第1話 前日
「娘がさあ、なんか学校でいじめられてるかもしれないんだよね」会社の食堂で小西智也は声を落としてつぶやいた。
「俺は全然分からないんだけどさあ、少し前から嫁がもしかしたらって言うんだよ。女の勘らしいんだけど」
昼食時にお互いの子供の話になり、味の薄い醤油ラーメンを啜りながら智也はなんとなく言ってみたが、同期の下田と後輩の横沢は予想以上に驚いた顔をした。
下田は驚いた後、冷房が弱いといいながら汗を拭き、横沢は崩れていない前髪を直した。
「真希ちゃんが、ですか?」横沢はわざとらしく心配そうに訊いた。
「ほかに娘なんかいないよ。俺の大切な一人娘の話だ」
「真希ちゃんがなあ。そうかあ。最近家で元気ないの?」下田が心配そうに話す。
二人は休日のゴルフのあと、何度か智也の家にお世話になっている。
「いやさ、全然前と変わんないし学校の話もするしさ、俺は考えすぎだって言ったんだけど。嫁がね、いじめじゃないにしてもなにかあるって言うんだよ」
「好きな人でもできたんじゃないっすか?」横沢が茶化すように話した。
「全国の娘のいるお父さんはなあ、そういう冗談が一番許せないんだよ」智也は横沢を睨みつけ、箸に付いた味の薄い醤油ラーメンの汁を飛ばした。
「ちょっとやめて下さいよ。あっ、ほら、シャツに付いちゃったじゃないっすか」
シミを必死に拭く横沢を軽く笑った後、智也は少し真面目な顔をした。
「もしもだよ、もしも娘がいじめられてるとしてさ、こうなんていうの、父親である俺はね、学校とかに乗り込んだりしたほうがいいのかな?」
下田は腕を組んで首を捻る。
「いじめの度合いにもよるだろうけどさ、暴力振るわれたりお金取られたりみたいなひどいやつなら、そりゃあ学校まで行ったほうがいいと思うんだけど、物隠されたり軽く無視みたいないたずら程度ならさ、どこの学校でもあるんじゃないかな」
下田の言葉に智也は眉間にシワを寄せた。
「じゃあさ、もしかわいい娘が物隠されたり無視されてたとしてもほっとけっていうわけ?」
「そういうわけじゃないけど……」
下田が困ったような顔してるそばで、横沢はカツカレーの最後の一口を食べた。
「まあ別に娘がいじめられてるとは思ってないけどさあ。お前んとこはそういうのないの?」智也が下田に聞いた。
「うち? うちの三人のバカ息子のこと? ないない。あいつらは唐揚げさえ食ってりゃ幸せなんだから。ほっといてもタケノコみたいにぐんぐん育つよ」
お前もいつも唐揚げ定食じゃないか、という言葉を智也は呑み込んだ。
「俺もそういう心配してみたいなあ。もう一人ぐらいがんばろうかな」下田はコップに入った水を一気に飲み干し「ホント女の子ってうらやましいな」と口癖のようになっている言葉を口にする。
「真ん中の次男ぐらいが将来女になるかもしれませんよ」
カツカレーを食べ終えた横沢がそういうと、下田は「一人ぐらいそうなっても面白いな」と返した。
智也は小学六年生で丸坊主の、下田家次男の女装姿を想像して笑った。
「まったく。一人娘は心配事ばっかりだよ。」
智也は最後の麺を啜った。下田はとっくに食べ終わっている。
「まあ真希ちゃんはかわいいから嫉妬されてるだけですよ。だからいじめられてても今だけだと思いますよ。中学からは人生楽勝モード突入ですから」
「人生楽勝モードってなんだよ」
智也の言葉を無視して横沢は続ける。
「ホント、奥さんに似て良かったですね、真希ちゃん」
「どういう意味だ」そう言いながら箸に付いたラーメンの汁を飛ばした。
「ちょっと。それ卑怯ですよ」
不満そうな顔でシャツを拭く横沢を笑っていると、下田が腕時計を見て「そろそろ行こうか」とつぶやき、三人は食器を片づけはじめた。
食器を規定の場所に置き二人と別れた後、智也は自分の部署に向かった。デスクに積まれている書類を確認し、パソコンを開き残りの仕事チェックした後、妻の沙紀に『十九時には帰る。よろしく』とメールした。
