第224話 vs平和へのプラン

 目的地に到着したのはその日の夜だった。

 暗い夜道を車で移動し、ワシントン基地の会議室に到着で1時間。

 長い間フィティング艦内に閉じこもっていたのもあり、カイトは気怠さを感じずにはいられない。


「随分長い時間かかったな」

「申し訳ございません。何分、準備に手間取っていた物でして」

「今更なにを準備するっていうのよ」


 最早平謝りにしか見えなくなったイルマのお辞儀を目にし、アウラが唇を尖らせる。


「そもそも呼び出したのってそっちじゃない。事前に準備くらいしておくべきじゃないかしら」

「事情が少し変わったんです」

「どう変わったっていうのよ」

「内緒です」

「ちょっと」


 そこで秘密主義を持ち出すのは卑怯じゃないか。

 苛立ち、胸倉を掴もうとするアウラ。

 今にも殴りかからんとする彼女の動きを止めたのは、カイトの右手だった。


「やめろ。こいつとウィリアムの秘密好きは今に始まったことじゃない」

『でも、リーダー。私達、なんにも聞かされてないようなものですよ?』


 同席させたノイズ音が響く。

 カノンの言う事ももっともだ。

 実際、カイトも多少なりとも苛立ちを感じている。

 これが交流のない人物からの発言だったら切り刻んでいたかもしれない。

 だがウィリアムは性格上、ただ勿体づけるのが好きなだけなのだ。


「それをこれから聞くんだ」


 故に、待っていれば向こうから喋る。

 恐らく、ウィリアム側もネタばらしがしたくてうずうずしている筈だ。

 あまり好きなスタンスではないが、向こうがそうしたいというのなら付き合ってやるしかない。

 既にこちらは猫の手にも縋りたい状況なのだ。


「で、ウィリアムは何時来るんだ」

「会議自体は既に始められます」


 言うと、イルマが会議室に備えられたノートPCをタッチし始める。

 素早いブラインドタッチが行われた後、備え付けのスクリーンが輝き始めた。

 会議室の証明が、僅かに暗くなる。


「今すぐ行うのなら、ご連絡しますが」

「アイツ、ここに来ないのか」


 イルマの言わんとしている意図を理解すると、カイトが白い目を向けた。

 所謂テレビ電話と言う奴だ。

 ウィリアムは直接カイト達の元に来ることなく、電話で説明をしようというのである。


「失礼です!」


 デスクを叩きつけ、アウラが主張した。

 下半身からばちり、と電流が駆け巡る。

 わかりやすい興奮状態をアピールしつつも、彼女は続けた。


「リーダーたちはペルゼニアを退けたばかりなんですよ! ここまで連れてきた手前、自分が出てこないとはどういう了見ですか!?」

『アウラ、落ち着いて……』

「これが黙ってられる!? ただでさえこっちは限界寸前なのに……!」


 オドオドとしつつも、妹を宥めるカノン。

 ただ、彼女が言うことももっともだった。

 テレビ電話で解決する要件なら、最初からそれで済ませばいいのだ。

 今時は携帯端末の発展のお陰で、どこにいても相手の顔を見て会話ができる。

 それに、寄り道をしている時間すら惜しい。

 ペルゼニアとの戦いを経て、唯一のブレイカーであるダークストーカーは装甲が弾け飛んでいる。

 愛機の損傷と比例し、仲間たちは疲弊していった。


「ダークストーカーに関しては、フィティング内で修理が施されています。獄翼も同様です」


 付け加えるようにして、イルマが言った。

 その発言に引っかかる物を覚えるのは、長い間獄翼を家にしてきたカイトである。


「直せるのか、あれはもう機械じゃないように見えたが」


 ペルゼニアの力によって進化し、新たな頭部と腕を得た獄翼は、既に機械というよりは一種の生物になっているのではないかとさえ思える。

 まだ中を詳しく見たわけではないのだが、とても以前まで使っていたブレイカーと同じ代物だとは思えなかった。


「メカニックからの報告によれば、ミラージュタイプの共通パーツを流用すればある程度は使えるそうです。流石に自己再生は不可能ですが、以前までの獄翼と同じように操縦することは可能とのことです」

