第17話 児童カード

 翌日、早めの昼食を取った四人は、バスで松江に向かった。

 バスを降りると、慶子は住所を借りたパチンコ店の場所を正義に教えた。

「学校まで二人で先を歩いて行ってごらん」

 正義は茉莉子と恭輔に声を掛けた後、振り返ってパチンコ店を、――「グリーンホール」の看板を確認した。

 二人は迷うことなく松江南小の正門前に辿り着いた。

 インターホンで用件を伝え、受付の守衛に校長室まで案内してもらえることとなった。が、うっかり上履きを忘れてしまい、四人お揃いで来賓用の茶色のスリッパを履く羽目になってしまった。

 やっぱり、持って来なくてよかった――恭輔は一人密かにそう思った。下駄箱には、白地にエンジのゴムの縁取りがある上履きが並んでいた。

 四人は校長室に通された。応対に出たのは教頭の富沢と名乗る男性だった。

「あいにく、校長は急用で不在にしておりまして……」

 慶子はどこかで聞いた台詞だと思った。

 校長の執務机の前には、三人掛けのソファと二脚の一人掛けのソファがテーブルを挟んで向かい合っている。正義が富沢の隣に座り、ひと通りの挨拶が終わると、富沢はバッグを膝に抱えている慶子の方を見た。

「向こうの学校と教育委員会からの書類はお持ちですか?」

 慶子はバッグから大きな封筒を取り出し、葛西東小の二人の教師から受け取った封書と江川から受け取った通知書を富沢に示しながら渡した。彼は、封緘された二通の証明書はその場で開封せず、通知書の内容を確認した。――正義と慶子は息を呑んだ。

「確かに。お預かりします」富沢は顔を上げずに言った。

「こちらは明日にでもお子さんに持たせてください」

 富沢は持参した二枚の同じ用紙のうち、一枚を隣の正義に、もう一枚を目の前の慶子に提示した。表題に『児童カード』とあるこの用紙は、氏名、生年月日、住所、本人の性格、既往症など、通学児童個人に関する情報を記入するようになっている。その裏面には、学校から自宅までの略図を書く欄と緊急連絡先の記入欄があった。

「書き方などで何か分からない事はありますか?」

 富沢の視線が正義と慶子の顔を往復した。

「いいえ、特にないですね。明日、子供に持たせるようにします。担任の先生にお渡しすればよろしいですか?」

 正義は普段オフィスで話す口振りで軽く流した。この児童カードについては、昨晩江川から直接聞いていたのである。

「そうですね、担任に渡してください。そろそろ担任の二人もこちらに参りますので、その時に改めてご紹介しますが、茉莉子さんは六年二組で香坂幸子先生です。恭輔君は三年一組で森下雪乃先生になります」

 それからしばらくの間、体操着や上履きなどの学用品の購入場所、教科書は区内共通であるため新たに用意する必要はないことなどを確認していると、扉をノックする音がした。(つづく)

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