昼食後、残りの仕事量で退社時刻を予測して、沙紀にメールするのが約束事になっている。あまり時間を外さない自信はあるが、急な仕事が入ると十七時頃に連絡をするのも夫婦の決まり事だった。
智也は自身が働く大手とはいえないこの物流関係の会社に感謝している。あまり給料が多いとは言えないが、家族を養える程度は貰えて、過度の残業も無ければ長期の出張もないような、誰かが聞くと妬まれそうな環境で働けていることを有り難くおもっていた。
コーヒーを飲みそろそろ仕事を始めようとした時『何か食べたい物はありますか?』と沙紀から返信があった。
智也の妻である沙紀は専業主婦をしており、付き合っていた時の名残でメールの時だけ敬語になるという特徴がある。
たまに来るこのメールに智也は少し困っていた。すぐに思い付けばいいが、昼食直後の満腹感で夜に食べたい物を考えるのは中々難しいからだ。
少し考えてから『なんでもいいよ』と一度文字を打ち、前もそう返したなと思い出し文字を消した後『昼ラーメンだったから白飯食べたいな。焼き魚とか?』と返すと、すぐに『了解です』と返事がきた。
何を食べるか聞いてくれるのは有り難いが、今日の晩ご飯は何か考えながら帰る楽しみがなくなるのと、晩ご飯が決まってると家に帰る道中で焼き肉やカレーの臭いを嗅ぎ、昼のメールを少し後悔してしまう時がある。不満ではないし毎日料理をしてくれて大変なのは理解しているが、できれば聞かないでほしいと、少し思っていた。
急な用事も入らずほぼ予定通りの十八時過ぎに仕事を終え、明日の業務を軽く確認した後「お疲れさま」とまだ残業をしている者に声を掛け退社した。
十分程歩きながら『いまから帰る』とメールして、水道橋の駅から電車に乗り込んだ。
電車が線路の安全確認で少し止まったこともあり、自宅のマンションがある市川に着いたのは十九時ちょうどぐらいだった。
改札を出て電話をしようと携帯を開くと『ビール買うの忘れました。買ってきて下さい』と沙紀からメールがきていた。面倒くさいと思いながら本来の目的である電話を掛けると、娘の真希が出た。
「もしもし」
「もしもし真希か、ママは料理中?」
「うん、今ご飯作ってるから出れないみたい」
「電車が少し止まっててさあ、今駅に着いたから後少しでつくって言っといてよ」
真希が携帯の向こう側で少し大きな声を出した。
「ママー、パパ今駅着いたから後少しでつくって……もしもしパパ、お酒買ってくるの忘れないでって」
「はあい」じゃあね、と電話を切ろうとすると、真希が小さな声で「お菓子買ってきてね」とお願いしてきた。「了解しました」そう返して電話を切った。あまりお菓子は食べさせないことになっているが、智也は真希に甘い自覚がある。
コンビニでいつのも缶ビールとちょっとしたおつまみをかごに入れ、そういえばと思いポテトチップスの薄塩味と名前も知らないチョコレートの付いたビスケットを追加した。
マンションに着き、七階までボタンのあるエレベーターを三階で降り「ただいま」とドアを開けると「お帰りなさい」と真希が玄関まで迎えにきた。最近は智也が帰ってきても、声を掛けるまでテレビを見ながら父親の帰宅なんて興味ない娘の出迎えに喜んだが、コンビニの袋からお菓子だけを取り出し「ありがとう」とつぶやいてから、いつもの定位置であるテレビ前のソファに座った。そういうことかと理解したが、それでも智也は悪くない気分だった。娘の機嫌を取るために買ってきたお菓子なので目的は果たしている。
今にもお菓子を食べてしまいそうな真希の勢いに「ご飯食べてからにしなさい」と沙紀が注意した。