「凄いな、あのペンギンは」


 フィティングが誇る愉快な鳥類たちの顔ぶれを思いだし、その中でも特に格納庫で活躍していたペンギンの姿を思い出す。

 彼は自分が想像するよりもずっと優秀で、頼れる鳥だった。

 飛べないからと言って馬鹿にしちゃあいけない。


「リーダー、ペンギンに関心持ってどうするんです!?」

「しかし、来ないと言うなら仕方がないだろう。大方、来ない理由も『事情』のせいだろうな」


 バチバチと音をならす部下を無理やり着席させると、カイトはその隣に陣取る。

 椅子に座った上司の姿を見て、カノンも慌てて椅子に座った。


「こちらは何時でもいい。始めてくれ」

「では、呼び出しを行います」


 イルマがキーボードをタッチする。

 僅かなタッチ音が鳴った後、スクリーンに電話の受話器を象ったマークが表示された。

 少々間を置き、スクリーンに男の顔が映し出される。


「ウィリアム」


 相変わらずのスーツ姿に、綺麗に纏めた金髪。

 ボディーガードにしては少々細い体系だが、生活感漂う姿からは一種の気品すら感じられた。

 敢えて容姿と釣りあってない要素をあげるとすれば、頭につけられたヘッドセットくらいだろう。

 マイクを弄りつつ、ウィリアムが口を開ける。


『あー、テステス。聞こえるかな?』

「ああ、十分だ」


 大凡半年ぶりの再会だろうか。

 最後に会ったのは星喰い殲滅作戦のちょっと前の筈なので、だいたいそのくらいになると思う。


『やあ諸君。また敢えて嬉しいよ』


 再開を喜ぶようにして、ウィリアムがはにかんだ。

 しかし、彼の表情とは反比例して、カイト達は白けるばかりである。


「挨拶はいい。そこで時間を使う気はない」

『相変わらずだな。しかし、前回はエイジを引き連れてきたかと思えば今回はカノンとアウラか。中々忙しないね』


 これまた随分と久しぶりに見る後輩の成長した姿を目の当たりにし、ウィリアムが満足げに笑みを浮かべた。


『ウィリアムさん、お久しぶりです』

「……私たちがいたらなにか不都合でも?」


 訝しむアウラの眼差しを受け、ウィリアムがわざとらしく手を振った。


『まさか。君たちも招待する気だったからね。丁度いいよ』

「XXXを全員集めるつもりらしいな」

『ああ、やっと実用段階に入った平和への切り札を、是非とも皆の目に収めて欲しくてね』

「この基地にあるのか」

『結論から言えば、そうだ』


 意外だった。

 てっきり勤務地を牛耳って色々と準備してたのかと思っていたのだが、案外それっぽい場所に準備しているものである。

 とは言え、ウィリアムの力を使ってしまえば、どこでも使用できる物なのだが。


「それで、俺の対応に出たってことは秘密はそろそろバラしてもらえると考えても差し支えはないんだろうな」

『本当なら全員集まってからにしたいんだけど、それも難しそうだからね。構わないとも』


 ウィリアムが視界の端にいるイルマを僅かに睨む。

 一瞬、少女の肩が震えたのを、カイトは見逃さなかった。


「なにかあったのか」

『実はヘリオンの召集に失敗してね。アキナも手荒い歓迎になってしまって、今は病室だ』

「……ゼッペル・アウルノートか」


 その名を呟いたと同時、ウィリアムの眉が僅かに跳ね上がる。


『そういえば、面識はあったんだったね』

「ああ。このふたりも、直接は会った事はないが知っている」


 なにせ、彼は命の恩人であると同時に強烈なインパクトを残していった。

 トラセットでは新生物の脅威と戦ってきたが、結果的に一番印象深かったのは鬼であったと言える。


「しかし、アイツはXXXを狩るつもりなのか? アキナが病室で、ヘリオンもやられたんじゃおちおち寝られないぞ」

『……僕としても、そんな命令を出したつもりはなかったんだけどね。その辺は説明役と監視役を兼任させたイルマにも問題があると見ているよ』

「……まあ、その辺は後で問いただすことにする」


 鋭い視線を受け、イルマが怯えた表情を見せる。

 彼女のあんな表情を、カイトは始めて見た気がした。

 だが、彼女は演技力も相当高い。

 あの怯えた表情も、こちらを油断させるフェイクなのかもしれないと考えると、気が滅入った。


「話題が逸れたな。軌道修正させてもらう」

『どうぞ。何から聞きたい?』

「まずはお前の提案を聞きたい。俺たちは、お前が戦争を終わらせると聞いてここまで来た」

『なるほど、では概要を説明しよう』


 言うと、ウィリアムは一旦深呼吸。

 息を整えた後、結論から述べた。


『まず、戦争を終わらせる手段だが……新生物を使おうと思ってる』

「新生物だと」


 思いもしなかった名称を聞き、カイト達が仰天した。

 アウラに至っては椅子から転げ落ちそうになっている。


「な、なななな……」


 よどほ動揺しているのだろう。

 呂律が回っていない。

 情けない妹の言葉を代弁する為、カノンが口を開いた。


『でも、新生物は滅んだ筈です』

『その通り。唯一の生き残りとも言えた娘も、先日死んだと聞いた』

「冷やかしなら帰るぞ」

『まあ待て。こっちは大まじめだ』


 そもそもの話、なぜイルマが先行してトラセットにいたのか。

 単純に新生物の脅威を察知したにしても、彼女の能力があれば加勢しても良かった筈なのだ。

 にも拘わらず、彼女はレオパルド部隊の出現まで頑なに動かなかった。


「……そうか。読めたぞ」


 カイトの中で予想が連鎖していき、回答が弾き出される。

 

