第2話 当日

 次の日の朝、智也は携帯のアラーム音で目を覚ました。携帯を見ると七時一分と表示されている。七時十分まで寝ていると沙紀がお越しにくるが、大きなあくびを一つしてベットから降りた。

 寝室を出てうがいをしようと脱衣所に向かうとドアが閉まっていた。真希が入ってるのかなと思いリビングへ向きを変える。別に何かを言われた事はないが、年頃の娘は入浴中、脱衣所に入られるのは嫌かもしれないと、智也は勝手に思ってる。

 リビングに入ると沙紀が「おはよう」といいながら机の上に昨日と同じポテトサラダを並べた。

「うん、おはよう」覇気のない返事をしてキッチンでうがいをしてから席に着いた。

「うがいは脱衣所でしてよ」沙紀がウインナーをフライパンからお皿に取り分けながら智也に注意した。

「真希が風呂入ってたから」あくびをしながら返した。

「着替えてた訳じゃないんでしょ。さっき入ったのにもう出るはずないんだから。脱衣所に入ったぐらいで何にも言わないでしょ」

「まあそうかもしれないけどさあ」智也はそういいながら冷えたお茶を飲んだあと、少し歯にしみて苦い顔をした。

「新聞は?」

「そこ」沙紀がソファの前にある机を菜箸で指した。

 新聞は沙紀がいつも智也が起きる前に、一日分の郵便物と一緒に一階のポストから取ってくるという習慣がある。

 智也は一度立ち上がって茶色い封筒やマンションの広告などをどかして新聞を取り、キッチン前のダイニングテーブルに戻った。

 智也が座ると同時に、沙紀がひじきとウインナーが載ったお皿と白飯を机に並べてイスに座り「いただきます」と言ったのをきっかけに、智也も「いただきます」といって新聞を開いた。