リビングに入ってビールとおつまみの入った袋を沙紀に渡しながらもう一度ただいまというと、沙紀がお帰りなさいと返しながら少し睨んできた。それを苦笑いで流して「お風呂入ってくる」声を掛けてから、書斎兼夫婦の更衣室に入りスーツをハンガーに掛け、タンスから寝間着一式を取り出して浴室に向かった。
浴室に向かう途中「後少しでご飯できるからね」と沙紀に声を掛けられ「すぐでるよ」と返し脱衣所に入った。
いつもより少し早めにお風呂を出て、もう一度軽く頭を拭きながらリビングに入った。
「真希、コップ三つと冷蔵庫からお茶出して」
母親に少し強めの口調で手伝いを頼まれた真希が、ソファから重い腰を上げて食器棚からコップを取り出しているが、首から上はテレビの方を向いている。
ダイニングテーブルの上には智也の希望した焼き魚であるホッケの塩焼きと、追加でポテトサラダとイカの刺身が並んでいた。
「美味そうだ」昼の時点でどうなるか分からなかったが、退社する頃には焼き魚が楽しみになっていた。
「美味しそうでしょ。鯖にしようか迷ったんだけどこっちにして正解だったんじゃない?」
「大正解だ」白飯をお盆に乗せて運んできた沙紀の質問に智也は笑顔で答えた。
「真希、ビール一つ持ってきて」冷蔵庫からお茶を取り出そうとしている真希にお願いした。
「一つ?」と聞いてお茶とビールを冷蔵庫から取り出し机に置いてから真希も席に着いた。
お盆を片づけてから沙紀も真希の隣の席に着き「じゃあ食べようか」智也の声とともに、三人は各々いただきますと手を合わせた。
晩ご飯を食べながら真希が毎週見ているクイズ番組を三人でひとしきり楽しんだ後、沙紀が口を開いた。
「帰ってきてからずっとテレビ見たりゲームしてるけど、今日宿題は無いの?」
「寝る前にする」真希はテレビを見たまま答える。
いつもの妻と娘の会話を聞きながら、智也は昼の会社でのやりとりを思い出した。
「最近学校はどうだ?」言葉を口に出した後、もうちょっと気の利いた聞き方をすれば良かったと少し反省した。
「学校? ……普通」
真希はまだテレビの方を向いている。智也には横顔しか見えず表情からは何も読みとれなかった。
「まあ普通が一番だよ」
「なによそれ」
智也の返答に沙紀が苦笑いを浮かべた。妻は夫が娘から何を聞き出そうとしてるのか察したようだった。
「五年生ぐらいから授業難しくなってくるんじゃないか?」
「四年生の時と別に変わらないけど」
クイズ番組が終わり、テレビでコマーシャルが流れ始めたのをきっかけに、真希は軽く座り直して本格的にご飯を食べながら家族と会話する気になったようだった。
「変わらないって事はないだろう」
娘のそっけない返事に智也は少し落ち込んだ。最近年頃の娘との会話が上手く出来ない自覚があったからだ。下田に「うらやましい」と言われたのを思い出した。
「難しくなったけど先生の話し聞いてノートもちゃんと取ってるから大丈夫」真希がホッケの骨を取りながらいった。
「宿題もちゃんとしないとね」
「寝る前にするってば」
母親の小言に真希は不機嫌な返事をする。智也も真希の宿題について注意するが、あまり学業の事で心配はしていない。たまに見せて貰うテストの点数とこれまでの通知表から今のところ安心している。
「今日はどんな授業したんだ?」空になったコップにビールを注ぎながら訊いた。
「今日? 今日はねえ……算数で三角形の面積の計算やった」
「底辺×高さ÷2とかそういうやつ?」
「超簡単。すぐ覚えたもん」真希は得意げにいった。
智也は他の少し難しい公式も思いだそうとしたがすぐに止めて、妻に次のビールをお願いした。
「後ね、体育で跳び箱やったんだけど、六段飛べたの真希とほかに二人だけしかいなかったんだよ。すごいでしょ」
「すごいなあ。男の子も飛べないやつ飛んだんだ」
智也は六段の跳び箱の高さを想像したがあまり上手くいかなかった。
「男子と女子は高さ違うし」真希が少しバカにしたようにいった。
「えっ、今はそうなの?」智也は自身の小学生時代を思い出しながら沙紀に訊いた。
