第二章 ウェイ オブ ザ ゴッドハンド

第6話 ルールの守って安心安全な逃亡生活?

 キーンコーンカー……


 今日も今日とて授業終了のチャイムが鳴り終わる前に、僕こと後藤大介は教室から飛び出した。


「また後藤が逃げたぞ!」

「追えー!」


 同時にクライスメイトが叫びながら追いかけてくる。

 振り返ると他のクラスの生徒と合流して、とんでもない数になっていた。相変わらずの追手の多さにげんなりしつつ、逃走を再開する。


 僕に(主に僕の手に)願いを叶える力があるという噂が学校内に流れてからもう二カ月近く、そしてその噂を決定づけたあの日からも、もう三週間以上たっていた。

 インターハイシーズンを迎えて、追手の面子も運動部系のゴツイ連中が多くなっている。


「頼む、後藤!悲願の県大会出場のためにお前の力を貸してくれ!」

「十年連続初戦敗退のうちの方が深刻よ!お願い、今年こそは勝たせてー!」


 現実味のある目標ということなのかもしれないけれど、微妙に願いが小さい気がするのは気のせいだろうか?

 どうせなら全国大会優勝くらいは言ってほしい気もする。


 とはいえ、実はそんな願いを叶える力なんて僕には全くなかったりする。


 僕に力がないのは天使と悪魔の保証付きなのだが、そのことを証明する方法がないため『逃亡機能付きドラゴンボ〇ル七個セット』の地位を今でもほしいまま――いや全く欲しくない地位なのだけれど――にしているというわけだ。


 片っぱしから願いを叶えて欲しい人に触っていって、力がないこと証明してみればどうか、だって?

 実はそれ、もう試していて、しかも失敗に終わっていたりする。


 さっきの追いかけて来ていた人たちを思い出してほしい。

 そう、願いが微妙に小さいのだ。

 それは他の生徒も同じで、ある生徒などは「今度の小テストで三十五点以上とれますように(ちなみに百点満点)」という願いだった。


 つまりハードルが低いので結果的に願いが叶ってしまうのだ。

 さらにやっかいなことに、人間というものは一度思い込んだり、信じきったりすると今度はなかなかそこから離れられなくなる、ということだ。

 難しく言ったが、ようするに願いが叶わなかったとしても「そんなこともあるか」とか「今回は調子が悪かったんだね」とかで済んでしまうのである。


 そんなこんなで、休み時間ごとの追いかけっこは学校の恒例行事として定着してしまったのだけど、それとともにいくつかのルールが取り決められた。

 その一つが、


「この時間の逃げ場所は……」

「北棟三階の視聴覚室だぞー」

「さんきゅー」


 ゴールが作られたことだ。

 それぞれの休み時間ごとに設定された部屋に追手に捕まらずに逃げ込めば、その時点で終了となるようになった。

 このおかげで僕はトイレに行くことも、昼ごはんを食べることもできるようになった。


 ……追いかけられないのが一番だけどね。


 後、捕まった時でも一度に触るのは三人までとか、追手は同じ部活動から二人までとか、トイレでの襲撃禁止とか、雨の日は滑ると危険なので中止とか、いろいろなルールが――僕の知らないところで――決められていた。

 ちなみに校長先生の不用意な一言が原因のために、先生たちは事の成り行きを見守っている――と言えば聞こえがいいが、実際には放置されている状態だった。

 これについては精神衛生上、参加されないだけマシだと考えるようにしている。


「はあ、はあ……まさか北棟への渡り廊下が全部封鎖されているなんて……うかつだった」


 そしてルールができたからといっても楽ができる訳もなく、今も僕は中庭にある木々の茂みに身を隠していた。

 どうやら運動部が結託してゴールへの正規ルートを全て塞いでしまったようだ。

 最近は追手に組織だった動きが見られるようになってきた。

 生徒会役員が参謀を務めているという話も、あながち嘘とは言い切れない。


「おにょれ生徒会め、いつかふくしゅーしてやる」


 毒づきながら、どこかに抜け道がないか目を凝らす。

 すると、一か所窓が開いているところがあった。


「あそこは確か……」


 ここ二カ月の間、校内を走り回ったおかげでどこに何があるのかは大体は把握できていた。

 その頭の中の校舎地図と照らし合わせると、理科室かなにかの特別教室だったはずだ。


 冷静に後から考えれば、罠以外の何物でもなかったと思う。

 でも、逃げるのに必死で気付かなかった僕は、そこから校舎に入ろうと窓枠に足をかけた途端……

 

 ドオオオォォォン!!!!


 ものすごく大きな音がしたと同時に目の前が真っ白になって、僕は意識を失った。

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