 沙紀と智也が朝ご飯を食べ終わる頃、微かに聞こえていたドライヤーの音が止み、着替えを終えた真希がリビングに入ってきた。

「暑いっ。もう冷房つけていい?」

「全然暑くないでしょ。まだ五月なんだから」沙紀は真希のコップにお茶を入れ「あんたに手紙きてたから後でちゃんと読みなさい。ソファのとこ置いてあるから」と続けた。

「はあい」返事をして真希は席に着いた。

 智也は新聞を一枚めくってから娘に目を向けた。

「おはよう」

「パパおはよう」

 娘と軽いあいさつを交わした後、ダイニングテーブルの上に置いてある小さい置き時計を見ると七時二十分をすぎていた。

「ゆっくりしすぎたな。風呂入ってくる」

 智也が朝ご飯を急いで食べ終わり「ごちそうさま」と立ち上がりお風呂に向かうのと入れ替わりで、真希が「いただきます」と朝ご飯を食べ始める。

 智也がお風呂から上がりスーツに着替えて書斎兼夫婦の更衣室をでると、真希が家を出るところだった。

「いってらっしゃい」靴を履いている真希の背中に声をかける。

「いってきます」真希は振り向かずに返事をした。

 父と娘のやりとりが聞こえたのか、キッチンで洗い物をしている沙紀が少し大きな声を出した。

「真希、手紙そのままになってるよ。読んだの?」

「ソファんとこ置いといて。帰ってきてから読む」

「はあい、じゃあいってらっしゃい」

「いってきまあす」

 沙紀は立ち上がり、靴を床でつま先に詰めたあと、智也に手を振ってから家を出ていった。

 智也は真希を見送ってリビングに入ったあと、コップにお茶を入れて一気に飲み干した。

「じゃそろそろ俺も行こうかな」

「はあい、いってらっしゃい」

 洗い物をしている沙紀と軽いキスをしてから家を出た。

 少し急ぎ足で駅に向かい、いつも通りの時間に会社に着いた。社員証をタイムレコーダーにかざし、自分の部署に向かった。

 すでに出社している者に声を掛けながら自分のデスクに鞄を置いてパソコンを立ち上げ、社内の自動販売機で買った缶コーヒーを開けた。

 積まれている書類を軽くチェックし一息着いたあと、始業時間とともに仕事を始める。

 お昼に下田と横沢の三人で昼食を食べ『今日は週末で仕事も結構あるから二十時過ぎるかも。ご飯食べといて』と沙紀にメールを送った。

 食後のコーヒーを飲み仕事に取りかかろうとした時、沙紀から返信があった。

『了解しました。今三神さんとランチ中です。駅前のイタリアン安くて美味しいよ。今度みんなで行きましょう』

 絵文字入りのメールをみて『楽しそうだね。三神さんによろしくって言っといて』と返信して仕事を再開させた。

 十七時過ぎ、智也は少し息抜きをしようと席を立ち、コーヒーを買うため社内の自動販売機へと向かった。

 財布から小銭を取り出そうとポケットに手を入れたと同時に、携帯が震える。携帯画面を見ると知らない番号が表示されていた。知らない番号から電話が来ることはあまりないが、仕事関係の可能性もあるなと思い電話に出た。

「もしもし」

「あっ、すみません。小西智也さんでいらっしゃいますか?」

 聞き覚えのない低い声で、やけに丁寧な聞き方をする相手に智也は気構えた。胸のあたりが少し締め付けられるような、嫌な予感がした。

「そうですが……すみません、どなたですか?」

 電話の相手は一度咳払いをしてから丁寧に話し始める。

「市川警察署の中島と申します。家の方にお電話したんですが娘さんしかいなかったのでこちらの方に連絡させて頂きました」

「警察?」

 中島は構わず続ける。

「小西沙紀さんが十五時頃に市川病院に運ばれまして、身元確認が取れましたのでお電話いたしました。今から病院の方に来て頂けますか?」

 智也は相手が何をいっているのか分からなかった。言葉の意味は理解できるが、頭の中でバラバラになっていた。

「えっ……警察? 病院? 沙紀がなんですか?」

 智也の混乱を察したのか、中島が諭すようにゆっくり話した。

「小西沙紀さんの、ご主人でいらっしゃいますか?」

「ええ、沙紀は私の妻ですが」

「今日の十五時頃に、小西沙紀さんが市川病院に運ばれまして、身元確認が取れましたのでご連絡しております。今から病院の方に来て頂きたいんですが、無理そうでしたらほかの連絡先をお教え頂けませんか?」

 智也は少し冷静になったが、まだ頭の中でまとまらなかった。

「市川病院ですね。一時間ぐらいで行けます。いや行けますけどどういう事なんですか?  あの――」

「くわしいことはこちらで話しいたします。では病院でお待ちしております」智也の言葉を遮って中島が話した。

 混乱している中でまだ聞きたい事はたくさんあったが「分かりました、すぐ行きます」そういって電話を切った。

 上司に事情を説明して早退の許可を貰い、会社を飛び出してから家に電話をした。

「はい、小西です」

「真希か、よかった、パパだ。今から家に帰って一緒に病院に行くから準備しといて」

「……なんで?」

「ママが病院に運ばれたらしい」

 娘に話してから智也もやっと理解できたが、理解すると今度は嫌な考えばかり浮かんできた。

「ママが……病院? ……どういうこと?」すでに真希の声は震えていた。

「パパもまだ何も分からない。とりあえずすぐ出れるように待ってて。マンションの下に着いたらまた電話するから」

「……うん」

「大丈夫だから」智也はそういってから電話を切った。

 汗だくで電車に乗ってからいろいろ考えようとしたが、次から次に良くないことばかり浮かんできて、考えがまとまらなかった。

 沙紀に何かあったのは昼のメールのあとってことか? 朝は体調が悪い感じはしなかったけどな。そういえば警察っていってた。交通事故か? 沙紀から連絡が無いって事は沙紀に意識がないってことか? 手術中? そうだ、沙紀の実家に電話しないと。死んでないよな。まさか。どれくら入院するんだろう? 俺の実家にも連絡したほうがいいのかな? そりゃあするよな。軽いケガだよな。十五時に運ばれた? そういえば三神さんは? 駅前でタクシー乗らなきゃ。そういえばお金持ってたっけ? 真希は大丈夫かな? もし沙紀になんかあれば俺が守らないと。いやなにもないよな。大事になっちゃったとかいって笑って待ってるはずだよな。なあ沙紀。大丈夫だよな。沙紀。

 市川駅に着いてタクシーに乗り、道順を運転手に指示しながらマンションに着く少し前に、真希に下に降りとくようにと電話した。

 マンションの前に着いて、すでに下で待っていた今にも泣き出しそうな、泣いた後のような顔をした真希をそのままタクシーに乗せ、運転手に市川病院までと行き先を告げた。

「家の鍵閉めた?」智也が訊いた。

「……閉めた」真希が小さな声で答えた。

 二人の間に長い沈黙が流れた。真希が時折何かを訴えるような眼差しを向けてきたが、なんて声を掛ければいいか分からず、気づかないフリをした。

「大丈夫だから」絞り出した言葉は、半分は自分に言い聞かせていた。

 マンションから十分程で病院に着いてタクシーを降り、智也は真希の手を引いて小走りで中に入った。 

 受付に事情を説明すると、若い女性の看護士が「こちらです」と個室に案内した。

 智也はすぐに沙紀に会えると思っていたが、個室には灰色のスーツを着た五十代ぐらいの男と、紺色のスーツを着た三十代ぐらいの細身の男と、白衣を身につけた眼鏡の男がイスに座っていた。

 個室の中には軽い医療器具が揃っている。いつもは受診室に使われているようだった。

「お待ちして――」

「あのっ、沙紀はどこですか?」

 白衣の男が暗い顔を作りながらしゃべり始めたのを遮って、智也が口を開いた。

「とりあえずお座り下さい……小西智也さんですか?」白衣の男が訊いた。

「はい」

「小西沙紀さんの旦那様でいらっしゃいますか?」

「はい」

「こちらは?」白衣の男が真希に手を差し向ける。

「娘の真希です」

 白衣の男は少し考えたあと、カルテのような物を見ながら話し始めた。

「今日の十五時過ぎに、出血多量により心肺停止の状態で、小西沙紀さんがこちらの病院に運ばれてきました」

 智也は口を開いたが、言葉が出てこない。

「我々もいろいろと手を尽くしたのですが、残念ながら十五時四十分にお亡くなりになりました」

 真希が智也の手を強く握りしめてきた。その手は震えていたが、その震えがどちらのモノなのか智也にも分からなかった。

「沙紀さんのご遺体は安置所の方にありますので、ご親族の皆さまにもご連絡していただいて、お会いになって下さい」

 智也はまだ信じられなかった。真っ白になっている頭の中で「分かりました」と白衣の男に答えた。真希は智也の手を握ったまま泣いている。

「あとは我々が」灰色のスーツの男が白衣の男に声を掛けた。

「お願いします」そういったあと、白衣の男は立ち上がり個室を出ていった。

「小西さん、すみませんが少しお時間よろしいですか? 私は先ほどお電話させていただいた中島です」

 中島は警察手帳を取り出し名刺を渡した。それに合わせて紺色のスーツの男も同じように手帳を開き「杉野です」と智也に名刺を渡した。

「今から事件状況をお話したいんですが、娘さんは席を外して頂いた方がいいかと……どうなさいますか?」中島が訊いた。

 智也は自分でも驚くほど冷静になっていた。二人の刑事を前に、まるで映画をみてるような気分だった。

「分かりました。真希。ちょっと外に出ようか」

 泣いている真希の手を引きながら個室を出て、廊下の壁際に設置されたソファに真希を座らせた。

「すぐ戻ってくるからちょっと待っててな」

 真希の返事は無かったが、もう一度「すぐ戻るから」といってから個室に戻った。

「すみませんお願いします」と二人の刑事に頭を下げた。

「いろいろと落ち着いたあとに、また聞きたいことがあれば話せる範囲で何でもお話いたしますが、今はできるだけ短くお話いたします」

「助かります」

「小西沙紀さんですが、今日の十四時半頃に、自宅近くの路地で鋭い刃物で刺されたようです。まだ道具に何が使われたかは分かっていません。発見者の方が救急車の手配や警察への連絡をしたようです」

