそれほど多くない。
少なくとも少年とは会ったことすらないはずだ。
――よく来てくれた、みんな。
眩い光とともに、部屋の一角に凄まじい覇気をまとった気配が降臨する。
彼の名を知らぬ者は、恐らくこの中にはいないはずだ。
ギリシャ神群の主神にして、神々の王とも呼ばれる男神。
「ゼウス様、お久しぶりです……」
小詠だけが恭しく頭を下げた。
――君たち三人には運命共同体(パーティ)として、任務に当たってもらうぜ。せっかくだから、簡単に自己紹介をしてもらおうか。
「とは言っても、私は杏子さんとは面識があるのですが…」
小詠がおずおずと声を上げた。
「そうね。ADさんとは顔を合わせることも多いし。……で、名前なんだっけ?」
「……所詮ADとは言え、悲しいものね。私は鍵鎮小詠(かぎもり こよみ)よ」
「こよみさん、こよみさん……。なんだか覚えづらい名前ねぇ」
屈託ない笑顔でそう言われて、小詠は返す言葉が見つからなかった。
ふと、小詠が視線を隣に向けると、そこには少年が活き活きした表情で質問してほしそうな眼で小詠を見ている。
「……で、そこのあなたは?」
「ハイッ! 自分、原手野結弦 (ぱるての ゆづる)と言いますッ! 部活では、フィギュアスケートをやっています! 見ての通りガタイは良いんですが、羽生さんみたいに優雅に滑れるように……」
「あはははっ! ぱる…ての…!」結弦の話を遮るように、杏子は腹を抱えて笑いだした。「どこの神様よ、そんな酷い苗字考えたの……ほんと親神の顔が見てみたいって……あれ? ぱるてのってことは、もしかしてあんたもギリシア神群?」
「ええと、自分の父は……」
ちらりと視線を横に逸らす結弦。
――オレだよ。
神々の王は、頬を引き攣らせながらそう答えた。
「ゼウス様って、センスないよね。神様って、何か常識とかウチらと違う感じ?」
「……そんなこと言って大丈夫? 一応、あなたの所属する神群の主神でしょ?」
杏子の耳打ちに、小詠は無表情で答えた。
――おいおい、そんなに酷いか? 周りの神々の間だと好評だったけどなぁ。
ゼウスは呆れた様子で、小さくため息をついた。
――まあ、それは置いておくとして、そろそろ本題に入るとしようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます