プロローグ2


 もちろん、馬鹿正直に職員室など行かない。 残り短い昼休みを少しでもゆっくりと過ごすために、僕は中庭を歩いていた。

 青い芝生が敷き詰められた中庭では、少し遅い昼食をとる学生や、身体を横たえ、ゆったりと過ごす生徒で溢れていた。 中庭の中央にあるベンチに僕が腰を下ろすと同時に一人の女子生徒がこちらに向かって声をかけてきた。

「よっ!」

「茜か。 びっくりしたよ」

 そこにいたのは天宮茜だった。 腰まで伸びる長い髪の毛は風に乗って踊っている。

「へっへっへ~! なーにやってんの~?」

「特にやることがないからベンチに座ってのんびりと」

「シキは年寄りくさいな~」

「茜はこんなところで何をやっていたの?」

「私は作曲をしていたんだよ!」

 茜は校内でシンガーソングライターとして活動している。 本当はバンドを組みたいらしいのだが、なかなかメンバーが集まらずソロで活動している。

「作曲か。 ライブ、近いの?」

「未定だよ! でも、気分が乗ったらゲリラライブでもやりたいね! だからその時のための曲作り」

「詞はできているの?」

「今回はなかなかできなくてね~。 ちとスランプ!」

「そっか。 茜は曲から作る人間だもんね」

「そそ! シキ、作詞してみる?」

「無理だよ。 僕には文章力や歌詞を作る才能はないよ」

「歌詞なんてね、その時思ったことや感じたこと、悩んでいることや嬉しかったことを文字にすればいいんだよ!」

 と、言われても、文才のない僕には作詞なんかできるわけがない。

「それに、僕なんかが作詞したら、茜のファンが怒るよ。 ファンは茜が作詞作曲した歌を聴きたいんじゃないの?」

「うーんそうかな~」

「まぁ気が向いたら、いつか、きっと、たぶんぐらいの気持ちでいて」

「お! やる気が出てきたかー!」

「今のセリフのどこにやる気を感じたのか疑問だよ」

「へっへ~」

「そういえば凪は? 一緒じゃないの?」

 凪というのは、いつも茜と一緒に行動している女の子だ。 まるで茜の妹のようにくっついて歩いている。

「凪はちょっと体調が悪くて保健室で休んでいる~」

「大丈夫なの?」

 凪は僕らの仲良しメンバーの一員だ。 だけど身体が弱く、保健室の常連客となっているのだ。

「胸が痛いって」

「心配だね」

「うん……」

 と、その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが中庭に響き渡った。 中庭にいる生徒たちは蜘蛛の子を散らすようにその場から去って行く。

「あ、もう行かないと。 じゃあね、茜」

「おう! また放課後ね!」

 そう言って僕は茜と別れた。

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