 沙紀が刺されたと聞いても、あまり動揺しない自分を不思議に思った。

「犯人は?」

「現場検証と事故現場の周辺で聞き込みをしてる最中ですが、まだめぼしい情報はありません。申し訳ない」

「そうですか……その発見者のお名前と住所は教えて貰えるんですか? お礼をいいたいんですが」お礼もしたいが、それよりも沙紀の最後を看取ってくれた人になぜかとても会いたかった。

「今はまだお教えできません。また確認ができしだい、こちらからご連絡いたします」

「分かりました。お願いします」

「必ずご連絡いたします」

 二人の刑事が手のひらサイズのメモ帳になにか書いたあと、今まで静かにしていた杉野が口を開いた。

「最後に、失礼になるかもしれませんが、奥様に危害を加えるような人に心当たりはありませんか? どんな小さな事でもお教え頂けると、捜査に役立つ可能性がありますのでお願いします。ここでお話になったことは、捜査関係以外では口外しませんし、何でもないことであれば、ここにいる二人以外知ることはありません。事件の早期解決のためよろしくお願いします」

 智也はどんな小さな事でも思い出して二人の刑事に伝えようとしたが、沙紀に危害を加えるような心当たりは出てこなかった。

「すみません。妻の友人関係も全て知ってるつもりですが、思い当たる事は今のところありません」

「ご主人の方には何かありませんか?」

 杉野の言葉に、智也は最初何をいってるか分からなかったが、すぐに理解した。

「僕自身も誰かに恨まれるような事はしてないと思いますし、今も妻だけを愛しています」

「変な事をお聞きしてすみません。ありがとうございました」中島がいった。

「いえ、なんの協力もできずにすみません。早く犯人を捕まえて下さい。よろしくお願いします」

 智也は立ち上がり深々と頭を下げた。それにつられるように二人の刑事も「全力を尽くします」と頭を下げた。

「こんな時にお時間を取らせてしまいすみませんでした。私たちはひとまずこれで失礼します。またなにかあればお伺いすると思いますが、そちらからも何かあればご連絡ください」