 新生物は確かに滅んだ。

 その力を受け継いだマリリスも、もういない。

 だが、あの生物が置き土産を残して消滅したのを、カイトは知っている。


「大樹で戦ったときに流した血と肉片を回収したんだな」

「その通りです」


 問いに答えたのはウィリアムではなく、イルマだった。

 テレビ通話の最中に何を見ているのかは知らないが、一切目を向けようとしない。


「皆さんが新生物と戦っている最中、私は付近に転がった肉片と大量の血液をサンプルとして回収しました」


 激昂したスバルと獄翼による乱暴な戦いぶりは、カイトも良く覚えている。

 肉を刻み、獄翼が血液で塗装されてしまう程だ。

 あんな戦いを展開したのは、これまでを振り返ってもあれが始めてである。


「後はご想像の通りです。新人類王国にいる鎧のように、新生物のクローンを誕生させるのが、当時の私の任務でした」


 しかも、新人類王国が利用できないよう、掃除までしっかりと行っている。

 事実上、新生物の遺伝子情報は独占されたも同然だった。


「では、星喰いも回収されたのか?」


 カイトは思う。

 新生物と星喰い。

 どちらも気が狂ってるとしか言いようがない化物だ。

 鎧のように遺伝子情報が複合されれば、どんな生物が生まれるか予測できない。


『残念だが、星喰いは君が銀女を倒したと同時に完全に消滅してしまった。言ってしまえば、君があれの遺伝子情報を持っているともいえる』

「……気味が悪いな」


 目元を抑え、カイトが口もを引きつらせる。


「じゃあ、SYSTEM Zって新生物のことなの?」


 アウラが新たな疑問を投げた。


「私、てっきりブレイカーの新システムなのかと思ってたんだけど」

『ブレイカーではないが、機械の装置なのは間違いないね』


 ウィリアムは待ってましたと言わんばかりに饒舌に語り始める。

 彼の目指す『戦争終結』のカタチを、だ。


『計画は大雑把に3つの流れから形成される』


 ひとつはウィリアムによる大衆コントロール。

 能力をフルに使い、先進国の力を利用して世界中にその声を呼びかける。

 ウィリアムの新人類としての力は洗脳だ。

 彼の声を聞いた瞬間、旧人類は従順たる操り人形へと変化する。


 そしてふたつめに、コントロールした人間を新生物のクローンに与える。

 嘗てゴルドーがそうしたように、効率のいい餌として提供するのだ。


 最後に、餌を補充して十分動けるようになった新生物が邪魔な新人類王国と他の生物を破壊し尽くす。

 暴れに暴れた後、ガス欠になって自然消滅。

 後は残されたXXXと、その仲間たちがこの世界に残る。


『わかるかい?』


 満足げな笑みを浮かべ、ウィリアムは言う。


『旧人類と新人類の争いは、もう止まれないところまで来ている。例え超ワンマン政治体制を整えたリバーラを倒したとしても同じさ。いずれ、また新たな新人理王国ができあがる』


 想像してみて欲しい。

 日常生活をサルと共に送れ。

 一生同じ場所で生活しろと言われたら、耐えきれるだろうか。


『もしかすると耐えれる人間もいるかもしれない。だが、全員がそうでないのは君たちも知っての通りだ』


 これまで出会ってきた、旧人類を完全に見下した新人類がいい例だった。

 彼らは植民地の旧人類を家畜としか見ていない。

 これからも人類が増えていくことを考えると、こういった理由でまた長い戦いが来るのは目に見えていた。


『だから、歴史を繰り返す前に終止符を打とうと思う』


 故に、全員排除する。

 戦争終結の為には、その原因になるバイキンを掃除するしかない。


『大丈夫、最後には僕らが残る。別に旧人類全員を取って食おうと言うわけじゃないんだ。君の友達だって助けてあげると、僕は言ってるんだよ。君たちが認めた人間なんだ。平和に生きる資格があると思うな』


