第196話 vsアトラス・ゼミルガー
ガデュウデンのコックピットは特殊な造りになっていた。
操縦桿やモニターと言った共通の設備は揃えてはいる。
アトラスが導入させたのは脳波による繊細なコントロールを可能にする技術だった。
聞けば、旧人類軍にはモーショントレース技術を導入したブレイカーも生産されていると聞く。
ならば新人類軍はその一歩上をいかなければならない。
向こうが直接身体を動かして操縦するのなら、こちらは脳を伝って己の身体同然に動かす。
アトラス・ゼミルガーが出したオーダーには技術部も戸惑うばかりだった。
だが、彼らは見事に成し遂げたのだ。
その結果がBK-AM-20106、ガデュウデンである。
頭部に設置されたコックピットには脳波コントロールを可能にした培養カプセルを導入。
人間がそこに入る事で、命令を直接ガデュウデンに下すと言うシステムだ。
言ってしまえば、自動操縦であるともいえる。
『お前に理解させてやる』
緑の液体で満たされた操縦席から気泡が漏れる。
『自分がいかに矮小で、汚らわしいのかを!』
「好き勝手言いやがって!」
黙って聞いていれば、何様なのだろうとスバルは思う。
アトラス・ゼミルガーの熱弁は感情任せだ。
それゆえに、彼の本音が籠っているのだろう。
だが、素直にそうですねと頷ける内容ではない。
「結局、アンタも俺が旧人類で生意気だから倒そうってクチだろう!」
昔、サイキネルと似たような問答をした記憶があった。
あの時も偉そうにだとか、生意気なんだよ、とか言われた気がする。
新人類軍ってのはどいつもこいつも似たようなのしかいないのか。
「何が取り戻すだ!」
彼が望むであろう『大いなる目的』の内容を思いだし、スバルは失笑しかできない。
なんて純粋で、馬鹿馬鹿しい願いなのだろう。
「俺を倒したらカイトさんの洗脳が解けるってのか!? 俺があの人たちを改造手術でもしたって!?」
なんて馬鹿な発想なのだろうと自分でも思う。
自分はそんなことをした記憶はない。
やる技術も無い。
やる気なんか皆無だ。
ただ、自分との共同生活がカイトに大きな影響を与えたんだろうなという自覚はあった。
自覚があるのは、それだけだ。
実際に影響を与えられたカイトがそれを望んだから、彼も変わったのではないのか。
六道シデン、御柳エイジ、ヘリオン・ノックバーンについては語るまでもない。
彼らはみんな、新人類軍が嫌になって脱走したのだ。
それらを取り戻すと言うのなら、
「また、あの人たちに嫌な思いをさせる気か!?」
それが我慢ならなかった。
スバルは彼らの苦悩を知っている。
見せつけられたこともあった。
困惑している兄貴分の顔を見て、背中を押してやったこともある。
「何が偉大なるあのお方だ!」
残された忠誠心に心酔しているアトラスに向け、スバルは吼える。
「結局、自分が満足したいだけだろう!」
そのことが悪いというつもりはない。
だが、自身を満足させる為に彼ら第一期XXXを引っ張ってくる事が我慢ならなかった。
アトラスはカイト達の心境など理解しようとしない。
自分自身が絶対的に正しいのだと言う、根底が見えてくる。
「一度拒絶されて、学習しない!」
ダークストーカーがガデュウデンの背後に回りこむ。
ガデュウデンが巨体で火力が高い分、小回りが利くのがダークストーカーの強みだ。
しかし、その強みを目の当たりにしてもアトラスは動じない。
彼のアドレナリンは既に天井を突破しているのだ。
『お前は、』
ガデュウデンの口が大きく開かれる。
狙うは真下。
背後に回り込んだダークストーカーなど眼中にないとでも言わんばかりに光が収束していく。
『口を閉じて私に殺されればいいんだろうがあああああああああああああああああああああああああっ!』
「うっ!?」
狙いは真下。
ゲーリマルタアイランドそのものである。
口内に内蔵された直径15メートルもの銃口が、島国の街へと向けられてた。
「そうはいくか!」
背後に回り込んでいたダークストーカーが光に向かって突撃する。
『そうですよ! さっさと塵になっちゃえばいいんです!』
「あのなぁ!」
もうこれ以上まともな会話が成立するとは思えないが、それでも言っておきたいことがある。
喉まできて留めていたが、ここにきてそれが爆発した。
「リーダー、リーダーって慕うのは勝手だけど、本人の嫌がりそうなことやっちゃダメだろ!」
ダークストーカーがガデュウデンの口――――その真下へと潜り込んだ。
刀の切っ先を真上に向け、思いっきり突き刺す。
『なっ!?』
「そぉ、らぁ!」
背部の飛行ユニットから青白い光が溢れ出した。
ガデュウデンの下顎を持ち上げ、天へと向ける。
『そ、そんな!?』
「何回巨体を相手にしてると思ってるんだ!」
これまで戦ってきた巨体代表を思いだし、スバルは苦笑。
あれらに比べれば、大口径エネルギーランチャーしかまともな装備がないガデュウデンなんて格下である。
『負ける筈があるか! 私が、お前如きに!』
