第13話 獅子奮迅
三人が駅前で買い物をして家に着いた時は午後四時を回っていた。
慶子は玄関の扉を開けようとバッグの中から鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。が、空回りで手応えがない。
「ひょっとして鍵を閉め忘れたかしら……」
慶子は恐る恐る扉を開けた。すると、黒い革靴が並んでいるのが目に入った。
「ただいま。早かったのね――」
「ああ、少し風邪気味だから、早めに上がってきたんだよ……」
慶子は正義の声を聞いて、学校のことが気になって午後は休みを取ったんだな、と思った。
「あら、大丈夫?こっちの学校の方は何とか無事に済んだわ。明日、松江南小に子供達を連れて書類を出しに行けるわよ」
「そうか、よかった……」
正義は慶子の威勢のいい様子を見て話を続けた。
「在学証明書はすんなり出してくれた?」
「それがね、茉莉子の方は直ぐにもらえたんだけど、恭輔の方が――藤木先生がなかなか納得してくれなくて――何で急に?ってびっくりしていたわ。それはそうよね、今日の今日で転校って言われて……それでしばらく今回のことを話しているうちに、先生も落ち着いてきて、――お姉さんは来月卒業ですし、恭輔君を一緒に転校させる必要もないでしょう?って。私、困ったよ。でも、もう娘の方の証明書はもらったんです、って封筒を見せたら、一瞬、意外そうな顔をして、渋々承知してくれたわ。恭輔は授業の途中だったけど、そのまま連れて帰ろうとしたら、――せめて給食まで皆と一緒に過ごさせてあげてください、って頼まれて。お昼過ぎには書類もでき上がるっていうから、一旦引き上げて、その間に区役所に行って新しい住民票を取ったり、細埜で手土産を買ったりして……結局、お昼を食べる暇もなかったわ」
「大変だったな……」
「恭輔は昼休みの後、体育の授業もやるつもりだったみたいで……江川先生と約束してる時間に間に合わなくなるから、着替えを止めさせて連れて来たけど、――迎えに行ってるのに当たり前のように着替えてるのよ……」
正義は無言だった。
「今朝、恭輔が学校に行く時に言われてさ、――僕だけ今の学校に通っちゃダメなの?って」
「で?」
「もし、お前一人あの学校に残ったらどんな目に遭うか分からないよ、って。四年生になってお姉ちゃんの今の担任のクラスになる可能性だってあるんだから、って言ったら、仕方なさそうな顔してたわ」
「何か脅しているみたいだな……」
「しようがないでしょ」
慶子は空腹なこともあって、不機嫌そうに言葉を投げたのだった。(つづく)
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