第4話 迷惑料は情報で支払え
「え?人違い?」
「まことに申し訳ありませんでした!結論から言いますと後藤様は私たちの探している力の持ち主ではありません」
つまりは僕の噂を聞いたアクマ男の部下たちがよく調べもせずに僕を連れて来た、ということらしい。
とりあえず気持ちが悪いので様付けはやめてもらい、天使や悪魔について詳しい話を聞くことにした。
「何なりとお聞きください!」
「ずいぶん低姿勢ですね……」
「こちらの不手際でご迷惑をおかけしたのですから当然です!」
アクマ男なりのポリシーでもあるようだ。
若干の暑苦しさを感じながら僕は質問を開始した。
「悪魔には名前がないと言ってたけど、部下の人たちにはあるんですか?」
「そこなの?一番の疑問ってそこ!?」
予想していた質問と違ったのか、お笑い芸人並みにきれいにずっこけるアクマ男。
僕の方も問い返されて(やっちまった!)と思ったけど、今さら言いなおすのもカッコ悪いのでそのまま続けることにした。
「あれはこちらの世界でのコードネームみたいなものだよ。使っていても変じゃないようによくある名前にしている」
いつの間にか口調も元にもどり、アクマ男は説明を進めていく。
「だから人が多い場所では分かりやすいよう片言風にタナァカ、サットゥー、スゥズキと呼んでいるね。ちなみに私は
「なんで一人だけ雅なお名前なんですか!?しかも絶対『よくある名前』じゃないです!よく考えたら、最初の自己紹介の時にそう名乗っていればよかったんじゃないですか?」
「おお!確かにその通りだね!」
大発見だとばかりにポンと手を打つアクマ男改め九条院(仮)。
ただでさえ脱線している話が腰を折られてもうぐだぐだだ。
僕は大きく深呼吸をして気を取り直し、次に進めることにした。
「そもそもあなたたちは何をしに来ているんですか?」
その問いに九条院(仮)は腕を組むと、唸り声をあげて考え込んでしまった。
「……ぶっちゃけると権力争いだね」
しばらくして出てきた答えはとんでもないものだった。目を丸くする僕に九条院(仮)は説明を続けた。
「私ら悪魔もあの子たち天使も同じ世界に住んでいるんだけど、どちらが主導権を取るのかで対立していてね。直接争うと被害が大きくなるから、人間を使って勝負することになったんだよ」
上から目線と言うかなんというか、ものすごく失礼な話である。
「人間を使って勝負って具体的にはどういうことをするんですか?」
「元々はランダムで選ばれた人間にこれまたランダムに選ばれた力を与えて、その人間がどういう行動をとるのかで決めていた。良いことをすれば天使の勝ちで、悪いことをすれば悪魔の勝ち、といった具合さ」
失礼どころじゃなく実験動物扱いだった。イラッときたが、ここは我慢して気になることを聞くことにした。
「今は違うんですか?」
「うん。その方法だと力を与えられた人間の置かれている環境で取る行動がほぼ決まってしまう。だからいつの間にか自分たちの都合のいい行動をとるように、それぞれがちょっかいをかけるようになった。悪魔の誘惑とか天使のささやきというやつだね」
「僕ら人間にとってははた迷惑以外の何物でもないですね。あ、誰にどんな力が与えられているのかは分からないんですか?」
「力のあるなしだけなら私が後藤君にしたようにじっくりと調べれば分かる。でも実際に使われてみないとどんな力なのかは分からないんだよ」
天使や悪魔も万能ではないみたいだ。
「だから僕が間違われた訳なんですね」
「ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」
僕の皮肉に土下座しそうな勢いで九条院(仮)が頭を下げた。ちょっと意地が悪かったかな?少しだけ罪悪感。
「ところで本当の力の持ち主はどこにいるか分かっているんですか?」
僕の問いに九条院は首を横に振った。
「それが全然分かっていないんだ。これまでは力が与えられてからだいたい一週間くらいで見つけられているのに、今回は二年以上も発見できていないんだよ。だから急きょ人員を増やして探し回っている状況だね」
「もしかしてその増やした人員っていうのは、九条院さんの部下とか」
「そう。天使のあの子とか、だね」
僕の言葉を引き継いでそう言った九条院(仮)は眠っている天使ちゃんに目を向けた。
寝息は聞こえないが、胸元がゆっくりと規則正しく上下しているところをみると相変わらずぐっすり眠っているようだ。
「彼女はどうなるんですか?」
ふいに悪魔に捕まった状態である彼女のことが心配になった。
「まずはこちらの味方になってもらえるように説得するかな。あの子は生まれたばかりだから上手くいく可能性が高い。それがだめならいわゆる人質として、天使側との交渉する時のカードになってもらうかな」
「スパイ映画みたいですね」
「実際似たようなものだからね。ただなー、私らと違って天使側は基本体育会系の脳筋集団だからなー。「悪魔に捕まるような者は必要ない」とか言って交渉にならないかもしれないね」
ちょっと待て、なんだか想像できない単語が出てきたぞ。
「理解できないって顔をしているけれど、悪魔は口八丁で上手いこと言って誘惑するのに比べて、天使は「我こそ正義、悪魔はやっつけろ」ドカーン!!っていうノリの連中が多いんだよ」
それはもはや脳筋というよりただのクレイジー野郎だと思う。
「天使側に引き取られなかったらどうなるんですか?」
「人間界に放置されて野良天使になるか、本格的に調教して悪魔にされるか、と言うあたりかな」
「………」
「調教といっても別にエロい事はしないからね」
「そそそそんなこと考えてません!」
真面目に考えていたのにいろいろ台無しにされてしまった。
……本当に真面目に考えていたよ!
とにかくこのままでは天使ちゃんは無事では済まないようだ。
「なんとか彼女を天使側に返してあげることはできませんか?」
「悪いけれど今回の失敗で私らも罰を受ける可能性がある。せめてあの子を連れて帰らないとどんなお仕置きをされるか分かったものじゃない」
「………」
「お仕置きといっても別にエロい事はされないからね」
「その心配は全くしてないです」
即答する僕につまらなさそうな顔をする九条院(仮)だったが、そんな腐った趣味持ちの女子の知り合いもいないのだから仕方がない。
それ以前に女子の知り合いなんていないけどね!
しかし、困った。そうなると天使ちゃんを助ける方法がない。
「悪魔、負けた、すぐ伝わる。私、帰れない」
声のした方を向くと、天使ちゃんが寝ていた箱に寄りかかるようにして立っていた。僕が悩んでいる間に目が覚めていみたいだ。
ってしゃべっている!?
「思ったより早く目が覚めたね。そして思っていたよりも早くしゃべれるようになったね。……ふむ、私らや後藤君との接触で、成長が速まっているのかな?それとも……」
驚いたのは九条院(仮)も同じだったようだけど、そこはやっぱり悪魔だ。すぐに落ち着いて分析していた。
「私のこと、どうでもいい。彼、能力者、違う、本当か?」
真剣なまなざしで九条院(仮)を問い詰める天使ちゃん。
「本当だよ」
「そうか、それなら良い」
そう言うと彼女は僕にとびきりの笑顔を向けてきた。
思わずドキンと大きく跳ねる僕の心臓。
落ち着け、彼女はただ天使の役割を果たしているだけで、僕のことが好きになった訳じゃないはずだ。
それにしても勘違いもむなしいけれど、こうやって自分に言い聞かせるのも結構むなしいね。
また一つ勉強になった十五の夜だった。
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