第39話 vsイーグルとシャークとパンサーとパンダ
獄翼のコックピットが開かれたと同時、カイトは跳躍。ウィンチロープも使わずにスバルの下へ着地する。それを見届けたジャンケンの勝利者――――サイキネルは、右手を天に突き上げ、叫んだ。いちいち空に向けて手をかざす男である。
「ふぅーっはっはっは!」
彼は高らかに笑い、そして獄翼を睨む。巨大ロボットを前にして尚も笑っていられる余裕が、彼にはあった。
「僕のサイキックパワーに怖気づき、そんなところに隠れても無駄だ!」
何故ならば、
「この僕には頼りになる優秀な仲間たちがいるからだ」
イゾウとシャオランのことではない。彼らは既に乱入者との戦いに突入している上に、サイキネルは彼らごと纏めて葬り去ろうとしているからだ。では、その仲間とは誰のことか。彼は遠巻きに見ている黒猫に視線を向け、叫ぶ。
「ミスター・コメット!」
「は、はい!」
呼ばれた黒猫がびくり、と起き上がる。明らかに迫力が違った。小学生の時、いつまでゲームをやってるんだいとお母さんに叱られた記憶が蘇る。
「僕のブレイカーを出してくれ! ジャンケンの勝利者たるこの僕が、あいつをけちょんけちょんの、ごっちゃごっちゃの、ぎったぎたにしてやる!」
「お、おう」
テンションが高すぎてついていけなかった。コイツこんな奴だったのか、と思いながらもコメットはアキハバラの上空に巨大な空間の穴を空ける。その穴に向かい、サイキネルは叫んだ。
「さあ、集まれ! 念動獣達よ!」
突き出された拳から赤い閃光が飛び出し、穴の中へと吸い込まれていく。直後、穴の中から眩い光が広がり、それがアキハバラの街を包み込んでいった。
「なんだ?」
スバルが獄翼のハッチを閉め、モニター越しでそれを確認する。怪獣でも下りてきそうな雰囲気が、そこにはあった。
「注意しろ。SYSTEM Xの使用タイミングはこちらが指示する」
「了解!」
只ならぬ空気を感じたのは後部座席に陣取ったカイトも同じだった。彼はタッチパネルを使って周囲の状況を確認しつつも、穴とサイキネルから目を離さない。
「エスパアアアアアアアアアアアアアアアア・イーグル!」
サイキネルが叫ぶ。ソレと同時、空に広がる穴から一羽の鳥が飛び出してきた。
「あれは!」
スバルが穴から出てきた影を視認する。その声に応えるようにして獄翼のカメラがズームアップされ、鳥の姿を明確に捉えた。
「ブレイカーだ!」
「アニマルタイプか!」
念動獣、エスパー・イーグル。全長10メートルほどの機械の鳥は呼び出した主の下に着地し、その頭部に乗せる。
「まだまだ行くぞ!」
サイキネルを乗せたエスパー・イーグルが羽ばたく。ソレと同時、穴の中から第二、第三の念動獣が飛び出した。
「エスパー・パンサー! そしてエスパー・シャーク!」
穴の中から同じく全長10メートルほどの豹型ロボットと鮫が出現する。豹は大地に着地した後、イーグルの後に続くようにして疾走した。鮫はまるで海を泳ぐかのようにして尾びれを動かし、飛行する。
「まだまだぁ! トリを務めるのはお前だ! エスパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・パンダ!」
「パンダ!?」
予想外の動物の名前を聞き、スバルが驚愕する。後ろのカイトは『ファンシーだ』と呟いていた。そんな彼らの驚きに応えるようにして、穴の中から巨大なパンダ型のブレイカーが顔を覗かせる。ただ、それがまたでかい。恐らく、今出現したパンダの顔面だけでエスパー・イーグル並みの大きさがあるのではないだろうか。
「あ、可愛い」
「パンダの星からの侵略者か?」
獄翼の周りで戦闘を開始した筈のシデンとエイジすらも、そんな感想だった。それほどまでにこのエスパー・パンダは空気に馴染んでいなかった。少なくとも、獄翼と同じ技術で作られた機械の塊だとは思えない。まあ、それはアニマルタイプ全般にいえることなのだが。
「むぅ、ちと面倒なことになったな」
「場所を変える事を提案します」
