第2話 思い出の賛美歌 その2
時々思うけどベランダを海側に作れば、いい眺めになりそうなものだろうけどマンションを作った人物はよっぽど変わり者だったのだろう。別に気にしてないからいいけど。
海から目を離して私の隣の部屋のインターホンを鳴らした。
ドアには『神山直哉』と書かれた表札がかかっている。部屋割り番号は五〇三号室、ちなみに私は五〇二号室で『リリティア=マクディン』と表札がかかっている。
しばらく経っても応対がない。もう一度インターホンを鳴らしても何も返ってこない。
「こら、いるのでしょ! さっさと出てきなさいよ」
部屋を強く叩きながら叫んでみても部屋の中から物音一つしない。留守なのかと考え始めたときに部屋の中から慌しくこちらに向かって走ってくる足音が聞こえてきた。
「ちょっと待って」
その言葉を残して足音が遠のくと騒がしい音が聞こえてくる。待つこと五分後。
「もういいよ。入ってきても」
扉越しから声が聞こえた。待っている間に海のほうを眺めていた私はその声を聞いて、うんざりした気持ちで扉に手をかけた。部屋は黒い布で覆い尽くされ暗闇が広がり、電灯から照らされた場所だけが見えていた。そこに黒い回転椅子が背を向けて置かれている。
「君は何の情報をお求めかな?」
回転椅子が反転して、こちらを向くとそこには黒いスーツを着こなした男が座っていた。
男の顔は電灯の光が当たらない位置にあるために表情がわかりづらいが、腕を組んでこちらを窺っているように見える。黒スーツは情報屋をやっている。情報屋とは簡単に言ってしまえば、情報を売る仕事だ。他人から格安で情報を買い取り、別の人間に売ったり、企業にハッキングして売れそうな情報を盗んだり、軍事施設の設計図や機密文書など先人が盗んだ資料を買い取ったりしている。私は何も言わずに男の前まで足を運んだ。
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