三枚の【お・ふ・だ】? エントマは覚騙りき・・・

エントマ・ヴァシリッサ・ゼータは覚騙りき・・・


三枚の【お・ふ・だ】?  【byナザリック風味?】


   著 ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥス

   原案協力 デミウルゴス


    語り部 エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ


      発行 アッシュールバニパル魔童書房



   ・・・   ・・・   ・・・



 蜘蛛の糸で編まれたハンモックの傍らで騙られるは・・・


「むかぁし、むかしぃ。ナザリックが此処に現れてから少しした頃・・・


 悪手羅おてら悪将おしょうさん【=デミウルゴス】が蠱魔こま使いさん【=エントマ】にお使いを頼みました。


「エントマ、庫裏くり【=台所キッチン】が少々物寂しくなったので、惨災さんさい【=食材・・】を取りに行って貰えませんか」

「はぁい、ただちにぃ。行って来ますぅ」


 そう言って直ちに飛び立とうとしたところ、悪将さんが引きとめました。


「ああ、待ちたまえ。最近はナザリックを狙う不届き者が居るからこの【おふだ】を持って行きたまえ」と色とりどりな三枚のお札を渡された。

「コレを使い、その成果を教えてもらえるかな」

「はぁい。では、行ってまいりますぅ」


 そういうと、飛び立っていった。



   ・・・   ・・・   ・・・



一枚目の・・・


 庫裏を満たすため、張り切って食材・・集めに夢中になっている内に時間が過ぎ去り、すっかり辺りを包囲されていた。


「あらあらぁ。困ったわぁ、どうしましょぅう」


 と小首を傾げ、辺りを見回した。

辺りは赤白黄色血肉・骨皮・脂肪の三色に彩られている地面を遠巻きに、十重二十重に囲まれていた。


「油断するな! 相手は化物だが、押し包めば勝てる相手だ!」


 そう囀っている相手には見覚えがあった。


「オ前達ハァ! 殺スゥゥウ!」


 エントマの殺意が膨れ上がった。が、優先すべきはナザリックの安寧と、今任されている庫裏を満たす仕事。

 それを考えたら、怒気が萎えた。


「今はぁ、それどころじゃないからぁ、見逃してア、ゲ、ルゥ」


 そういうと、一枚目のバナナ色のむにムニとした、ほんのり温かい感触のお札を取り出し、そっと放り投げた。


「させるか!」


 一人の 女?戦士が飛び出し、鉄槌で殴りかかってくるが、その前に悪札が地面に着いた。


 ぬにゃにゅにょるん、と地面から生えた極太の長い怨柱おんばしらが起立し、その起立した柱から枝分かれするように、蛇の如く太く長い触手が戦士を絡め取った。


「ヤ、辞めろ! は、離せ! 離せよぅ! ニュルニュルして長いのは苦手なんだ!」


 そうは言うものの、触手はキッチリと戦士の身体をまさぐる様に這い続ける。

 それを目にし、ザワリと包囲の輪が広がった。

 その隙を見逃さず、エントマはその怨柱が差し伸べた触手を伝い、高みから飛び立った。


「お、追え! 逃がすな!」


 戦士の仲間が敵を追うか、仲間を助けるのか逡巡しゅんじゅんしていると、


「い、行け! 行ってくれ! 自分の事は自分で何とかする!」


 という捕まった仲間の声に背中を押され、後を追った。

 遠ざかる仲間の背中を見届けた戦士ではあったが・・・


「負けて・・・たま? お、おい、や、や、えろ! そんな、そんな所に、這入ってくるな!!」


 あ、あぁあぁぁぁぁっ! という絶叫を残し、辺りは静寂に包まれ、怨柱おんばしらは消え去った。

跡にはぬらぬらとした 女?戦士が一人、粗く息を吐きながら転がっている。


 戦士の周りを、遠巻きに見守る同性の冒険者達が居たが、幾らか鼻息が荒かったらしい。



   ・・・   ・・・   ・・・



二枚目の・・・


 包囲網を掻い潜り逃げ続け、スタミナの消耗が大きかったために補給をしようとしたエントマの前に、盗賊が現れた!


