第308話 vs剣地獄

 城門の前に生い茂る草原の草や破壊された城壁の瓦礫を掴み、破壊剣へと変貌させるとゲイザーは迷うことなくカイトへとぶん投げる。

 投げつけられた破壊剣はさっきの物と比べたら破壊力が段違いに落ちていた。

 突き刺さった地面が無事なのだ。

 一本一本に力をかけている余裕がないのも一因だろう。

 しかし困った。

 次々と飛んでくる凶器を前にしてカイトは歯を食いしばる。

 己の両手を広げて、左目からエネルギーを送り込んでみた。

 ばちん、と音が鳴って指先が輝くも、さっきまで展開していた光の剣は出現する様子がない。

 ゲイザーを吹っ飛ばすのにパワーを使い過ぎたようだ。

 どうにも燃費が悪い上に、その限度がわからない。

 弾丸などの武器の管理は戦いに関わる者として当たり前のことなのだが、それすら容易ではないのがこの目の嫌らしいところだ。


「だが!」


 弱音を吐いて猛攻が止まる訳ではない。

 懸命に走り、カイトは次々と飛んでくる破壊剣を避け続ける。

 元々走り回るのは得意なのだ。

 単純に飛んでくるだけの剣ならば、24時間追いかけっこをしても捕まる気はしない。

 このまま城内に逃げ込んで、ゲイザーに城を破壊されるのも選択肢にある。

 だが、獣のような外見と唸り声しかあげなくなったゲイザーでも知性はあった。

 彼はカイトを認識し、倒すべき敵として戦いを挑んだのだ。

 果たしていつまで逃げさせてくれるだろうか。

 こうしている間にもカイトはどんどん死に近づいている。

 エイジとエレノアが手招きをしているような錯覚を覚えた。

 剣を投げつけるゲイザーの後ろで、悔しげに彼を睨むふたりの幻影が見える。


「……まあ、慌てるなよ」


 手は考え付かないが、そう呟いた。

 ふたりの幻影が見えてしまっているのが、なんとなく自分の死期が近くなっている気がしてしまってやるせない気持ちになる。

 とは言え、彼らがあの世から心配げに見守る気持ちはわからんでもない。

 今の自分は手をこまねいている状態だ。

 自分が彼らの立場だったら、地獄の閻魔大王とやらに直談判してでも駆けつけてゲイザーをぶん殴っているところである。

 だが、ゲイザーは光の剣でも死ぬことは無かった。

 焼き切った手は結合し、今では剣を投げつけるくらいには回復している。

 信じられない回復速度だ。

 本当に自分のクローンなのかと疑ってしまう。

 再生能力を保持していたカイトですら、あれほどの回復は見たことがない。

 あれを壊す手段があるとすれば、内部からの破壊しかないだろう。

 しかしその為には光の剣を再び撃てるくらいになるまでの回復が必要だった。

 今のカイトにはゲイザーを葬る武器がない。


「……いや」


 俯きながら避けるカイトの目に、あるものが飛び込んできた。

 先程からゲイザーが投げつけている破壊剣である。

 刀身がまるごと破壊のオーラに包まれているが、柄の方は無事だ。

 ゲイザーが握る為だろう。

 己が破壊されるのを恐れ、柄だけは破壊の手が届いていない。


「これだ!」


 近くに突き刺さっていた破壊剣を手に取り、引き抜く。

 刀身から漏れている破壊の力を左目でコントロールし、コーディングしなおしていく。

 左手でもう一本の剣も抜き取り、同じ作業を展開した。

 剣を交差させて金属音を響かせる。

 

「こい!」

「ぐるああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 挑発行為に対し、ゲイザーは怒りの感情を込めて吼えた。

