2.読子さん、コンテストを語らない
1.沈黙は金
彼女――読子さんは、ぼくの目のまえでいつものようにやわらかく、思わせぶりに微笑んでいた。
すこしメタな話をしよう。章が変われば場面も変わる。記述の仕方だって変えたっていいだろう。ぼくたちがいるのは、さっきまでのような喫茶店ではない。場所は――場所はいいだろう。そんなのは些末な問題だ。ぼくと読子さんだけが知っていればいい。どちらにしたって、ここにはふたりしかいないんだから。
ぼくは読子さんに尋ねる。カクヨムのweb小説コンテストのことをどう見ているのか。いろいろとデリケートな話題がある。カクヨムのトップページのレビュー欄には、いつもコンテストかランキングに関するエッセイ作品のレビューがひとつはある。読子さんが言うように、カクヨムのトップのレビューにあるものに乗っかることが面白いカクヨムを作るのだというなら、この話題に触れないわけにはいかないはずだ。
読子さんにそれを尋ねると、読子さんは薄いピンクのグロスを塗ったくちびるの両端をちょっと持ちあげて、目を細めて、ぼくを試すような目で――ゆっくりと、右手を持ちあげ……くちびるのまえで、人差し指を立てる。
ぼくがだまって読子さんを見つめていると、読子さんはしばらくそうしたあと、ゆっくりと目を閉じて……そのまま、沈黙する。それから待つこと、二十数秒。しびれを切らせたぼくは、読子さんにもういちど、同じ質問をした。
読子さんは、うっすらと目を開けて、小さくて穏やかな声でささやく。
――さっくん。答えるべきじゃない質問には、沈黙を守りつづけるのが、いちばん正解に近い答えだと、わたしは思うの。
ぼくはなにも言わず、読子さんを見つめ返していた。それが正解に近かったかは、ぼくにはわからない。
……ああ、そういえば、ぼくと読子さんがいるこの場所がどこかだけじゃなく、どんなシチュエーションなのかも明かしていなかったっけ。それは、おのおのの想像力に任せる、ということで、どうか。
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