ガデュウデンの小さな両手が大きく広げられる。
指の先端から赤い光が溢れ出すのを、スバルは見逃さなかった。
彼はガデュウデンと戦っている最中、ずっとそこから目を離さなかったのだ。
なぜか。
両手はアトラス・ゼミルガーの能力を発動させる場所だからだ。
新人類王国からの脱走の後、スバルはアトラスの能力を聞いた。
『アトラスの能力は殺傷力が高い。イメージとしては指から小さな赤い光が出てきて、それに触れると爆発するって感じだ』
その力は星喰いの巨体をも転倒させるほどに強大だ。
まともに受けたら、鍛え上げた新人類であっても致命傷になりかねない。
『防ぐ手段はただひとつ』
ただ、回避方法がないわけでもない。
彼の元上司であるカイトは簡潔に教えてくれたものだ。
『射線上に障害物が入り込むこと。これで爆発をソイツに押し付ける事が出来る。逆に言うと、障害物がない空間で指を向けられると死ぬと思っていい』
不死身の新人類、神鷹カイトにそこまで言わせたのだ。
それだけの実績を重ねてきたのだろう。
本来ならブレイカーなんて準備しなくてもスバルを倒すだけの力は十二分にあった。
だが、アトラスはそれをしようとしない。
「嘗めプしすぎなんだよ!」
スバルは嘗められていたのだ。
例えば、王国から脱走しようとしてアトラスに捕まった時。
スバルは羽交い絞めにされた状況だった。
やろうと思えば何時でも能力で消し炭に出来た筈なのだ。
しかし、彼はそれをやろうとしなかった。
あくまで優先順位はリーダーの説得だったから。
例えば、ゲーリマルタアイランド。
自ら学園に出向くなんて面倒な事をせずに、さっさとガデュウデンに乗って襲い掛かってくればいい。
学園にはヘリオンがいたわけだが、その不安要素を抜かせばバトルロイドだけでも十分可能だろう。
それでも、アトラスは自ら学園の占拠に乗り出た。
スバルなど眼中になかったからだ。
何時でも殺せる矮小な存在である。
そんな自信があったに違いない。
実際そのとおりだ。
アトラスがその気になれば、自分なんてすぐに殺されてしまう。
彼には爆発という心強い味方がついている。
人は爆炎に巻き込まれると死ぬ。
当たり前のことだ。
だが、アトラスはギリギリまでそれを使おうとしなかった。
スバルがアトラスに対抗できる土俵に上がっても、まだ使おうとしなかったのである。
ガデュウデンはこの瞬間まで、同調をしてこなかったのだ。
その裏にあるであろうアトラスの思惑は、なんとなくわかる。
アトラス自身がスバルよりも優れているのだと証明したいのだ。
きっとガデュウデンなんて専用機を用意させたのも、ブレイカー乗りである自分と同じ土俵に上がる為なのかもしれない。
従来のブレイカーに勝る超火力。
超ド級の巨大。
なによりも新人類が搭乗している。
これだけの要素が揃えば、1対1で負けることなどないと考えていたのだろう。
最大の武器である能力を使う事も無く勝てると信じていたに違いない。
そうすることで己がスバルよりも優れているのだと証明したいのだ。
そういう意味で言ってしまえば、枷を外した時点でアトラスは負けたも同然だった。
能力を使った時点で彼の苛立ちは頂点に達したに違いない。
『貴様ぁっ! よくも私にこれを!』
「知るかよ!」
下顎に隠れていたダークストーカーが一気にガデュウデンの真上へと回り込む。
アトラスの表情が驚愕に染まった。
額から汗が流れ落ちる。
『と、止まれ!』
ガデュウデンの両手。
その指先の光は止まらない。
向けられた先にあるのは自身の顎。
当てたい相手は頭上に移動している。
焦るアトラスを余所に、ガデュウデンと同調した彼自身の力は発揮された。
爆発。
よろけるガデュウデン。
口内に溜め込まれた光の球体が放射され、再び空に解き放たれた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ガデュウデンのコックピットは頭部だ。
もろに爆発を受けた以上、無事でいるとは思えないがきっちりと動けなくする必要がある。
ダークストーカーがガデュウデンの頭部を掴み、そのまま移動を開始した。
まっすぐ向かう先にあるのはゲーリマルタアイランドの外。
つまり、海だ。
龍の頭部が海水に着水。
ダークストーカーは力任せに海水の中へと押し込むと、足に装填されたナイフの柄を抜いた。
「海水でも浴びたら、剥き出しの機械はダメになるんだろ!?」
言いつつ、ナイフを頭部に叩きつけた。
アトラスの叫びは聞こえない。
爆発に飲み込まれて死んだのかもわからない。
音信不通になったからだ。
かといって、繋げ直す気にはなれない。
もう妄言はたくさんだ。
己の妄信する忠誠心を抱きながら、どこかに消えてほしいと切に願う。
「もう、来るなよ」
吐き捨てるように呟き、ダークストーカーは海水の中から脱出する。
対し、ガデュウデンはその巨体ごと沈んでいくだけだった。
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