 中島はそういってもう一度頭を下げて、杉野と共に個室を出ていった。

 二人の刑事を見送ったあと個室を出ると、先ほど案内してくれた女性の看護士が真希の肩を抱き並んでソファに座っていた。

 智也に気づいて立ち上がった看護士に「すみません。ありがとうございます」と声を掛けた。

「いえ。何もなければ安置所に案内します」

「すみません。その前に電話してもいいですか?」

 返事を聞く前に智也は胸ポケットから携帯を取り出した。

 携帯のアドレス帳から『実家』を探しだし電話を掛けると母親が出た。

「はい、小西です」

「母さん、智也だけど」

「はいはいどうしたの?」

「今真希とマンションの近くの市川病院って所にいるんだけど、すぐ来れるかな?」

「病院? どうしたの?」

「沙紀が……」何かが込み上がってくるのを必死で押さえた。

「あんた、沙紀さんになにかしたの?」なにかを察した母が心配そうな声を出した。

「沙紀が事件に巻き込まれて殺されたんだ」自分の声が震えてるのが分かった。

「あんた何いってるの」

「とりあえず今から市川病院にきてよ。一時間ぐらいで来れるだろ。詳しい話はこっちにきてから話すから」

「うん、分かった。今からすぐ向かうけど、木内さんの所にはもう連絡したの?」

「沙紀の所は今から掛ける」

「早めにしなさいよ」

「分かってる。じゃ待ってるから」そういって電話を切った。

 智也は沙紀の実家に電話を掛けるのが怖かった。それを母に見透かされた気がした。

 アドレス帳から『沙紀の実家』を探して電話を掛けた。どうやって伝えようかまだまとまっていなかった。何度かコール音がなったあと沙紀の母親がでた。

「はい、木内です」

「もしもし、お義母さんですか? 智也です」

「智也さん? どうしたの?」声に少し警戒心が滲んだ。今まで智也から直接電話することはなかった。

「今マンションの近くの市川病院にいるんですが、今からすぐ来れますか?」

「沙紀は……沙紀はどうしたの?」

 沙紀の母親は何か察したようだった

「沙紀は……事件に巻き込まれて、あの……死んでしまいました」そういってから智也は泣き出してしまった。もう押さえ切れなかった。

「死んだってどういうこと? ともっ……智也さん」

 電話の向こうで、沙紀の母親も泣き出したのが分かった。

「すみません……すみません」

 智也は泣きながら何度も謝った。電話の向こうでは叫び声を上げるかのように沙紀の母親が泣いていた。

「智也君? 智也君か?」母親に変わって沙紀の父親が電話に出た。

「沙紀が……死んで……死んでしまいました」智也は何度も声が詰まった。

「今どこにいるんだ?」

「すみません……すみません」

「いいから。なにがあったか分からないけど落ち着いて。どこに行けばいい?」

 智也は息を大きく吸って、呼吸を整えてからしゃべり始めた。

「僕たちが住んでるマンションの近くの市川病院に居ます」

「そこに行けばいいんだね」

「はい」

「じゃあすぐいくから。着いてからまたいろいろ教えてくれな」

「はい……すみません」また泣き出しそうになったのを必死でこらえた。

「じゃあまたあとで」そういってから沙紀の父親は電話を切った。

 智也は電話を切ってから携帯を胸ポケットに戻して、もう一度大きく息を吸ってから「じゃあお願いします」と看護士にいった。

「こちらです」五分ほど歩いたあと、案内してくれた看護士が部屋の前で立ち止まり二人を促した。

 薄暗い部屋に入ると、沙紀が簡易的な台の上で、白いシーツを肩の辺りまで上げ横になっていた。近づけば近づくほど、智也には寝てるようにしか見えなかった。

「ママ」ずっと下を向きながら肩を震わしていた真希が急に走り出し沙紀に抱きついた。

「ママ。ママ。起きてママ」泣きながら沙紀の腕を掴んで揺すった。

「真希、やめなさい」智也も泣きながら、真希を抱きしめるように止めた。

 真希は暴れるように智也の腕を振りほどき「離してよ。パパのせいじゃん。ママが死んだの全部パパのせいじゃん」と叫んで智也を睨んだ。

「なに……なにいってるんだ真希?」

 娘の言葉に智也は困惑した。

「さっきママ殺されたってパパ電話でいってたの聞いたもん」智也を睨むその目には、止めようも無いほど涙がこぼれていた。

「そうだ。ママは殺されたんだ。パパはママを守れなかった。ごめん」

「ちがう、パパがママを殺したの。パパのせいでママは殺されたの。パパがあんなことしなければママは死ななかったの」

「なんでママを殺したなんていうんだ」

 智也はなぜ娘がこんなことをいうのか理解できなかった。気が動転しておかしくなったとさえ思った。横になる妻を見て、また涙があふれてきた。

「パパが……パパが……」そういいながら真希は力なくその場に座り込んだ。

「真希」智也が駆け寄った。

「真希が……真希がちゃんとママのいうこと聞いてればママは死ななかったの。真希には止めれたのに……真希のせいでママが殺されたんだ」そういったあと、真希は大声で泣きながら沙紀にしがみつき「ごめんなさい……ごめんなさい」と何度も謝った。

 智也は混乱する頭の中で、真希が言ったことを必死で理解しようしたが何も分からなかった。

「沙紀、なにがあったんだ?」横になっている沙紀に話しかけた。


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