十二冊目 光に在って光に非ず
ある日のことでした。私は近所の神社で行われた夏祭りの帰り、表参道とは正反対の位置にある裏参道から帰路につきました。小さいながらも地元民に愛される神社で、祭りの際は多くの人が訪れ、表参道が毎年人で溢れ、道が塞がれてしまい通りにくくなるからです。
いつもは表参道を通る方が早く家に着くので表参道を通り帰路につくのですが、少し気分が向いたこともあり裏参道を通って帰ることにしました。
いつもは通らない道が、こんなにも暗く、恐ろしく、妖しく見えるものでしょうか。
私はその時、世に言う「怪異」に出くわした様な感覚になりました。
人気のない道路、勿論車なんて通りません。不思議でレトロな寂れた街並みが、そこにはありました。
パブがあり、飲み屋があり、トタンの建物があり、瓦の古民家がある、そんな混沌とした、街灯の少ない道です。最近は見かけなくなったブラウン管のテレビが店のくすんだ窓ガラスからちろちろ見えていました。ちかちか白熱灯が切れかかっています。信楽焼の狸の置物が何故か飾られていました。不思議だなあ、こんな所あったっけかなあとぼんやり歩いていたその時です。
突然雨が降ってきたのです。
あれあれ今日は晴れるんじゃないの?傘なんて持ってないよ。アナウンサーさんが嘘ついたの?なんて中学生のようなことを考えて、どこかの店の軒先に雨宿りさせて貰おうと、近くの雨樋のしっかりしていそうな店に入りました。重厚そうな扉を押せば思ったより軽く扉は開いて、膨大な本の数々が目に飛び込みました。うわあ、すごいなあ。ぽかんとその信じれない光景を見ていると、奥から何かが出てきました。
「実は、ここから覚えていないのです。
私が見た、奥からこちらの様子を見に来たアレがなんだったのか。人だったのかなんだったのか。男性か女性だったのか、それもわかりません。確かに人の形をしていたのに人でないような気がするのです。そもそも人の形をしていたかもあやふやになってきています。馬鹿馬鹿しいかもしれませんが本当なのです。
それでも。
あの古い本の匂いと、蒸し暑い雨の匂いが混ざったあの匂い。
私は忘れることはないでしょう。
後から気がついたのですが、私は貸本屋を去った後ある一冊の本を持っていました。それは何も書いていない、題名も何もないのに重厚そうな本です。
中身もないそれの中身を、私は一度しか見ていません。見てはいけない気がするのです。
何故か、私は何かに対して、恐れを抱いたのでした」
十二冊目 ××
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