第307話 vsブレイク・ソード
衝突する度に剣にひびが入っていくのが判る。
相手側の剣にも確かなダメージを与えている自覚はあるが、その代償としてこちらの剣も破壊されようとしていた。
かと言って迷う要素はない。
別に剣が命というわけでもないし、なによりもゲイザーの剣を破壊、あるいは手放させないとカイトに勝利はないのだ。
ゆえに剣を振るうのは迷わない。
カイトの剣は右の指先から伸びる光の剣だ。
傍から見ればSF映画に出てきそうなビームソードなのだが、これを扱うことでなんとか破壊剣に対抗できている。
正確に言えば左目でエネルギーの流れを見切り、そのベクトルを曲げることで剣とカイト自身の肉体を破壊から守っているのだ。
今、この時点でも同様である。
ゲイザーの破壊剣から発せられる剣撃は絶えずカイトを襲い続けており、衝撃波はかみ砕かんとせんばかりに覆いかぶさってきていた。
「ぐぅ!」
蜘蛛の巣のように広がる破壊の力。
言語機能を失ったとは言え、流石に向こうも馬鹿ではない。
先に剣を破壊された方が死に近づくのに気付いている。
カイトの光の剣はサムタックでの戦いで破壊剣と互角の衝突を見せた代物だ。
記憶によく刻まれていることだろう。
今のカイトが出せる最大威力の武器だ。
これで力負けしてしまうようなら、もう破壊剣を壊す当てがない。
「お、おおっ!」
包み込んでいく破壊の衝撃波を突き飛ばすようにして左手も前に出す。
爪先から緑の輝きが集結し、こちらも一本の剣を生成した。
2本目の光の剣が破壊剣と衝突し、剣から発せられている破壊のオーラを押し退けていく。
「づあ!」
「――――っ!」
破壊剣を押し退けたことでできた隙間に、蹴りを撃ちこむ。
腹部に強烈な衝撃を受け、ゲイザーが吹っ飛ばされた。
だが、右手に握られた破壊剣は手放さない。
「ならば」
カイトが左の剣を振るう。
縦に一閃され、光の剣圧が大地を裂いた。
光の剣戟はそのままゲイザーの右腕に命中。
蒸発音が響き、腕がそのまま削ぎ落された。
「もらった!」
「ぐるぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ゲイザーが吼えた。
怒り狂う獣のような唸り声をあげたかと思うと、背中から伸びる羽が大きく展開。
羽ばたきながらも一回転し、体勢を整える。
口が大きく開かれた。
剥き出しの歯が切断された右手をキャッチすると、そのままカイト目掛けて突進。
自らの周辺に破壊剣の力を展開し、弾丸となって飛んでくる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
歯から皮膚に渡って剥がれていく。
間違いなくゲイザー自身にも負担になる大技だ。
いや、あれを技と呼んでいいかは疑問が残る。
その場その場で強力な一撃を繰り出そうとしているだけだ。
行動に知性を感じず、どちらかというと愚直さすら感じた。
まるで球技の初心者がボールに集まっていくように、ゲイザーはひたすら敵を求めている。
「お前は何の為に戦う!?」
びんびんと感じる敵意を肌で感じ、カイトは叫ばずにはいられない。
敵意の塊みたいな奴だった。
始めて会った時からその印象はあまり変わっていない。
しかし、ゲイザー・ランブルは他の鎧と違って意思を持っている。
彼なりに将来どうなりたいとか、なにを生き甲斐にするか持っていた筈だ。
それが自分の抹殺であるなら、あまりよくないがまだ納得しよう。
だが、その後はどうする。
打倒カイト。
打倒スバル。
打倒反逆者。
戦いに勝利したい。
結構な願いだ。
この世界は勝負事がありふれている。
王国の中にいようが外に出ようが変わりないことだ。
人間は勝ち負けの関係に縛られてしまう。
それ自体は昔から繰り返されてきたことだ。
だが、ゲイザーはその思考に縛られ過ぎている。
もしくはまったくなにも考えていないのかもしれないが、それにしたって考えなさすぎる。
獣同然に堕ちてまで倒したいのか、敵を。
「破壊して、破壊して、破壊して」
そうやって本能が赴くままに破壊を続けていく。
自分の中にも、ああいう一面があるのだろうか。
意識すると虚しくなってくる。
「それで俺を倒せたら満足か」
「ぐらぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
カイトの問いに対し、ゲイザーは雄叫びで応えた。
大気が震える。
空気がゲイザーに恐怖し、逃げ惑っていくのを感じた。