 まるで邪気のない顔で、彼は言う。

 ここまでの説明と主張を一通り聞いた後、カイトは思った。

 コイツは頭がイカれている、と。


「ヘリオンが来ない理由がわかった」


 彼の性格と環境を考えれば、断るのは当然だ。

 確かに戦争は終結する。

 だが後に残るのが更地では、素直に喜べる気がしない。


「ウィル」


 略称で呼ばれ、ウィリアムは笑みを崩す。

 冷めきった、鉄のような表情だ。


『そう呼ぶって事は、君も僕の計画を理解してくれないんだね』

「ああ。俺は反対だ」


 カイトがウィルと呼ぶとき、決まって彼は自分の提案を否定する。

 XXX時代、何度も繰り返してきた光景だ。

 人間を操り、使い捨てて殲滅するべきだと言う主張も、当時からなにひとつ変わっていない。

 ウィリアム・エデンはあの頃から何もかわっちゃいなかった。


『なぜだい。これなら戦争は終わる。君たちは自由だ。真の意味で、何にも縛られることなく生きていけるというのに』

「確かに、戦いは終わる」


 邪魔する人間がいないなら、確かに平和な生活が訪れるのだろう。

 だが、それが自分の――――仲間の望みかと言われれば、違う気がする。

 横に構えるふたりの部下を見やる。

 彼女たちは力強く頷くと、お互いの身体から電流を流し始めた。

 戦闘の意思表示である。


「でも、俺達にとっての平和は来ないよ」

『そうか。残念だ』


 断られたことで、引いてくれるならよし。

 だが、ウィリアムは何度も『劣等人種なんだからこうでもしないと役に立たないだろう』と主張してきた男だった。

 その彼が、自分の理想となる世界を見つけてしまった。

 果たして、簡単に引き下がるだろうか。

 半ば祈るようにしてウィリアムの言葉を待つ。

 数秒程間を置いたのち、ウィリアムは力強く目を見開いた。


『じゃあ力づくで決行するよ。僕のプランでは、君たちの存在は絶対だ』

「どうして拘る」

『優れた人間が統率しないと、社会は成り立たないものだ。僕の主張は変わらない』


 だが、自分にその才能があるとは思えない。

 リバーラを始めとした、戦争を続けるだけの代表者なんて論外だ。

 そうなると、自分が認めた人間しかいない。


『カイト、君は僕のリーダーだ。XXXは僕の象徴だった』


 だから、自分の作る新世界の象徴はXXXでなければならない。

 それ以上の適任は思い浮かばないし、イメージ図にぴったりと当て嵌まる。


『この世界でよりよい未来に導くのは旧人類じゃない。新人類でもない。その中でも特に優れた、XXXという集団だ』

「俺達は優れているわけじゃない」


 負けることもある。

 実際、新生物と戦って負けた実績があった。


「お前の理論で行けば、新生物がそのポジションに収まるんじゃないのか?」

『急速な進化は破滅をもたらす。自分自身の力に滅ぼされる力が統率したところで、破滅しかない』


 成程、確かにそういう意見もあるかもしれない。

 納得するカイトを余所に、ウィリアムはイルマへと視線を向けた。


