裏通りモノノカタリベ貸本屋

宮間

ご来店有難う御座い〼

「いらっしゃいませ。どうなされました?」


 こんなところに人が来るなんて珍しいですね。

 ここがどこかわかりますか?もしや道に迷われましたか。

 おや。それは失礼致しました。

 ここは貸本屋です。といっても私の読みたい本ばかり集めただけですけれど。

 お客様が滅多にいらっしゃらないのはその所為でしょうかね。お恥ずかしい限りですが。仕方ありませんかねえ。そもそも昨今「貸本屋」というもの自体見かけなくなりましたから。ご存知ですか?

 貸本屋。

 その名の通り、本を貸すことを生業とする店のことです。そうですね、今なら何とかというビデオの貸し借りで経営している店がありますでしょう? あれの大元と云えばわかりやすいでしょうか。昭和の時代には多かったのですが…………図書館や、本を手に入れ易くなった事もあるのでしょう。ここ最近はめっきり見かけなくなってしまいました。確かに本は何回もお金を出して借りるより、いっそ買ってしまった方が安く済みますから。

 おや。意外そうな顔をして、どうなされました?

 ああ、いえ。私は自分を卑下している訳では無いのですよ?寧ろ今あるこの生活がとても気に入っています。何よりこうして、たまにふらっと誰かさんが迷い込んでくれるお陰で楽しいことといったら。そういう事ではない、ですか?おやまあ。

 ところでお時間は御座いますか?

 何を急にとお思いになられるのは重々承知しておりますが、こんな辺鄙へんぴな場所に店を構えているのは何も酔狂だけでなく、こだわりがありましてね。

 少し疲れてはいませんか?

 長い長い物語に触れて疲れていては?

 そんな時にはこちらの本を。いいえ、その点についてはご安心ください。店内でご覧になられる際はお代を頂きません。お好きなだけ、立ち読まれてはいかがです?

 ここに在るのは少し不思議な本ばかり。切ないものや温かいもの、優しいものや奇妙なものを取り揃えております。ここに迷われたのも何かのご縁、一休みしていかれませんか?

 まずはそこの本棚のものなどいかがです?私の一番のお気に入りを集めました。どの話も軽く読めましょう、こちらへどうぞ。


 ようこそ、モノタリ貸本屋へ。

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