カイトの周辺は無風だ。
近づいてくるゲイザーが内で孕んでいる感情を、より強く感じることができる。
「そうか」
ハッキリとした意思が伝わった。
大声で叫ぶ黒い魔獣に対し、カイトは両手の剣を大きく構え直してから突進。
「なら、俺が消える前にお前が消えろ!」
右手と左手を重ねて前方へと突き出した。
2本の剣が重なって巨大な光の槍を生成する。
突き出された矛先に対し、ゲイザーは怯むことなく猛突進。
更なる加速を試みる。
激突。
口に咥えた破壊剣が、光の矛先と衝突した。
「うう、ぐあああああああっ!」
戦闘意欲に掻き立てられた雄叫びなのか、苦しみによる嗚咽なのかも理解できないゲイザーの鳴き声が聞こえる。
だが、それも聞こえるだけだ。
向こうから押し出す力は相当なものではあるが、押し返してやれない力でもない。
「おおっ!」
カイトは大きく一歩前に前進し、光の槍を押し込んだ。
破壊剣に入ったひびが広がっていく。
先端から根元に至るまで走っていくそれは無情にもカイトによる圧迫感を押し留めきれず、砕け散ってしまう。
受け止める力が無くなり、ゲイザーは真正面から光の槍撃を受けた。
アッパーカットを受けたかのように顎が飛び跳ね、そのまま胴体がひっくり返りながらも光の渦の中へと飲み込まれてしまう。
「消えろ!」
あらゆる感情をこめてカイトは言った。
殺意、悪意、悲しみ、怒気。
表現できる負の感情のすべてを腕に集中させ、ゲイザーへと押し込んでいく。
感情が破壊力となってゲイザーを押し潰す。
光に飲まれ、消し飛ばされていくゲイザーの皮膚。
だが、完全に消し飛ばすには至らなかった。
光の波の中から腕が這い出てきたのである。
残された左手の方だ。
それは海面から飛び出すかのように真上に突き出されたかと思えば、そこを起点としてゲイザー自身の顔が姿を現す。
「くそ、化物め!」
カイトが悪態をつく。
間違いなく今の自分が放てる最大の技だった。
破壊剣だって消し飛ばしている。
だというのに、あの男は尚も不死身だった。
いい加減嫌になってくる。
オリジナルの自分だってあそこまで頑丈じゃないのに、反則もいいところではないだろうか。
その思考に拍車をかけたのがゲイザーの行動だった。
武器を失い、下半身がいまだに光の中で消化作業を受けている状況で、化物は咥えていた右手を腕へと押し付けた。
消し飛んだ肉と肉が繋がっていく。
急速に始まる結合作業によって腕を固定させると、今度は空いた手で自らの頭を掴んだ。
なにをするつもりなのだ。
訝しげにカイトが睨む中、ゲイザーは行動を開始した。
左手が頭部からある物を毟り取る。
毛根だ。
指先から黒いオーラを放ったままでいる髪の毛を見やると、ゲイザーはその毛を掴んで力を込める。
直後、ゲイザーの掌の中に剣が生まれた。
「なに!?」
見間違う筈がない。
あれはさっき苦労した末にやっと破壊した破壊剣だ。
破壊剣を髪の毛で作り出している。
まったく、本当に信じられない話なのだが、友人たちを消し飛ばした恐るべき武器の正体はゲイザーの髪の毛でしかなかったのだ。
その事実に愕然としながらもカイトは見る。
毟り取られた毛の本数だけゲイザーの指の中に剣が収まっていた。
親指と人差し指。
人差し指と中指。
中指と薬指。
薬指と小指。
計4本の毛が破壊剣へと進化を遂げ、ゲイザーの手の中で踊っている。
その事実がカイトを驚愕させ、愕然とさせた。
「――――!」
ゲイザーは吼えた直後に剣を振り降ろし、光の槍を切断する。
高出力の威力を放っていた光の槍は砕け散り、ゲイザーの下半身が解放された。
バランスを保ちながら着地。
右手が動くのを確認すると、2本の剣をそちらに持ち替えた。
「冗談は止めろよ、本当に」
あれだけ苦労して破壊したのに、まだ武器の貯蔵がある。
しかも相手は不死身な上に痛みを感じてすらいない。
対して自分はどうだ。
右の爪はへし折られた。
光の剣を振るった物の、あれで相殺できるのは1本分が限界である。
次から次へと生成されていく破壊剣を相手にどう立ち向かえばいいのだ。
目を見開き、カイトは苦し紛れに構えを取る。
ゲイザーが左右で握っていた破壊剣を放り投げた。
間髪待たずに毛をむしり、すぐに剣へと進化させるとまた投げつける。
それを何セットも繰り返すことで、破壊剣の雨嵐がカイトへと降り注いでいく。
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