第5話 よし、戦争だ
勝ち誇って|陸玖(りく)を見ては笑っていた七海もお化け屋敷が迫るにつれて言葉数が少なくなり始めた。
対する陸玖は口数が増えていく。しかもそのどれもがこの辺りの都市伝説のようなばかりだ。
「……入る前に言っておくけど……ここ、本物も出るらしいから。霊感が強いとかなら怖くて無理って言ったら止めたげるけど?」
「あたしの分のチケットもあるんでしょ? 行くわ……それに、怖くないし」
「一応、止めたから」
さぁ、これからが楽しみだ……そう思いながらファストパスによってさっさと中に入る。
「……何だ、割と普通の通路なんだな……」
「右からお化けが出てくる、従業員だから怖くない。毎回同じ場所、作りもの……ひゃぁああぁっ! 違うぅ! 何で左から来たのぉ!? 右でしょぉっ!」
「……お化けにそんなこと言っても……」
どうやら七海は下調べして来たらしい。しかし、思う通りに行かなくて悲鳴を上げて薄暗い中で逸れないように七海的にはバレないように陸玖の服を引いている。
「ぜ、全っ然怖くないね。こういうのは、子ども騙しぃっ!」
「え? 子ども魂?」
「え、え? そんなのネタバレにはなかったよ? 変なこと言わないで?」
「いや、今君が……」
「あたしが言ったの? 乗っ取られたの? やっぱり本物がいるの?」
「ふふふふふ……」
「騙したな!」
混乱する七海が面白くて笑う陸玖。それに対して憤慨しながら進んでドッキリに引っ掛かる七海。従業員にとってもやりがいのある客だろう。
「そ、そうだ……エスコートさせてあげるよ。慣れておくに越したことはないよ?」
「……仕方ないなぁ……」
薄暗くてよく分からないが口調だけで生暖かい視線を向けられていると感じた七海。ムカつくが、これ以上狼狽えて笑われる方が嫌だったので手を引かれるがままに連れて行かれて……
「あ」
「ぃやぁっ!」
罠に引っ掛かって悲鳴を上げた。
「きょ、今日の所は……引き分けにしてあげる……」
「そうだな……」
二人は呻くように観覧車の中でそう言った。
お化け屋敷の後、勝ち誇っていた陸玖に七海がもう1セットのファストパスを使って別タイプのコースターに乗らせて2勝1敗に持ち込もうとする。しかし、それはお化け屋敷と一緒にリニューアルされ、お化けにジャックされたという設定のCGとの合体作だった。
そんなことなど知らずに慣れたと強がる陸玖とお化けが出るとは思っていなかった七海が悲鳴を上げながら抱き着き合うなどのイベントを終え、現在に落ち着いていた。
「はー……余裕過ぎたわー……本当に子供騙しだった……」
「全くだな……コースターなんて安全が保障されてる物だし全然だった……」
互いに認めないつもりかという視線を向ける。けれども気分は悪くなかった。良いライバルが出来た、そんな満足感が二人には芽生えたのだ。
そして、彼女と彼は戦いを重ねる。
時に映画館で、カップルシートの割引を適応させて
「ん~……ホラー系が怖いなら怖いって言ったらどうかね? ん? ん?」
「べ、別に怖い訳じゃないわ。ただ、何でお金払ってわざわざ怖い思いしないといけないのかと思ったのよ! あぁそう言えばドMだったわね! ド変態!」
「お前今自分で怖いって認めたけどな」
「ん? ねぇ、今泣きそうになってなかった?」
「うっさい……邪魔すんな……今、良いとこなの見てわかんねぇのか……」
「あれあれ~? こんな恋愛もので泣いちゃうんだ。ぴゅあだねぇ? さっきゾンビもの見せてきたお返ししてあげるよ~?」
時に長期休暇前の計画時に
「海が良いに決まってんだろ! お前七海とか言う名前の癖に何で山派!?」
「あんたこそ陸玖でしょうに! 何で海派!?」
「海が良い事証明してやる! 来週末開けておけ、目に物見せてくれる……」
「ふん、そっちこそ再来週、山が最高だって山頂から叫ばせてやる……」
はたまた学食で、
「はぁ……うどん派ですか、やっぱり、あなたはそうなんだねぇ……」
「お前、わざとじゃないだろうな……? 何っで、そば……?」
「しかも肉うどん……」
「そっちは海鮮天ぷらそば……」
「聖戦だこのやろーこれとこれ交換だー」
「上等だこのめろーあ、取り過ぎだろ!」
ついには自宅で、
「……ふふふふふふふふ……ここまで、喧嘩売ってるんだよねぇ陸玖ぅ……?」
「まさか、七海、お前……ベッド派……?」
「そうだよ布団派。良く気付いたねぇ……ご褒美に永久に眠るがいい! せめてもの手向けに最期はベッドで寝かせてやる!」
「上等だ!」
彼と彼女の争いは続いた……
そして、ある日兄妹姉弟と何故か諸角が一堂に会し、報告がある。
「俺と七海……付き合うことになった」
「……は?」
「最初は敵だと思ってたけど……足りない部分を補い合えるし、新しい景色が見れたんだよ」
「「ねー?」」
ウザかった。付き合い始めた切っ掛けは諸角の言葉なのだが、わぁい、おめでとう! 何となく殴るね? 程度に諸角はムカついた。
「……で、何で俺を呼んだ?」
「あぁ、それはですね……俺らですと止められなさそうな争いが……」
無駄に特選とか付いている紅茶と抹茶チーズケーキをご馳走するから相談に乗ってくれと言われて呼び出されていた諸角に陸玖はアイコンタクトを送った。視線誘導に従った先には美弥子が寒々とした笑顔を浮かべている。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんはその女狐に騙されてるんだよ? 待ってて、すぐにその泥棒猫の化けの皮を剥いで三味線作ってあげる♡」
「何言ってるんだ美弥子……君の、兄と言う愚劣な存在が姉さんを騙してるんだからね? ……ごめん、やっぱり今すぐ磨り潰していい?」
「やってみなよ」
「……ココじゃ狭いし」
「表に出よっか♥」
この後、諸角がどうしようもないブラコンとシスコンの争いを処理する羽目になった。
正邪の理非 迷夢 @zuimokujin
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