「私の時も男の子と女の子は違う跳び箱だったけど。まあパパの時とは時代が違うから昔は一緒だったんじゃないの」
沙紀はおどけたように肩をすくめて、空のコップにビールを注ぐ。
「二つしか変わんないだろ」口を尖らせて睨んだ後、ビールを注ぎ終えた妻にありがとうとつぶやいた。
「真希は足も速いし運動出来るんだからやっぱりなんかクラブに入ったほうがいいんじゃないか?」
智也は真希に何度かスポーツ系のクラブ活動を勧めているが、そのたびに断られる。
「ヤダよ、面倒くさい。帰るの遅くなっちゃうし仲良い子いないもん」
「もったいないと思うんだけどなあ」
智也は娘のがんばる姿を観客席で見るという妄想をしながらビールを飲んだ。
「試しになんか入ってみたらいいんじゃない。どうせ学校終わったらすぐ帰ってきて手伝いもしないでテレビ見たりゲームしてるだけなんだから」最後のポテトサラダを口にしながら沙紀がいった。
「トイレ掃除したじゃん」真希が箸を止めて母親に反論する。
「今日だけでしょ。明日から毎日手伝いしてくれるの?」
「するからクラブは入んない」
不機嫌を誇張するような声でクラブに入るのを拒否した娘に、智也は少し違和感を覚えたが、いつもこんな感じかとビールを流し込んだ。
「ああそう、じゃあ明日からよろしくね」
機嫌の悪くなった娘に守られない約束を取り付けた沙紀は「ごちそうさま」とつぶやいて食べ終わった自分の食器を片づけ始めた。
もう話しかけないでと言わんばかりに黙々とご飯を食べる真希に、最初の目的を思い出した智也は少し間を空けて口を開いた。
「そういえばさあ、絵梨佳ちゃんはクラス違うんだっけ?」
絵梨佳は二年前の小学三年生の時真希と同じクラスになり、そこからたまにお互いの家を行き来するくらい仲のいい友達だ、と智也は認識している。前はよく話題に上がってたが最近名前を聞かない。妻の心配はそういう所からきてるのかもしれないと思った。
「うん、違うクラス。真希は三組で絵梨は一組」
「そうかあ、仲良しだったのになあ。絵梨佳ちゃんと同じクラスのほうがよかったな」
真希は父親の声が聞こえないかのようにコップに入ったお茶を飲んだ。今日のうちに機嫌を直すのは難しそうだと智也は思った。
「絵梨佳ちゃんとは今も遊んだりしてるのか?」
「クラス違うからあんまり遊ばないよ。絵梨、なんかクラブ入ったみたいで忙しそうだし」
そういうもんかと考えようとしたが、女同士の友情なんていくつになっても理解できるわけないな、と考えるのをやめた。
「絵梨佳ちゃんの入ってるクラブに一緒に入ればいいじゃない」
智也が言おうとしたことを沙紀が口にした。
「入らないっていってるじゃん」
娘の不機嫌な返事に「はいはいすいません」と聞こえるか聞こえない程度の声で沙紀は答えた。智也は自分が口に出さなくてよかったと安心した。
「まあクラブのことは好きにしたらいいよ。嫌がってるんだからママもしつこいと真希も怒りたくなるよ」
あなたが言い出したことでしょ、といいたそうな目で沙紀が智也を睨んだ。娘に嫌われたくない父親そのまんまの自分を少し恥じたが、智也に変える気はない。
また話が逸れたなと思い、最後のイカの刺身を口にしてビールで流し込んだ後、ホッケを食べ終わりそうな不機嫌な娘に話しかけた。
「五年生になって新しい友達は出来たのか?」
最後のホッケの身と白飯を口に入れてから、真希は自分の食器を片づけ始めた。
「新しい友達じゃないけど、二年生の時に同じクラスで仲良かった優美とまた同じクラスになった」
智也はあまり真希の友達の顔と名前が一致しない。その分母親はすごいなと、昔から真希と二人で話してるときの沙紀を少し尊敬している。
「優美ちゃんと一緒なんだ。あの子明るくておしゃべりだから楽しそうなクラスね」空になった食器をまとめながら沙紀が会話に加わった。