だが、エスパー・パンダの出現によってイゾウとシャオランは顔色を変えていた。少し分が悪くなった、とでもいわんばかりに表情が硬い。それはつまり、面倒な展開になるということだ。
「じゃあ、移動する?」
「どっちにしろ、ブレイカーの足下じゃ踏みつぶされる危険だってあるしな」
彼らの言動から状況の変化を察したシデンとエイジは、シャオランの提案に乗りかかる。いすれにせよ、ブレイカーの足下で戦うのは危険行為だ。流れ弾の直撃を受ければ、最悪味方に殺されたなんて間抜けなオチもあり得る。
「じゃあおふたりさん。アキハバラ観光へと行こうか」
「よかろう。存分に死地を選ぶがいい」
シデンとイゾウが獄翼の後方へと走り出す。エイジは獄翼を見上げ、ややあってからシャオランへと向き直った。
「お望みの場所はあるか?」
「……特には」
「なんだ、面白みねぇな。じゃあ俺がとっておきの場所に案内してやるよ。付いてきな!」
エイジが獄翼に背を向ける。だが彼は振り向き、静かに呟いた。
「無茶はするんじゃねぇぞ」
その呟きは、獄翼には届かなかった。だが、それでいい。真面目に返されても困るし、自分がいいたかっただけだ。中にいる本人に影響を与える必要はない。彼はただ、彼のままであればいい。エイジはそう思っていた。
エスパー・パンダの巨体がアキハバラの街に落下する。他の3機とは違い、パンダは途中でバランスを整える事もせずにただ落下するだけだった。幾つかのオフィスビルを踏みつぶしながらも、エスパー・パンダはゆっくりと起き上がる。
「でかっ……!」
エスパー・パンダを改めて視認したスバルの第一感想がそれだった。周囲に集うイーグル、シャーク、パンサーと並んでその巨体は際立っている。多分、全長40メートルはあるのではないだろうか。
「だが、あのパンダは何をする気だ」
後部座席でカイトが観察する。エスパー・パンダは起き上がったとはいえ、下半身はまだ座ったままだ。このまま寝そべり始めても違和感がない光景である。それこそ動物園のパンダの如く。
「あの中にもパイロットが乗っているのかな?」
『否ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
スバルの疑問に答えたのは、エスパー・イーグルに乗り込んだサイキネル本人だ。きーんっ、と耳鳴りがする。変貌した後の彼の声は、よく響くようになっていた。
『僕には人間の仲間もいなければ、部下もいない。パートナーはただ4人。それこそがこの念動獣!』
堂々としたぼっち告白である。スバルはちょっと悲しい気持ちになった。この性格なら友達がいないのも頷けるのだが。
『だが、ブレイカーだからと言って侮るな。僕と念動獣達の間に結ばれた熱きサイキックパワーの絆が、お前たちを打ち砕く!』
「すんげー熱血してるね」
『熱血こそがサイキックパワーの力の源なのだ!』
「そうなんだ」
益々サイキックパワーがなんなのか、よくわからない。要するにテンションが高ければ高いほど勢いが増す力なのだろうか。
『お喋りは此処までだ! 行くぞお前たち!』
自分から通信を繋げていたのだが、サイキネルは一方的に通信を切ると念動獣たちに呼びかける。それに応えるようにして、周囲に集う4匹の機械の獣が吼えた。
「な、なんだ!?」
真中にいるパンダはゆっくりと立ち上がる。すると、全長40メートルはあろう巨体が跳躍した。
「おお!?」
「……おお」
先程までの、のっしりとした重量感からは考えられない跳躍力。それを目の当たりにしたスバルとカイトは、それぞれ感嘆の表情を隠せない。
「圧し掛かりか?」
カイトが呟くが、しかしエスパー・パンダは上空で四肢を広げ、他の3機を待った。直後、その巨大な四肢に噛みつくかのようにしてエスパー・パンサーとエスパー・シャークが飛びかかる。だが、パンダとの距離が0になった瞬間、奇跡は起きた。なんとパンサーとシャークの身体が真っ二つになり、それぞれパンダの両手両足にくっつき始めたのである。
「合体した!」
その機能は、まさに合体である。古くからロボットに伝わる浪漫。男なら誰もが憧れる言葉だった。マジンガーZを始め、今の戦隊モノに至るまで男の子の心を掴んで離さなかった驚異の技術が、今スバルの目の前で繰り広げられているのである。