「仲間の敵討」 =逝きはしたが、まだ死んではいません


 他の仲間はまだ大分後方に位置し、今暫く時間がかかりそうだ。


「もぉう、追い付いてきたぁ」


 ここで足止めしてボスを待つ構えの様だ。


「じゃぁあ、コレでぇ」


 と、二枚目のつるりとした、冷たく輝く黒い色をしたお札を取り出したが、間もなくその手を離れた。


「やらせない」「ナイス」


 いつの間にか目前の盗賊が一人増え、手にしたお札をクシャリと握りつぶしていた。

 暫しの間、睨み合っていたが、札を奪っていった盗賊の手の中からカサコソという音と、こそばゆさを感じた手を開くと・・・


 ブワリと、押し出される様に黒く小さな蟲が、とめどなく湧き出してきた。


 あわあわと手を振り、振り払おうとするも振り払えず、仲間にどうにかしてもらおうとするも、早くも遠ざかっていた。

 ふと、危険を感じ振り返ると・・・


 じゅるりとした音を今にも立てそうな様子で「おやつぅ!」と口にしながら襲い掛かってくるエントマの姿を見て、半狂乱になって逃げ出したが、湧き出るそれはまだ尽き果てず。

 逃げる仲間の盗賊に助けを求める盗賊は、黒い線を伴う。線は徐々に太くなり、末端は小川となって跡を追う。


 その間にエントマはもしゃもしゃと、消耗したスタミナをオヤツで一時回復させて逃走を再開した頃には、黒い小川は千々に散らばって、方々で阿鼻叫喚をもたらした。



   ・・・   ・・・   ・・・



三枚目の・・・


 二枚目の効果を逃れるために、空高く舞い上がる事で助かった残された冒険者達は、小高い山の山頂にエントマを追い詰めた。


「仲間の為にも、逃がさない!」 =まだ誰も死んでません

「またぁ、しつこぃい!」と言いつつ、三枚目のオレンジ色をしたぷるプルンとした、些かあっつい【=エントマ談】お札を頂きにある大岩に張り付けた。

 すると、大岩がオレンジ色に染まり、そこここの角がトロリと丸みを帯びた小山と化した。


「じゃぁあ、あとはよろしくぅ」とエントマが声を掛けてその上に跳び移ると、ぷるんっと応える様に震え、その反動を利用してエントマは空高く跳び上がって空中合体を果たし、飛び去った。

 後に残されたオレンジ色のスライムは四分五裂を開始し、それぞれが冒険者達に跳びかかった。


「ぎゃぁ!」「あ、熱い!」「お、俺の剣が!」「盾に穴が!」

「引きなさい! 貴方達じゃ如何にもならない強敵よ! 殿は私が引き受ける!」

「私はアイツの後を追うぞ!」


 と小柄な仮面の魔法使いが言った。


「・・・ええ、お願い。でも、無理はしないで」

「分かってる」そう言うと、空高く飛び上がりエントマの後を追った。


 後に残されたのは、溶け欠けた武器防具を纏った冒険者達。



   ・・・   ・・・   ・・・



 無事に合流地点へと辿り着いたエントマ。


「やあ、おかえり。庫裏は十分埋められたよ」

「それはぁ、良かったですぅ」


 敵の本拠を確かめる為、跡を付けた魔法使いだったが・・・その姿を現すのは大分後になってからだった。




 え? 如何してかって?

 亜魔手裸アマデラ悪将さんシャルティアに見つかって、もっちりとした所から串刺しで逝け造小生的に食べられてしまいそうだったから。



   ・・・   ・・・   ・・・


こうして、ナザリック式【防犯】アイテム【三枚の悪札おふだ】が誕生した。


隠して、 女?戦士の薔薇は散り・・・

双子の盗賊は黒い川の流れに流され・・・

ボスは経済的に焼け焦げ・・・

最後は食べられそうになったとさ・・・



三枚の悪札

 一枚目の悪札は、バナナ色したむにムニとした、ほんのり温かい感触。

  =触手の檻の主の触手召喚

 二枚目の悪札は、黒色をしたつるツルとした、冷たくも温かくもない硬めな感触。

  =恐怖公の眷族限定召喚

 三枚目の悪札は、オレンジ色をしたぷるプルンとした、些かあっつい=熱々おでんの蒟蒻に似た感触。

  =奈落アビサルスライムの一部召喚

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る