第22話 破壊の足音 2

 目覚めたのは、まだ夜明け前。


 薄暗い闇のとばり

 冷えた空気を吸い込みながら、ゆっくりと体を起こす。


 胸が騒いだのは、きっと罪悪感からではない。

 これから重ねる破壊の音に、この世界がまた一つ進む瞬間に、この体が歓喜するようになってしまったから。


 善悪の区別など、とうの昔に吹き飛んでいる。

 自分の背後に消えていった命の数も、もう数えることが出来ないほどに。

 

 そしてあと数分。

 数分の後に、その『数』も桁を違えるほどに膨れ上がることを知っていても、最早この心は針一つ分も揺れることはない。


 すっと、軍服の袖に腕を通す。

 行かなければならない。


『どうかこれからもそのまま、この国を勝利へ。天に選ばれし、最後の一国へと導いて下さい』


 その言葉がすべてになった。

 この世界を戦い続けるこの身を支える、唯一の言葉になった。


 その唯一を果たすためなら、振り返るものなど何もない。


 知っている。

 この身はここに至って、戦士でも忠臣でもなくなってしまった。

 ただの歯車。


 この世界の『理』に染まりきった、止まることない歯車。


 空が白む。

 夜が明けていく。


『我らが誇る異界の民よ。この国を照らす、大きな光であらんことを』


 歯車も、彼女の言葉だけは、決して違えることはない。


 一つ前の夜明け、一人、真っすぐな瞳をした者が破壊の矛先へと旅立った。


 彼のような人格、その希望を潰すこと。

 彼女の光であり続けるために、この身が成すこと。

 それがどんな破壊であれ。非道であれ。


 このガラスの瞳に映るのは、その先にある淡い栄華。ただ一つ。


 歯車は止まらない。


 腰に下げる細剣が、乾いた音を立てる。

 進んでいく。破壊の先へ行くために。


 石造りの廊下が、その足音を響かせた。



 さあ。

 あと数秒だ。

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