「……ただシャークとパンサーが割れて、それを装備しただけなんじゃないか?」
後ろでカイトが台無しにするようなことを言うが、そんな事は無い。たとえ単純な合体でも、その機能が存在している事に意味があるのだ。スバルはそう思う事で、同居人の言葉を誤魔化した。
そんなことをしている内に、エスパー・イーグルも突撃する。パンダの巨大な顔がスライドして胸部へと移動し、空いた頭部へと着地する。そのまま巣の中で羽を休めるようにイーグルが羽を収容すると、長い頭部が割れてひとつの表情を作り出した。一連の合体プロセスが完了した瞬間、イーグルのコックピットの中でサイキネルが叫ぶ。
『念!』
パンダの腕に装着されたシャークの牙が唸る。
『動!』
パンダの足に装着されたパンサーの脚部が、大地に降り立つ。
『しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃん!』
パンダの頭になったイーグルの瞳が、赤く輝く。こうしてアニマルタイプブレイカーの集合体、『
「……ほとんどパンダじゃねぇか」
後ろでやはり同居人が台無しにする台詞をいうが、気にしちゃいけない。確かにパンダの短い手足を補うようにして、シャークとパンサーが装備されている。元々巨体であるがゆえに、念動神はほぼエスパー・パンダだと言っても過言ではないだろう。
だが見よ、この圧倒的迫力を。
40メートルは超えるであろう巨体に、両腕には敵を噛み砕くシャークの牙。そして短足を補うかのようにして生える、パンサーのしなやかな足。更には眼光だけで敵を威圧するイーグルが、パンダの欠点をことごとくカバーしているのだ。機械同士とは言え、助け合う姿には熱い友情すら感じる。
「……元からパンダじゃないのをセレクトしていればいいんじゃないのか?」
やはり後ろでいらないことを呟く同居人。彼はパンダがネックなんじゃないかと、気になって仕方がない様子だった。
「いいんだよ。合体すれば、それだけでパンダも強くなるんだから」
「いや、だから最初からパンダじゃなくて」
「いいんだよ!」
無理やり黙らせた。同居人は納得できない様子で、腕を組んで念動神を見る。
「……迫力ねぇなぁ」
なんといっても胸にエンブレムの如く輝く、エスパー・パンダの顔である。その呑気な表情が、どうにもやる気を削いでくるのだ。もっとも、その点はスバルも同意だった。
『はっはっは! 僕の念動神を前にして、ビビッて呆然としているようだな!』
器用に指(鮫の牙)を突き刺し、獄翼を挑発する。その大きさは獄翼の大凡2.5倍。今はまだ遠いから大して凄くは見えないが、獄翼の装備の大半を占めている接近戦に持ち込んだ場合、それがどれほどの威圧感を放つかは想像するに容易い。
だがそれ以上に、巨大なブレイカーに乗る事で厄介な点がひとつ。
『ならばこちらから行くぞ! ひいいいいいいいいいいっさつ!』
念動神が右拳を引き、鮫の牙にサイキックパワーを凝縮させる。渦巻く空気の流れは、先程カイトが受け止めた物と全く同じだった。
「げぇっ!?」
「あの巨体で撃つ気か、あれを!」
サイキネル本人から受け止めた時、カイトの両手は黒焦げになった。ならばその時よりも巨大なブレイカーが、全く同じ技を放ったらどうなるか。想像すると、嫌な汗が流れた。
『サイキック!』
念動神の右拳が突き出される。それを見た瞬間、カイトは素早くタッチパネルを操作した。獄翼の内部で無機質なサポート音声が響く。
『SYSTEM X起動』
『バズウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!』
獄翼の関節部が光り輝くのと、赤い閃光が念動神の拳から放射されるのはほぼ同時だった。青白い発光が収まった直後、獄翼は素早く鞘に収まっていたアルマガニウムの刀を引き抜き、赤い閃光に向かって切りかかる。避けるようなスペースなど、そこには存在していなかった。
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