『イルマ、プランCだ。足止めを頼む』

「了解致しました」


 静かに。

 それでいてゆっくりと、イルマ・クリムゾンが立ち上がる。

 テレビ電話を終了させると、彼女は金色の瞳を向け、寂しげな表情で呟いた。


「残念です」

「イルマ、アイツはどこだ」

「申し訳ありませんが、その質問に答えるわけにはまいりません」


 何故なら、ボスが望んでいるのは戦争の終結。

 それが叶う方法は、ウィリアムの手段しか思い浮かばない。

 それに、イルマ・クリムゾンを今まで育ててくれたのは他ならぬウィリアム・エデンだ。

 彼の命令もまた、彼女にとって絶対である。

 単純な二者一択をとると、イルマの思考は『戦争終結のプラン』という強みを持つウィリアムへと傾いた。


「俺と戦う気か」

「……それが、ボスとみなさんにとって最善になるのなら」


 少女の姿がブレる。

 僅かなモザイクを身に纏ったかと思いきや、彼女の姿は一瞬で再構築されていく。

 六道シデンへと変化したそれは、両手から溢れんばかりの冷気を吹き出しながら宣言する。


「私はボスの為に用意された道具です。あなたの為になるのなら、喜んで戦いましょう」

「融通が利かないな、お前」

「時には頑固になるのも必要だと教わりましたので」

「そうか」

「ご安心ください。私がみなさんの生命活動を停止させることなどありえません」


 イルマが両手をかざす。

 同時に、カイトの前にふたりの少女が出た。


『ここは私たちが!』

「あんた、リーダーの忠実な部下を名乗っておきながら早くも裏切り行為に出たわね!」

「裏切り?」


 イルマが僅かに首を傾げる。

 心底不思議そうな顔だ。


「私は一度もボスを裏切ってなどいません。例え今、ボスが理解してくれなかったとしても、私の行動が正しかったとご理解して頂けるでしょう」

「押しつけがましいわね!」


 なんというか、予想以上に頑固な娘だ。

 ああいうのが一度傾くと、修正は中々難しい。

 加えて、万能なコピー能力である。

 六道シデンに変身できると言う事は、その他の新人類にもなれる筈だ。


 手強い相手である。


 そんな確信を姉妹で共有していると、後ろの上官は簡単に言葉を投げた。


「いや、ウィルを追うのはお前たちだ」

「え?」


 姉妹を押しのけ、カイトが前に出る。

 両手の指から爪を伸ばすと、彼はイルマを睨んだ。


「一度、アイツと今後について、よく話し合う必要があると思っていた」

「ボス。私は感動の余り言葉が出ません」


 自分のことを案じてくれていると思ったのか、イルマが感涙している。

 魅力的な話ではあるが、それはまたの機会にしてほしい。

 なぜならば、


「ですが、横のおふりを自由にさせるわけにはいきません」


 かざされた掌から、冷気が弾け飛ぶ。

 会議室が白に塗り潰されてた。

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