 手に握れるだけの素材をかき集め、それらを一気に破壊剣へと進化させる。


「しゃるああああああああああああああああああああああああっ!」


 無数の破壊剣が投げつけられる。

 正面から飛んできた破壊の大群を前にし、カイトは2本の剣を構えることで応戦した。

 左右の剣を振るい、飛びかかってきた剣を弾く。

 弾く。

 弾く。

 弾く。

 何度目かの衝突で剣にひびが入るも、すぐに近くに突き刺さっている破壊剣へと持ち変えることで対応できている。

 当然、面白くないのはゲイザーだ。

 徐々に接近してくるカイトに確実な一撃を与える為に髪の毛を引き抜き、力を注ぎこんでいく。

 その濃度はさっきまで与えていた物の比ではない。

 毛根が刀身へと進化する。

 ゲイザーは柄を握ると、それを力強くカイト目掛けて投げ放った。


「来たな!」


 だが、想定内の動作である。

 彼は左で握っていた剣を投げつけることで衝突させると、勢いが死んだ新たな破壊剣を手に取って再び構え直す。


「とったぞ!」


 より強靭で、より頑丈で、それでいてより凶悪な凶器の入手。

 暴れ狂う破壊剣を左目でコントロールすると、カイトは改めて剣を構えてゲイザーへと突進していく。


「今度こそ引導を渡してやる!」


 倒せる。

 僅かに後ずさったゲイザーの動作を見て、確信を得た。

 あいつは木端微塵になったら蘇生できないのだ。

 オリジナルの自分だって元が無くなったら再生できないのである。

 当然の解答だ。

 頭の中で納得すると、カイトは迷うことなくゲイザーへと斬りかかっていく。


「ぐるるるる」


 対し、ゲイザーは逃げることをしなかった。

 カイトの言うことは理解できる。

 後ずさったのは始めて感じた『死』への恐怖によるものだ。

 後先考えずに破壊剣を投げつけたのは失敗だった。


「ぐるああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 しかしゲイザーには敗北という退路はない。

 元からそんなものを選ぶつもりはないし、打倒カイトという巨大な目標がある限り倒れない自信があった。

 ゲイザーは勝利の為に己の肉体すら化物の目に捧げた男である。

 身体能力の強化、そして目玉の力をより強く発揮できるようになった今のゲイザーには、不可能という文字はほぼ無いに近いのだ。

 だからこそ敗北という退路はない。

 もしあったとしたら、その場で破壊する。

 握り拳を作るとゲイザーは天を仰ぐ。

 辺り一面に突き刺さっていた破壊剣がひとりでに宙へと浮いていき、地面から抜けていく。

 それらは一斉にカイトへと刃先を向けたかと思うと、猛スピードで突進してきた。


「なに!?」


 一度地面に突き刺さってからぴくりとも動かなかったので安心しきっていたが、カイトが目で修正をかけた剣以外はみんなゲイザーの配下にあるのだ。

 いわば彼の肉体といっても過言ではない。

 数多の刃物がカイトへと跳びついていく。

 新たに手にした破壊剣でこれに応戦するも、ゲイザーがコントロールする破壊剣の渦はこんなものでは終わらなかった。


「ぐっ!」


 破壊剣が集っていき、ワンポイントで集中攻撃を仕掛けてきたのだ。

 カイトが握る破壊剣にひびが入る。

 両手で刀身を支えているカイトも、次々と集っていく破壊剣の力に圧され始めていた。


「しゃるああああああああああああああああああああああああああああ!」


 ゲイザーが左右の手を押し出す。

 カイトが支えていた破壊剣が砕け散り、正面に居たカイトは切っ先に押し出されて城門へと叩きつけられた。

 粉塵が舞う。

 爆炎と粉塵で混じりあった城門の奥へと消えていったカイト。

 しかしゲイザーは攻撃の手を緩めない。

 奥へと消えていったカイトが吹っ飛ばされた方向目掛けて手を振りかざす。

 破壊剣がゲイザーの周囲に集い、巨大な蛇へと変貌していった。

 鱗や牙、長い胴体や目玉に至るまで剣が集って形成されたその生物は、ひとつずつのパーツが回転しながらも城門に牙を剥ける。

 剣の大蛇が新人類王国の城門を突き破って中にいる人間目掛けて牙を剥く。

 その最初のターゲットになったのはついさっき吹っ飛ばされ、ゲイザーにその軌道を察知されているカイトである。

 王国が揺れる。

 巨大な剣の大蛇が獲物を貪るようにして頭部を突っ込ませた。

 城が倒壊していく。

 本当なら守る筈である建築物が、ゲイザーの目の前で砕けていった。

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