第2話 思い出の賛美歌

第2話 思い出の賛美歌 その1

 私は写真を見つめていた。私の母が結婚したときの写真。この写真は私が十六のときに家出した際に持ち出したものだ。あれから何年になるのだろう。

 写真から目を離して周囲を見渡した。六畳一間の部屋には小さなテーブルが部屋の中央に置かれ、テレビやパソコン、ゲーム機などが部屋の隅のほうに寄せられている。

 ベッドの隣には手の平ほどの手鏡が置いてある。そこに映っているのはベッドに横になっている私だ。クマの刺繍が入った黄色のパジャマ姿の私が眠たそうにこちらを見ている。

 私は体を起こし、ベランダにかかったカーテンを開いた。太陽はそれほど高くはなく部屋全体を真横から明るく照らし出している。太陽の光が私の青い瞳とショートカットの赤みがかった黒髪を色鮮やかに映し出した。ガラス戸を開けてベランダに出ると大きく深呼吸した。排気ガスで空気が濁っていたけど、いつも通りの香りに清々しさを思えた。

 ベランダから山が見える。そこに挟み込むようにビルやマンションが建ち並び、その下を国道が通っていた。私が住んでいるマンションは六階建てになっている。その五階に私は住んでいた。眺めも決して悪くはない。多少ビルが邪魔してはいるけど、そんなことも含めて気にいっていた。私は顔を軽く叩いて気合いを入れた。

 よし、気分もすっきりしたし、あのバカ起こしにいくとしますか。

 部屋に戻ると、パジャマ姿のままで玄関の扉を開いた。扉の先には人が一人通れそうなぐらいの通路と柵が張られている。柵の向こう側には見渡す限り海が広がっていた。

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