「まあね」真希はあまり楽しくなさそうにいった。
当たり前かのように話しに加わった沙紀に智也は感心した。優美という子の情報を頭の中で探したが何も出てこなかった
「そうか。それじゃ――」
「ごちそうさま。ママお菓子食べていい?」
智也は会話を続けようとしたが、真希が遮った。
「ちゃんと歯磨きしなさいよ」
「うん」そういいながらいつもの定位置であるソファに戻りポテトチップスの袋を開け、先ほどから始まった男性アイドルグループが司会を務めるバラエティー番組を見始めた。
まだ話したい事もあったがまあいいか、と智也は沙紀の持ってきたさきイカの袋を開けながらテレビに目を向けて、沙紀は先ほど集めた食器を洗い始めた。
智也はやはり妻の考え過ぎだと思っていた。食事の途中、たまに始まる親子喧嘩で娘は機嫌を損ねてしまったが、学校であった事を笑顔で話し友達もいるようだと、安心していた。
食事が終わりたいした会話もなく、三人で女性弁護士が活躍するドラマを見た後「もう十時になるから宿題して寝なさい」と沙紀が娘にいった。
真希はこのあと見たい番組があると「あと少しだけ」と十一時までテレビを見ることもあるが、この日は「はあい」と軽い返事をして、お菓子を片づけ歯を磨いた後「おやすみなさい」と自分の部屋へ入った。
智也はチャンネルをニュース番組に変えた。テレビではいつものように不祥事を犯した政治家が会見を開いたり、芸能界の恋愛事情を流している。
「やっぱり前と変わんないよ。真希」
娘の部屋には聞こえないように気をつけながら話し始めた。
「五年生に進級して仲良かった絵梨佳ちゃんと離れちゃったからちょっと戸惑ってただけだよ。今は友達も出来たみたいだし。優美ちゃんだっけ? 俺知らないけど」
「まあ私も別に絶対ってわけじゃないんだけどね。なにもないに越したことはないし」
「学校の話しも楽しそうにしてたじゃん。考えすぎだって」
「だけどニュースとかでたまに見るじゃない。親には心配かけたくないから家では明るいとかさ」
テレビのニュースではマイクを向けられた政治家が無言で車に乗り込んでいる。
智也は缶ビールを飲み終えて、安い二リットル入りの焼酎で水割りを作りながら話しを続けた。
「そもそも真希がいじめられたりするわけないと思うんだよなあ。元々明るいし友達もいるし、なんたって昔からスポーツが得意なんだから。スポーツが得意でいじめられてるやつなんて見たこと無いよ」
「女の子は分かんないわよ」沙紀が自身の過去を思い出すようにつぶやいた。
「男の子と違って繊細なんだから。学年で一番カワイイ女の子が無視されたりするんだよ」
「嫉妬とかそういうこと?」昼に横沢がいってたことを思い出した。
「そんなのもあるんじゃないの」
「沙紀はさあ、いじめじゃないにしてもそういうことなかったの?」
「私? あったかなあ……」少し考えたあと「私は学年で二番目に可愛かったから大丈夫だったかな」と笑った。
「それはよかったですね」嫌味っぽくいいながら智也も笑い「真面目な話ししてるのに」そういってから水割りを飲んだ。
「まあなんかあれば学校にでもどこにでも乗り込んでさ、大事な一人娘ぐらい守るよ」
「あら、頼もしい」沙紀が両手を胸の前で合わせて笑った。
話が変わり、沙紀が今日あった出来事を話し始め、智也はテレビに目線を向けながら適度に相づちを打った。
一通り話し終わった、沙紀が席を立ち自身のコップを片づけた。
「じゃあそろそろ私もお風呂にでも入ろうかな」
時計を見ると十一時をすぎていた。
「おれもそろそろ寝ようかな」
残った水割りを流しに捨てて脱衣所で歯を磨き、お風呂に入っている沙紀に「おやすみ」と声をかけてから寝室に入った。
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