第7話 ダスターシュート

 六月の終礼後のことだった。

 三年五組では、終礼の時にちょっとした表彰式が行われることがよくある。学業のみならず、体育や日頃の学校生活など、皆の模範となる実績を修めた生徒に対して、藤木がオリジナルの賞状を授与するのである。賞状は、B6サイズの水色の画用紙に、日付、生徒の氏名、表彰の内容などが記され、その評価の高さに応じて、上から順に『賞』、『たいへんよくできました』、『よくできました』の三種類の朱印が紙面の右上に押されたものだった。

 その日の終礼では、計算ドリルの宿題の出来についての表彰式があった。

 恭輔は表彰されたうちの一人だったが、渡された賞状には『よくできました』の印があった。その頃の恭輔は、好きでもない教師の授業を真面目に聴かず、また自宅学習にも身の入らない毎日を送っていた。そのせいか、つまらない計算ミスなどが目立ち、この日の宿題も十問中、二問を間違えるという出来だった。

 恭輔は、賞状を受け取ると、歩きながら二つに折り曲げ、そそくさとズボンのポケットに滑り込ませた。家に持ち帰るつもりはない。『よくできました』など、慶子に見つかったら大目玉を食らうことは目に見えていた。

 終礼が終わり、掃除の時間になると、恭輔はこの賞状を破ってダスターシュートに差し込んだ。

 ところが、恭輔は、破った賞状をただそこに入れたのではなかった。こともあろうに、自分の氏名が記された部分だけを切り取って一文字ごとに丁寧に四つに破り、その四つの紙片はダスターシュートの中に入れず、その場にばらまいておいたのである。

 恭輔の目論見どおり、この教師への挑戦的な所為は、まもなく掃除当番の雅弘に発見され、藤木に報告された。雅弘は、恭輔が洗面所から出て来るところを見つけると、足早に近寄って行った。

「緋浦君って、すごいことをするんだね。先生がキミを探しているよ」――お坊ちゃまタイプの雅弘は、目を丸くして、したり顔で詰め寄った。

 恭輔は、そんな雅弘を無視するかのように、表情一つ変えず彼の横を通り過ぎ、まだクラスの皆が残っている教室にさっさと出頭して行ったのだった。……


 何であの時、あんなことをしたのだろう……恭輔はそう思いながら、遠い昔の出来事のように感じていた。(つづく)

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