第4話

「え〜っと、それじゃあねぇ――」


教壇に立つ担任が腰を振りながら、人差し指を厚い唇に添えている。

まぁ良い、それは慣れた。

しかし、今は夏なのである。僕にはわからないが、この時期、女性は何かと肌を露出させるのである。おネェとてその例に漏れない。

ホットパンツから覗く僕の首ほどある毛むくじゃらの脚が本気で気持ち悪い。


今日は夏休み前の最後の1日――今日1日乗り切れば、楽しい楽しい夏休みの始まりなのである。

そして、今は最後のホームルーム。通知表を貰い、そして家に帰るだけ。


しかし、真白が静かだったのが気になる。

昨日、テストが返ってきて、あれだけ騒いでいた真白がそのことについて何も言わないのだ。

昨日の夜、朝も一緒に食事を取ったが、真白が普段通りだったのが、とんでもなく怪しい。


「それじゃあ、夏休み、あたしの家で補習する生徒を発表するわねぇ。まぁ、みんなわかっているかもだけれど……」

担任がとんでもなくガッカリしているように見えるが、きっとそれは補習生徒が出たという残念さから来るものだと信じたい。


これで真白も真人間(女性寄りの中性)になるだろう。


チラリと僕は真白に視線を向ける。

「――?」

真白が笑った。


どういうことだ? あれだけ嫌がっていたのに、真白はどこか誇らしげ……まさか。

あまり信じたくはないが、真白の秘策というのは、全てを受け入れ、それに染まることではないだろうか?

僕は悲しい。幼馴染が担任に染められる前におネェの道を歩もうとしている事実に。


まぁ、おネェになったとしても、僕は朝の日課であるおはようお目覚めニー(寝ている真白の腹部に膝を叩き込む)を止めるつもりはないが。


「えっと、まずはバ――真白ちゃんね」

うん? まず? もう1人いるのか? 良かったな真白、1人じゃないぞ。一人ぼっちは嫌だという願いを神様が叶えてくれたぞ。

あんな簡単なテストで赤点取るのは真白くらいだと思っていたが、そうではないらしい。

担任が真白を指さした後、ゆっくりと別の生徒に動かしていき……。

「ごめんねぇ、真白ちゃんがどうしてもって言うから――ウサギちゃんも一緒にね」


「なんでやねん!」

僕は叫んでいた。そう、担任が指さしたのはどう避けても僕なのである。


真白に視線を向けてみると、立ち上がり勝ち誇った顔で両手を上げ、天井を仰いでおり、ありがとう。と、何度もほざいていた。


「な、何でですか!」

僕は堪らず担任に尋ねる。


「そうよねぇ、あなた成績優秀だし、補習なんて出たくないわよねぇ」

僕が補習に出たくないのは、成績優秀だからではなく、熱っぽく見つめる先生がいるからです!

「でも、ごめんなさいねぇ。だって、そこのバ――真白ちゃんがウサギちゃんも一緒じゃなきゃ、この場でエアコンのファンに指を突っ込んで死ぬって、職員室にある扇風機抱えながら五月蝿かったんだもの」


「ドヤぁ――」

真白がとんでもなくしたり顔を浮かべ、僕と自分を交互に指さし、最後には親指を下に向けた。

地獄に一緒に落ちようぜ。の意味である。


その瞬間、僕の本能をグルグル巻きにしていた理性という鎖がブチブチと音を立て千切れた。

僕は抑えきれず、真白に飛びかかり、その顔面に何度も拳を叩き込む。


「お前ぇ! お前ぇ――!」


「ちょ――やめ――」


「返せ! 僕の純潔と甘酸っぱい青春の思い出を――」


「あら、ウサギちゃんは初めてなのね」


「ひぇ――」

舌舐めずりする担任に恐怖を覚え、僕はそれを振り払うように真白の身体中を殴り、最後には机を持ち上げる。

「……許さんぞ」


「ちょ! それはシャレにならない!」


「天誅!」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


「さて――それじゃあこれでホームルームは終わりよぉ。みんな、羽目を外しすぎないようにね。通知表はここに置いておくから、持って行ってねぇ」


担任の言葉に返事を返す薄情者なクラスメート――こうして、僕らの夏休みが始まった。

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振り返ってみても一緒に歩いている。《今日はどうする?》 筆々 @koropenn

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